ゲンロンサマリーズ(13)『イメージの進行形』要約&レビュー|円堂都司昭
初出:2013年2月12日刊行『ゲンロンサマリーズ #72』
渡邉大輔『イメージの進行形──ソーシャル時代の映画と映像文化』、人文書院、2012年12月
要約
レビュー
渡邉大輔は映画批評だけでなく、文芸批評も手がけている。情報インフラの拡大やグローバル資本主義という本書のテーマは、渡邉の文芸批評のテーマでもある。そのことは、彼も属する限界研(限界小説研究会)の共著(『サブカルチャー戦争 「セカイ系」から「世界内戦」へ』、『21世紀探偵小説 ポスト新本格と論理の崩壊』など)ほかで確認できる。
『イメージの進行形』刊行後、ツイッターで渡邉は、さやわか『僕たちのゲーム史』と自著の親近性を述べていた。同書は、ゲームというジャンルがソーシャル化に至るまでを追った内容だった。加えて、映画批評の更新を目指した『イメージの進行形』は、著者の意図しなかったことだろうが、音楽批評の一部とも呼応しているようにみえる。
クラシック音楽は、静かに聴取するものと考えられている。これに対し、クリストファー・スモールは、近代以前には騒がしいパーティのなかで演奏されていたことなどに触れつつ、演奏や聴取に限らず、ダンスや楽器の用意、会場の掃除なども含めて音楽行為だとする『ミュージッキング 音楽は〈行為〉である』を著した。この議論をソーシャル時代のポピュラー音楽に拡張して展開したのが井手口彰典『ネットワーク・ミュージッキング 「参照の時代」の音楽文化』だ。ジャンルの初期状態への注目、静態的な鑑賞態度を想定するのではなく批評の範囲を拡大すること(世界中が映画になりうる)、ソーシャル化への関心などの点で、スモール-井手口の議論と渡邉の議論には相通じる要素がみられる。『イメージの進行形』で論じられる映像には、音楽を題材にしたものも多く含まれている。
本書が提示する批評モデルは、映像だけでなく、小説、ゲーム、音楽など他分野にも応用できるものだろう。今後、ジャンル横断的な議論が起きることを望みたい。
『ゲンロンサマリーズ』は2012年5月から2013年6月にかけて配信された、新刊人文書の要約&レビューマガジンです。ゲンロンショップにて、いくつかの号をまとめて収録したePub版も販売していますので、どうぞお買い求めください。
・『ゲンロンサマリーズ』ePub版2013年2月号
・『ゲンロンサマリーズ』Vol.1-Vol.108全号セット
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円堂都司昭
1963年千葉県生まれ。文芸・音楽評論家。著書に『エンタメ小説進化論 “今”が読める作品案内』(講談社)、『ディズニーの隣の風景 オンステージ化する日本』(原書房)、『ソーシャル化する音楽 「聴取」から「遊び」へ』(青土社)、『戦後サブカル年代記 日本人が愛した「終末」と「再生」』(青土社)など。
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