かわいいDIY|山内萌

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2026年3月13日刊行『ゲンロンy』

 

 2019年から2020年頃だっただろうか、Twitter(現X)やInstagramで女の子たちの自撮りを見ていると、「毎日も手づくりだよね」というフレーズを添えている投稿がいくつか目についた。どれも別のユーザーによる投稿で、しかし彼女たちはいわゆる地雷系だったりもっとロリータに近いような、ガーリーな格好をしていた。

 毎日も手づくりだよね──インターネットに生息する少女たちにとって、大森靖子の歌詞★1はどれほどの重さをもって受け止められていたのだろう。

 若い頃の日常というのは、本来であれば学校へ行き、友達と会って、部活や勉強に勤しんで、それだけで充実した日々のはずだ。わざわざ自分で工夫しなくても、学生生活というレールに乗っていればそれなりに楽しい毎日になる。普通なら。でも、そんな普通の生活でいられない少女たちもいた。彼女たちにとって、毎日は「もうどうかしそう」なもので、それでも「ちょっとだけどうにかしよう」と試行錯誤する中で生まれたのが自撮りだったのかもしれない。

 どうかしそうな毎日を、生きのびるために手づくりされる自己表現。インターネットで生まれては消える文化の中でも、私はそういったものに関心がある。この論考では私が研究の対象としてきた自撮りを出発点に、若い女性たちの文化と「手づくり」に目を向けてみたい。手づくり、ハンドメイド、DIY。呼び方は様々あるけれど、「かわいい」を自分で作り上げるとはどういうことなのか。この活動によって、少女たちはどのような自己を手に入れているのか。これらの問いに答えを見つけるため、本論では、少女たちの生きのびるための自己表現を「かわいいDIY」と呼ぶことにしたい。

 女性を担い手とするDIYは、フェミニズムのいくつかの潮流の中でも、とりわけ第三波フェミニズムにおいて扱われてきた。Grrrl Zineなどの軽出版はその代表的存在で、男性中心的な価値観に支配されてきた従来の商業出版に抵抗する活動とされた。他方、そういった第三波フェミニズム的な女性主体のクリエイティブな活動が、結局は資本主義に飲み込まれる点はアンジェラ・マクロビーなどのカルチュラル・スタディーズ系のフェミニストによって指摘されている★2

「かわいいDIY」は、資本主義との抵抗/支配という関係からとらえられてきたフェミニズム的DIYと、どこか異なるように見えるのだ。むしろそれらは、自らの居場所を資本との共犯関係の中に見つけているように思われる。この点はのちに具体的な作品を挙げながら検討していくこととする。

 また、「かわいい」という言葉についても触れておこう。令和の日本はアイドル文化が音楽シーンから消費空間までを席巻しており、その中心的グループであるCUTIE STREETは、2024年にそのものずばり「かわいいだけじゃだめですか?」というタイトルの楽曲をリリースしている。

 同曲については、でんぱ組.incなど数々のアイドルやアーティストをプロデュースしてきた福嶋麻衣子の発言が示唆的だ。

いまの女の子たちはすごくパンキッシュ魂を内に秘めてて。いまの日本社会に対して誰もよく思ってない、でも、そのことの発信の仕方がかわいくないとダサいんですよ。古くさいおじさんたちのロックな叫びとかは「キモーい」ってなる。やっぱり、「かわいいだけじゃだめですか?」っていうのがいまの女の子たちのロックだと思っていて。これが令和だ、と。★3

  近年、ポストフェミニズム論を展開するフェミニストたちは、現代の女性たちが「男女平等を訴えるフェミニズムの役割は終わった」、「フェミニストと一緒にされたくない」という意識のもと、男性中心的な価値観へ積極的に従属しているとして女性と消費文化の関係を分析している。欧米を中心に展開されてきたポストフェミニズム論は2010年代の日本でも「女子力」といった言葉に当てはめ分析されてきたが、少女たちが「かわいい」とパンキッシュな魂をともに内に秘めながら参加する、2020年代、すなわち令和の消費活動をとらえるためには、異なる視点が必要である。

 本論は、女性によるDIY活動を「かわいい」という視点から分析することで、消費と自己表現をめぐる見逃されがちな一側面について考察するものである。この令和の日本において少女たちが、どのように毎日を手づくりして生き抜いているのか、その端緒を明らかにしていこう。

市場化するハンドメイド

 2025年の春頃、若者の間で編み物がブームとなっていることが、マスメディアで取り上げられた★4。発端はK-POPアイドルLE SSERAFIMのSAKURAが趣味で作った編み物の帽子などをSNSに投稿したことだった。例えばInstagramで「#編み物」と検索すると、毛糸で作られたバッグやポーチ、さらにはリップケースやヘアクリップなど、多岐にわたるかわいらしいデザインの小物類が投稿されている。若い女性が編み物をしている動画や初心者向けの解説動画などもあり、SNSを中心とした「編み物共同体」ともいうべきコミュニティが広がっている。

山内萌

92年生。慶應義塾大学院後期博士課程修了。博士(学術)。著作に「『性教育』としてのティーン雑誌──1980年代の『ポップティーン』における性特集の分析」(『メディア研究』104号)、「性的自撮りにみる「見せる主体」としての女性」(『現代風俗学研究』20号)、『メディアと若者文化』(共著、新泉社)。
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