ヒューモアとしての菜食主義|河村賢

釜ヶ崎で動物性の材料を使わない弁当を野宿者たちに配布するイベントがあると何かのきっかけで知り、参加したときのことだ。教会の片隅にある調理室で豆のカレーを作り終えたあと、日頃から釜ヶ崎だけでなく周辺地域の野宿者たちを支援している活動家たちと一緒に、手分けしてこのカレー弁当を配ることになった。私は心斎橋の夜回りをするグループに交ぜてもらうことになり、アーケードのある商店街を歩いていると、回転寿司の店の前に並べられた廃棄のゴミ袋の横で、立ったままカニの脚を食べている野宿者に出会った。
すみません夜回りの者ですが、と話しかけてから、ビニール袋に入れた豆カレーの弁当を渡すと、この野宿者は何も言わずに食事を中断して包みを受け取った。どうぞお気をつけて、と声をかけてその場を離れると、一緒に行動していた年長の活動家は、あの人がこちらの言葉に反応しないのはいつものことだから、と幾分私を慰めるような口調で言った。
それ以来──特別な弁当の配布がないときでも──継続的に夜回りに参加し続けている。あるときいつもと同じように夜回りを行なっていると、一緒に歩いていたその年長の運動家が、何かを思い出したようにこう言った。そういえば、あなたが最初に夜回りに参加したときに、このあたりでカニを食べていた人がいたじゃない。あのカニはなんだかすごく美味しそうだったね。私は笑いながらこう答えた。ええ、そうでしたね。──私が現在のような生活を始める以前の味の記憶を辿り直してみるならば、あのカニは確かに美味しそうに見えた。
私が現在どのような生活を送っているか、つまり普段菜食主義者として暮らしていることを知った人たちは、そうした生活へと私が移行するに至ったきっかけに関する問いを投げかけてくることがある。だがそのような質問に答えるのは、私にとってはかなり難しいことである。というのも、もしこの問いに真剣に答えようとするならば、私は東京の大学院で過ごした20代から30代にかけての時期に、何を経験したのかを事細かに語らなくてはならないからだ。それは私がそれまで言葉に対してかろうじて保っていた信頼感のようなものをすべて失わせるような10年間だった。徐々に狭まっていく世界のなかで、私たちは自分たちがどうやったら生き残れるかということについて怯えすぎていた。そのなかでも、身近な他者を搾取することに躊躇いのなかった人こそがしばしば時流に乗り、そうした搾取への加担などなかったかのように、あるべき世界の姿について饒舌に語り始めた。もちろんそうした光景の醜悪さに耐えきれなかった人から告発がなされたこともあった。しかしそもそも不利な立場に置かれた人からなされた告発のほとんどはまともに聴かれることもなく、官僚的なシステムの片隅で握りつぶされていった。
こうした不毛な過程において私自身がどのように振る舞い、何と闘うことができたのかということを、自分自身が生き延びたあとになってから振り返るという過ちを、ここで繰り返すべきではないだろう。いずれにせよ、それは私にはこの光景を変えることはできなかったという敗北の物語でしかありえない。それでも、ある時点で何がすでに言葉にされているのかに関する残酷な選別が働いてしまっていることに鈍感なまま大仰な言葉を語ることにはもう耐えられないと思ったからこそ、私は黙って身近な生活を送るなかで可能な非暴力と脱搾取の実践として、自分が口にするものや身の回りで使うものから動物を犠牲にして作られる製品を少しずつ排除し始めたのではないだろうか。結果的に、私は30歳を過ぎてから、一般的にはヴィーガンと呼ばれる生活を始めたのである。



河村賢
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