「誰かのお父さん」のフリをして滑り台を……子供の世界にいつのまにか紛れ込む小児性愛者たち 前略、塀の上より(12)|高橋ユキ
ここ数年、人間ドックで要検査になる項目が出てきたり、疲れがなかなか取れなかったり、歳を取ったなぁと感じることが増えてきた。乗り物としての身体に少しずつガタがきて、ちょくちょくメンテナンスしながら乗ってはいるが、壊れて動かなくなる日も見えてきた……そんな感覚だ。そのうえ記憶もなんだか怪しい。最近よく「過去の自分の記憶が本当にあったことなのか」と不安になる。当時その場にいた相手が死んだり、疎遠になったりすることで、不安はさらに増す。データをバックアップしていたUSBメモリがどこかにいってしまったみたいな感覚である。後期高齢者になる頃には、自分の記憶が実は全て妄想だったのかもしれないと思ってしまいそうだ。なのでここのところ、思い出したことを書き留めたりするようになってきた。今回の冒頭は「忘れないうちに書き留めておきたいちょっと昔の話」から始めたい。
私の子供がまだ保育園の年中さんだった頃、よく遊んでいた親子たちとちょっと大きな公園にママチャリで出かけた。たしか陽の高いうちから遊んで、夕方に差し掛かる頃、その公園に移動したのだと思う。遊具で遊ぶ子供たちを脇で見守りながら、ママさんたちと話に花を咲かせていた。なんの病気がどこの保育園で流行っているのか、どこの病院がいいか、親子連れでも嫌がられない飲食店はどこにあるのか……子育ての情報は口コミが重要だ。話も盛り上がる。そんな折ふと見ると、子供のお友達のひとり(女の子)が男性の膝に乗って滑り台を滑っていた。その日はママさんだけではなくパパさんたちも集まっていたので、その子のお父さんかな? と思ったのだが、どこをどう見ても、その子のお父さんではない。ていうかその日集まった子供たちの誰のお父さんでもない。そして謎の男性の膝に乗っている当の女の子の表情が全然楽しそうじゃない。いっぽう、謎の男性は満面の笑み。なんだあいつは? ママさんトークの輪から少し離れ、その女の子と謎の男性に近づきながら大きめの声をかけると、謎の男性はさりげなく女の子から離れていった。
たまにものすごく面倒見のいい大人も公園にはいる。最初私は「別で遊びに来ているお子さんのお父さんかもしれない」と思いもしたが、好奇心からそれを確かめたくなり、少し尾行した。その男性が本当に誰かのお父さんであれば、最後は自分の子供と手を繋いだり、本当の子供が「パパー」と呼びながら駆け寄ったりするだろう。ところがそんな様子はなく、謎の男性はひとりで公園からいなくなった。状況証拠の積み重ねから私は謎の男性が小児性愛者だと推測し、そしてこの時初めて、小児性愛者が「誰かのお父さん」のフリをして幼い子供に近づくことがあるのだと知った。
過去の小児性愛者の報道などから「幼い子供に性欲をむきだしにする大人」の一般的なイメージはひょっとしたら、いかにも怪しく暗いものかもしれない。実態は違っていた。たしかに子供に警戒心を抱かれては、彼らとしてはおしまいだろう。想像していたよりも人当たり良さそう……それが私の抱いた印象だった。また小児性愛者による事件はそれまでにも傍聴してきたが、いざ実際の生活にするっと入り込まれると、気づくのに少し時間がかかることも分かった。なかなか厄介だ。追いかけて問いただしたとしても「そんなつもりはなかった」と言われる可能性は十分あるシチュエーションだった。事件にならずとも、こうした微妙な行為はきっと他でもあるのだろう。
忘れないうちに書き留めることができて少しだけホッとした。今回はそんな小児性愛者について、過去に傍聴した裁判から感じた傾向、そして現状などを綴ってみたい。小児の定義はMSDマニュアルに準じ、13歳以下とした[★1]。
高橋ユキ
1 コメント
- TM2024/04/30 16:55
性的衝動は生物である限り逃れることはできない。 それが小児に設定されている人々の苦悩は確かにあるのだろうけれど、そんなものよりもずっと上位に被害を受ける子どもたちをなくすことが最重要課題だろう。 苦悩があろうとも他者を傷つけるのは事は何人にも許されない。希望に満ちて生まれた子どもたちが他者の身勝手な欲求で苦しむ姿は耐えられない。 欲望を如何に他者を傷つけないものにするのか。 それも取り組むべきことだが、現状それは叶っていないわけで何よりもまず子どもたちをそうした欲望から遠ざけることが必要だと思う。 いつもながら多様な切り口を提示していただき、考えさせられた。 ありがとうございます。
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