日本SFは大阪のバカ話でつくられた|小浜徹也+菅浩江+酉島伝法+東浩紀

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2025年5月10日刊行『ゲンロン18』

 

万博とSF

東浩紀 大阪・関西万博がこの4月に開催されます。55年前の1970年の大阪万博(日本国際博覧会)には、大阪出身のまだ若いSF作家・小松左京が政府館サブプロデューサーとして関わっていました。小松と同世代では眉村卓と筒井康隆も大阪出身で、彼らもまた1960年代には大阪を中心に活動をしていました。

 なぜ大阪は日本SFの源泉となりえたのか。この座談会では、学生時代に京都大学SF研究会で活動し、その後編集者としてSFと関わり続けてきた東京創元社のはまてつさん、京都出身で高校時代から作家として活躍されてきたすがひろさん、そしてやはり大阪出身で、今回の万博会場の夢洲がある大阪府此花区の地名がペンネームの由来でもあるというとりしまでんぽうさんにお集まりいただき、日本SFにとって大阪、さらに広く関西とはいかなる場所であるのか、存分に語り合っていただきたいと思います。

 まず、みなさんの紹介も兼ねて、70年の大阪万博との関わりについてお聞かせいただけますか。

小浜徹也 ぼくは万博には行っていないんです。


★1 1970年8月29日から9月3日にかけて、東京・名古屋・大津で開催された世界初の国際SFシンポジウム。小松左京が実行委員長を務めた。アメリカ・イギリス・ソ連などからアーサー・C・クラークやジュディス・メリルらが参加し、討議を行なった。巽孝之が監修した日本SF作家クラブ編『国際SFシンポジウム全記録 冷戦以後から3・11以後へ』(彩流社、2015年)の第1部に詳しい紹介がある。
★2 前田龍之祐「「反SF」としてのSF──山野浩一論」、赤井浩太、松田樹編『批評の歩き方』、人文書院、2024年。
★3 それぞれの日本SF大会には、回数のほかに愛称が付けられている。多くの場合は、開催地の地名に「コンベンション」の「CON」が組み合わされる。たとえば大阪大会であれば、「大」と「CON」でDAICON。
★4 第1回「関西SFのつどい」は、1962年4月1日に大阪大手町会館で開催された。主催は『宇宙塵』と『NULL』。
★5 『SFマガジン』は1959年12月に創刊された。空想科学小説コンテストは、1961年に『SFマガジン』と東宝映画の共催で始まった新人発掘のための賞。複数回の改名を経て、第5回以降は「ハヤカワ・SFコンテスト」として定着。1992年の第18回まで開催された。
★6 感光紙と現像液を使用して複写を行なうタイプのもの。薬品を用いるため湿式と呼ばれ、乾式複写機と区別される。日本では1950年代から小型化・低価格化が進み、乾式に先駆けて社会に普及した。
★7 日本SF大会は各地のファングループの持ち回りで開催されており、立候補などの仕組みが決まっている。各回大会の主催団体(実行委員会)は、立候補ののち、日本SFファングループ連合会議の承認を得て決定される。
★8 毎年秋に開催されている京都SFフェスティバルのこと。1982年に当時京都大学SF研究会に所属していた大森望らが立ち上げ、同SF研の主催でいまに続く。
★9 現在の賞金額は300万円。
★10 「でも、今年僕が一番面白いと思ったやつは、ストーリーもなにもない、地口だけで幻想がつながってゆく超弩級の異色作で、これは自信をもって大賞候補に残したんだけど、編集部で読んだ人間が全員口を揃えて「どこが面白いのかさっぱりわからん」(笑)。おかげで候補にも残らなかった」。大森望、豊崎由美『文学賞メッタ斬り!』、ちくま文庫、2008年、299頁。
★11 SFマガジン編集部編『SFが読みたい!2002年版──発表ベスト!SF2001[国内篇・海外篇]』、早川書房、2002年。

小浜徹也

62年徳島県生まれ。京都大学SF研究会OB。86年に東京創元社へ入社後、一貫してSFを担当。2009年にスタートした新人賞〈創元SF短編賞〉では第10回まで受賞作全作を編集、第11回から15回まで編集部代表として選考委員をつとめる。2000年、SFファン活動に功績があったとして贈られる柴野拓美賞を受賞。

菅浩江

1963年、京都生まれ。高校在学中、同人誌『星群』に発表した短編「ブルー・フライト」が『SF宝石』(光文社)に転載されるかたちでデビュー。1992年『メルサスの少年』(新潮文庫)で第23回星雲賞日本長編部門受賞。1993年『そばかすのフィギュア』(ハヤカワ文庫JA)で第24回星雲賞日本短編部門受賞。2001年『永遠の森 博物館惑星』(早川書房)で第54回日本推理作家協会賞、第32回星雲賞日本長編部門を受賞。2021年『歓喜の歌 博物館惑星Ⅲ』(早川書房)で第41回日本SF大賞を受賞した。『五人姉妹』(早川書房)、『ゆらぎの森のシエラ』(創元SF文庫)、『カフェ・コッペリア』(早川書房)、など著書多数。

酉島伝法

70年生。作家、イラストレーター。2011年、「皆勤の徒」で第2回創元SF短編賞受賞。著書に『皆勤の徒』、『宿借りの星』(ともに東京創元社、日本SF大賞)、『るん(笑)』(集英社)、『奏で手のヌフレツン』(河出書房新社)など。

東浩紀

1971年東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。株式会社ゲンロン創業者。著書に『存在論的、郵便的』(第21回サントリー学芸賞)、『動物化するポストモダン』、『クォンタム・ファミリーズ』(第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』、『弱いつながり』(紀伊國屋じんぶん大賞2015)、『観光客の哲学』(第71回毎日出版文化賞)、『ゲンロン戦記』、『訂正可能性の哲学』、『訂正する力』など。
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