なぜ私は「闇バイト」広域強盗実行役リーダーの手記をXでアップしたのか 前略、塀の上より(22)|高橋ユキ

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webゲンロン 2025年3月27日配信

 普段、いろんな裁判や事件を取材して記事を書いている。記事を書いたらだいたい、SNSでそれを告知する。告知だけでなく、SNSでは日々気になるニュースや事象についても発信することがある。各種SNSサービスの数やその状況は変わり続けているため明言するのが難しいが、Xに限定すれば私は現状そんな使い方をしている。

 さてそのXで今年1月27日、かねてより文通や面会での取材をしている被告人、永田陸人による手記をポストした★1

 2023年1月、東京都狛江市で90歳の女性が強盗らにバールで殴られ死亡した強盗致死事件。4人の実行役は主にSNSの「闇バイト」募集に反応して集まった者たちだった。彼らは秘匿性の高いアプリ「テレグラム」を介してフィリピンにいる指示役たちと繋がり、トークグループ上で当日の段取りを詰め、実際に強盗に及ぶ際には「テレグラム」を通話モードにしたうえでイヤホンを装着し、リアルタイムに音声で遠隔指示を受けながら実行した。

 「闇バイト」による広域強盗の恐怖を世に知らしめたこの事件で、永田被告は実行役リーダーとして現場で他のメンバーをとりまとめ、時に指示役への提案なども行う役割を担っていた。この狛江事件だけでなく、起訴されている6件の広域強盗において、同様に実行役のリーダーだったとされており、一審・東京地裁立川支部で2024年11月に無期懲役の判決が言い渡されている。

 対して私の立場はライターであるから、事件を起こした当事者の手記を入手したならば、それを原稿にまとめ、何らかの媒体で公開してもらい、公開後にURLを自身のXで告知するのが通常の流れである。にもかかわらず、なぜXでそのまま手記を公開したのか。上記ポストは思いがけず多くの人の目に留まり、それゆえ私の元にもさまざまな声が寄せられた。そもそも犯罪者の手記など出すな、といったものや、減刑狙いのパフォーマンスだろう、という推理もあった。せっかくなのでこの場を借りて説明したい。

 

 私が初めて永田被告の証言を聞いたのは2024年8月22日。東京地裁立川支部では前日から、狛江事件を含む2件に実行役として関わった当時19歳の中西一晟被告の裁判員裁判が開かれており、永田被告は証人として出廷した。

高橋ユキ

傍聴人。フリーライター。主に週刊誌系ウェブ媒体に記事を執筆している。『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)に新章を加えた『つけびの村 山口連続殺人放火事件を追う』(小学館文庫)が好評発売中。『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社新書)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など殺人事件の取材や公判傍聴などを元にした著作多数。
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