タイパを求めてどこまでも SNSコメンテーターたちの“正解” 前略、塀の上より(5)|高橋ユキ

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webゲンロン 2023年9月28日配信
 コンテンツ過多の時代、タイムパフォーマンスを求める人が増えたと言われる。タイムパフォーマンス、略してタイパは、コスパの時間バージョン。かかった時間に対する満足度を表す言葉だという。その時間でどれだけ効率良い行動ができるかが重要なようだ。 

 話題となった2冊の書籍『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ──コンテンツ消費の現在形』、『先生、どうか皆の前でほめないで下さい──いい子症候群の若者たち』に関する記事には、タイパを求めて動画コンテンツを倍速視聴することと若者の「いい子症候群」の共通項に触れられており、「『とにかく結論や正解を早く教えてほしい』など、倍速で観る人たちとの共通項は多そうです」とある★1。 

 倍速で動画コンテンツを視聴するという流れが進むと同時に、動画の尺そのものに変化が生まれてもいる。YouTube ではショート動画の投稿数が明らかに増加し★2、ユーチューバーの収益減少を招いている。単純に一再生あたりの広告料が通常の動画よりも少ないからだ。 

 タイパ重視で正解や結論を早く知りたがる……それはなにも若者に限った話ではないように思える。そもそもウェブのテキストメディアにおいては、かねてより読者がタイパを重んじていることは知られていた。「記事の文字数が多すぎると最後まで読んでもらえない」と言われていたからだ。オチまで読者の我慢がもたないのだという。そのため、ひとつの記事を1200文字程度におさめるように……といった指示を受けたこともあった。テキストメディアも動画メディアも、短時間に結論を提示できないコンテンツはいま “受け手に対して不親切” だとされ、もっと言えば “ダメなコンテンツ” とみなされがちだ。とにかく落ち着かない世の中になった。

 さてこのようにタイパ重視で早く結論が欲しい、という傾向が進むと同様に、ニュースで何か事件が報じられると、その事件の構造はこうだ、と早々に結論づける動きが主にSNS上で散見される。早く結論が欲しいという動きは、早く自分で結論を出したいという動きと同義なのだろうか? 直近の大きな例でいえば、札幌・すすきの首切断事件にまつわるものだ。 

 事件は今年7月に起きた。札幌・すすきののホテル内で62歳男性が殺害され、その頭部が持ち去られた。約3週間後、北海道警は札幌市厚別区に住む親子3人を死体損壊容疑で逮捕。のちに殺人罪でも再逮捕となった。逮捕された3人は、精神科医である父親とその妻、そして無職のひとり娘。被害者は女装をすることがあり、その姿で札幌でのイベントに参加することがあったとも報じられている。殺害の直前もイベントに参加していた。 

 逮捕された親子3人と被害者との関係、そして動機についての報道が続いていたが、その中のひとつの記事に “ひとり娘は不同意性交等の被害者” であること、その “加害者が、今回殺害された被害者” であるという驚くべき内容のものがあった。逮捕された “ひとり娘の祖父” によるコメントの形で記事に盛り込まれている。祖父は3人の逮捕前、ひとり娘の母親からその話を聞いたとされている。また祖父は取材に “ひとり娘は男が大っ嫌い。そういう特殊な性格を持った子だ” といったことも語っていた★3。これが真実であれば、被害を知った両親が娘による男性への復讐を手助けしたという構図になる。 

 記事が公開されると、たちまち「ひとり娘は性暴力の被害者だった」という情報が広まり、SNS上で被害者への非難や、ひとり娘に対する同情の声があがった。「もともとの被害者はひとり娘」「親は娘を守るために戦った」などなどである。情報の受け手が事件の構図を結論づけてしまった。そのうえで殺害された被害者を非難する声もある。 

 だが、これが唯一の真実だと決めてしまうのは早計だった。なぜならその後、容疑者らは黙秘や否認をし、両親に至っては娘との共謀を否定したからだ。娘を守るために戦ったかどうかについても、両親らは語っていない。さらに両親は弁護士を通じてコメントを発表した。母親は逮捕当初「娘の犯行を止めたかったが、止められなかった」と供述していたと報じられていたが、その事実はなく、また両親は娘が事件を起こすとは、全く想像しておらず殺人と死体遺棄について共謀していない……というのである。


★1 稲田豊史、金間大介「なぜ今の若者たちは『映画を早送りで観る』のか」、『東洋経済オンライン』、2022年10月24日付。URL= https://toyokeizai.net/articles/-/625855 
★2 株式会社エビリー「2023年のショート動画はどうなる?最新トレンド調査」、『PR TIMES』、2023年1月24日付。URL= https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000193.000021986.html 
★3 集英社オンライン編集部ニュース班「〈札幌すすきの・首切断逮捕〉動機は不同意性交⁉『瑠奈は男が大っ嫌いなんさ。相手が女装してたから油断してホテルに…』祖父が語った顛末と逮捕当日の浩子容疑者との電話『2度と現れないと言ったのに現れたから…』」、『集英社オンライン』、2023年7月25日付。URL= https://shueisha.online/newstopics/149779 
★4 デジタル大辞林「カサンドラ現象」。URL= https://kotobank.jp/word/%E3%82%AB%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%A9%E7%8F%BE%E8%B1%A1-1714290

 

参考文献 「警察の取り調べに"黙秘"『検察にはすべての事実供述しています』両親の弁護人がコメント…ススキノ首切断殺人事件」、『北海道ニュースUHB』、2023年8月24日付。URL= https://www.uhb.jp/news/single.html?id=37351 「【ススキノ首切断】両親の弁護人が共謀を否定『娘が事件起こすとは全く想像しておらず殺人と死体遺棄について共謀していない』」、『北海道ニュースUHB』、2023年8月19日付。URL= https://www.uhb.jp/news/single.html?id=37247 「ALS患者嘱託殺人事件 初公判で元医師“共謀も実行もせず”」、『NHK NEWS WEB』、2023年5月29日付。URL= https://www3.nhk.or.jp/kansai-news/20230529/2000074039.html 「ALS患者を安楽死させた医師の妻『夫はアスペルガー症候群です』」、『5ちゃんねる』、2020年7月23日スレッド作成。URL= https://leia.5ch.net/test/read.cgi/poverty/1595515931/

高橋ユキ

傍聴人。フリーライター。主に週刊誌系ウェブ媒体に記事を執筆している。『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)に新章を加えた『つけびの村 山口連続殺人放火事件を追う』(小学館文庫)が好評発売中。『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社新書)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など殺人事件の取材や公判傍聴などを元にした著作多数。

1 コメント

  • TM2023/10/12 21:32

    タイパを求める時代と表層の理解をつなげるとても興味深い記事でした。 札幌の事件もALS関連の事件もはじめこそセンセーショナルに報じられ、すでにほとんど続報がない状態です。 前者における祖父の話や後者の妻の話はそのソースを踏まえれば誰しも留保するものだと思いますが、わかりやすく完結した物語を欲する第三者のため報道が加工されているように感じます。 そしてわかりやすく完結した物語を欲するというのは確かにタイパ志向と重なるわけで、指摘を受けて目から鱗でした。 コンパクトに単純化された情報は負荷も少ないし、完結するということはスッキリと消化できた座りの良さをもたらします。自分もそれに寄りかかれたら楽だとは思ってしまいますが、最後の事件の切り捨てられた部分を知るとそうした姿勢の恐ろしさにゾッとします。 では、そうしたタイパ志向、その根源はどこにあるのでしょう? その正体を掴まないと、いつの間にかタイパの心地よさに負けてしまいそうです。 考えていきたいテーマをいただきました。 ありがとうございます。

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