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[連載][旧ユーゴを歩く2]
(特集)一族の想像力
前文 
特集「一族の想像力」をお届けする。
いまは政治の時代だ。みなが政治を語っている。文学も政治に呑み込まれている。しかし本来は、文学の言葉にはそんな熱狂を断ち切る力があったのではなかったか。そんな思いを込めて、長編と連作ばかりの反時代的なブックガイドをつくることにした。
タイトルは「一族の想像力」としたが、ここで「一族」は家族、血族などと言い替えてもよい。正確には血縁にこだわったわけでもない。大事なのは、公的な大きな時代のうねりを、私的な個人のつながりから捉え返すような想像力だ。そんな作品群を、一九世紀以降に限定して二〇選び抜き、斯界の専門家に紹介を依頼した。
選出は編集部が行った。公平性や多様性に配慮したが、素人の作業なので遺漏はあるだろう。決定版ではない。けれども結果として、一九世紀初頭のイギリス人女性作家の作品に始まり、二一世紀初頭の中国人男性作家の作品で終わる多彩なリストとなった。SFやファンタジーも入れることができた。
いまは「コスパ」「タイパ」の時代だ。働いていると本が読めないとまで言われる。長編、とくに海外ものの翻訳長編となると、手に取ることをためらうひとも多いだろう。本特集が、そんな読者の背を少しでも押すことができたら幸いだ。
分厚いページをめくり、遠い時代の遠い国でつくられた虚構の世界に入り込むとき、ぼくたちは「この現実」の熱狂から少しだけ距離を取ることができる。その距離こそが、逆にぼくたちを現実の本当のすがたに引き戻してくれる。ポピュリストとデマゴーグが蔓延る現代でこそ、もっと過去の長編小説が読まれてよいと思う。
文学はけっして現実逃避の手段ではない。それはむしろ現実を組み替える手段なのだ。(東浩紀)
鴻巣友季子 スカーレットは新たな家族像をつくりだしていた|『風と共に去りぬ』 聞き手=上田洋子
加賀山卓朗 世界と家族を知る「大きな物語」|『大いなる遺産』
鹿島茂 引き裂かれる一族とフランスの統合|『レ・ミゼラブル』
白岩英樹 あなたがいまここにいないから、わたしはどこにでもいく|『怒りの葡萄』
堺三保 〈銀河帝国興亡史〉の未来像| ファウンデーション・シリーズ
[特別対談]
(小特集)関西とSF
前文 
ぼくは東京出身だ。そして東京とその近郊にしか住んでいない。
けれども、あるとき自分が惹かれるもののほとんどが関西発であることに気づいた。小松左京も筒井康隆も関西で、法月綸太郎も関西で、柄谷行人も浅田彰も関西だ。梅原猛も関西で、ガイナックスの起源も関西で、ドワンゴの創業者も関西で育ったらしい[*]。ゲンロンにも関西出身の社員が妙に多い。ここにはなにか秘密があるに違いない。
そんな思いでこの小特集を企画した。万博とSFを絡めるというぼくの野望は空回りしたが、座談会では秘密の一端に触れた気がした。堀晃氏のエッセイ再録がかなったのは望外の喜びで、読みながら創成期の日本SFの聖地巡りをしている気分になった。 天沢時生氏の寄稿はまったくの不意打ちで、小特集のテーマと離れている気もするのだが、座談会を踏まえるにこれこそが関西SFの精神というものなのかもしれない。いずれにせよ、大阪や京都や滋賀をひっくるめて関西と呼ぶのが不用意だということだけはわかった。
というわけでこのタイトルも「関西とSF」としてよいか迷ったのだが、妙案がないのでそのまま行くことにした。お許し願いたい。関西の謎を理解するには、まだまだ修行が必要なようだ。 (東浩紀)
*出身地が関西以外も含む。
[座談会]
小浜徹也+菅浩江+酉島伝法+東浩紀|日本SFは大阪のバカ話でつくられた
[エッセイ]
[付録]
[エッセイ]
[ゲンロンの目]
[創作]第7回ゲンロンSF新人賞受賞作
[連載]
ユク・ホイ|巨大機械の政治認識論 惑星的なものにかんする覚書 第5回 訳=伊勢康平
イ・アレックス・テックァン|冷戦の亡霊に抗して 現代韓国政治から考える 理論と冷戦 最終回 訳=鍵谷怜