【全文無料】創刊にあたって|『ゲンロンy』創刊号編集委員

いま雑誌を新たにつくるとはどういうことか。わたしたちがまず突きあたったのは、そんな素朴な問いだった。
出版不況が叫ばれている。活字離れが嘆かれている。本屋は消滅の危機に直面している。そのような状況のなかで雑誌を創刊するという決断に至ったことは、わたしたち自身でも、にわかには信じがたい挑戦だった。
だが同時に、人文知はいま、まれにみる活況のなかにある。「令和人文主義」という言葉がマスメディアを賑わせている。新世代の著者や発信者がつぎつぎに登場している。動画やポッドキャストをつうじて、人文知の新しい観客たちも増えている。このビッグウェーブをどう受けとめるか。そのためには、強度のある〈場〉が必要だ。
本誌はみずからを〈スマホ世代の総合誌〉として位置づけている。新しい感性とスタイルをあわせもった多様な表現者たちが、領域横断的に集結することができる媒体でありたいと考えるからだ。それを実現可能なメディアは歴史的に「総合雑誌」と呼ばれてきた。しかしそれはいま、いかなるかたちをしているべきなのか。
わたしたちは醒めた時代を生きている。それを生んだのはネットとスマホへの幻滅だ。
かつてインターネットは自由の象徴だった。そしてスマートフォンは革命のための道具だった。だが、この四半世紀で見えてきたのは、夢が敗北していく苛酷な現実である。インターネットは国境をこえる連帯をつくりだすどころか不和をつくり、人々は指導者の指先が生みだす言葉に一喜一憂し、感情をかきたてられている。スマホもまた、新しい体制を生みだすどころか、統治と秩序維持のためにもちいられている。好きという気持ちはアルゴリズムによってブーストされ、推しの経済へと変換されていく。
グローバルな結びつきが呼び寄せたのは、市民どうしの連帯などではなく、国家間の紛争であり、巨大資本の膨張であり、そして帝国の夢の再来だった。新しい世界の到来が口にされるそばで、旧時代の紛争や差別が続いている。わたしたちは覚醒と幻滅のあいだで引き裂かれている。希望をいだきつづけることはむずかしい。
それでもなお世界の使命を示すこと。理想を掲げること。夢を描くこと。『ゲンロンy』の役割はここにあるとわたしたちは考える。
現実はスワイプできなかった。ツイートの短さでは、世界を変えることができなかった。かといって、分厚い本では部屋に積まれて忘れ去られる。それらに橋をかける必要がある。これが、わたしたちが〈雑誌〉を編むことにした理由だ。
歴史をつうじて、総合雑誌はふたつの機能を引き受けてきたと言えるだろう。ひとつは、新しい時代文化をつくりだす流行の最先端となること。そしてもうひとつは、国家百年の計をめぐらせるための上質な言論の場となることだ。
〈令和カルチャー!〉と〈帝国をつくろう〉という創刊号のふたつの特集は、まさしくその二重性を意識している。身近なものを、いつもとはちがう切り口で考えてみる(特集1)。スマホをいじる指先の分析から陰謀論や帝国支配の復活へと想像力を展開させる(特集2)。全体を通して、頭から読んでいけば、想像しやすい話題から大きなテーマへと広がっていくようにつくっている。とはいえこれは雑誌だから、どこから読んでも大丈夫。のびやかで、ときにスリリングな読書体験を、ぜひ味わってほしい。
わたしたちはカルチャーを楽しみながら、政治についても考えられる。国際社会を論じながら、若者文化のこれからをスケッチしていくことだってできる。かたさと柔らかさ、アマチュアとプロは便宜的な区別にすぎない。わたしたちはその線を引きなおすこともできるし、とびこえることだってできるはずだ。
もっと自由になろう。予想外がおもしろい。明日のファッションに悩みながら天下国家の行く末を論じてみたい。新しさを信じる勇気をとりもどそう。そして世界を前に進めよう。そのための知と言葉を再発明しよう。
だから、わたしたちは『ゲンロンy』を創刊する。21世紀の〈総合誌〉がここにある。
創刊号編集委員
植田将暉
五月女颯
森脇透青
栁田詩織



植田将暉

五月女颯

森脇透青

栁田詩織
『ゲンロンy 創刊号』
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