暴力に教育虐待 そして「誘われた」と責任転嫁 未成年の家族に性的な目を向ける男たちの共通項 前略、塀の上より(11)|高橋ユキ

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webゲンロン 2024年3月28日配信

 今回も冒頭からしばらく、自分が取材で見聞きした話であるため、参考記事出典のない話が続く。ご容赦願いたい。

 先日、東京地裁立川支部に傍聴に行った際のこと。目当ての裁判の合間に「強制わいせつ罪」の審理をやっている法廷に入った。被告人名は伏せられ、開廷表には「被告人」としか記されていない。最近、こういうことは珍しくはない。ただ、この対応と罪名から「被害者は被告人と密接な関係にある者」であるという推測ができる。被告人の氏名が公表されることによって被害者の個人情報が辿れる可能性がある場合、被告人名が伏せられる傾向が見られるからだ。この記事も被害者のプライバシーを明らかにすることが目的ではないため、念には念を入れ、傍聴した日時や法廷は伏せる。

 さてその法廷で被告人として長椅子に座っていたのは見たところ高齢男性。聞けば自分の孫へのわいせつ行為によって逮捕起訴されていた祖父だった。「こんな感じで……」と手のひらを開いて円を描くようなジェスチャーをしている。刑事裁判では裁判所が証言者の発言を記録している関係から、言語化しづらいジェスチャーは御法度だ。自由な被告人であることは一瞬で分かった。そんなジェスチャーは何をしている再現かといえば、夜に寝ている孫の性器を触ったときの様子だという。ディープキスにも及んだというが被告人は「お仕置きだった」などと話していた。

 配偶者や内妻ではない家族に性的な目を向けて逮捕起訴された被告人が「言いがち」だと思いながら聞いていた。自分が性的な行為に及んだのはもともと相手に非があったからだ……これはもはや常套句である。

 ここからは出典ありの記述になる。2017年と2023年の刑法改正により、性犯罪の要件や罰則規定は大きく変わった。まず2017年改正により、強姦罪が強制性交等罪に。改正前は「女子を姦淫する」ことが「強姦」だと定められていたが、2017年改正後には口腔性交や肛門性交も該当するようになった。そのため被害者の性別が問われない。2023年の改正ではさらに「強制性交等罪」が「不同意性交等罪」となり、罪の成立に必要な要件が増えた。従来の「暴行や脅迫」だけにとどまらない内容となっている★1

 近年の性犯罪における刑法改正の動きの中で、2017年に新設されたのが「監護者性交等」「監護者わいせつ」である。条文を見てもらうのが手っ取り早いが、監護者が18歳未満の者にわいせつな行為や性交等をすることに対し罰則が設けられた。

 

高橋ユキ

傍聴人。フリーライター。主に週刊誌系ウェブ媒体に記事を執筆している。『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』(晶文社)に新章を加えた『つけびの村 山口連続殺人放火事件を追う』(小学館文庫)が好評発売中。『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社新書)、『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』(徳間書店)、古くは『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』(新潮社)など殺人事件の取材や公判傍聴などを元にした著作多数。

1 コメント

  • TM2024/03/29 13:30

    今回触れられた被害者女性が実名で報道対応した件。 間違いなく不快な思いをし、深く傷つけられる選択にも関わらず、耐え忍ぶ同じ境遇の方を思って行動したとおっしゃっていた。 その気持ち、勇気にはっとさせられる一方で、被害者が更に傷ついて被害者を救う図式はなんとか避けられなかったのかとも思ってしまった。   その裏側で被害者を守るための秘匿が加害者をも不可視化してしまう。 隠された加害者は独りよがりな自己防衛を壊されることなく生きていく。 もちろん社会的制裁は時に暴走するわけで、簡単にこの違和感を解消する案は浮かばない。 いずれにしても私は恥ずかしながら想像し切れていなかった裏側であり、今も大変考えさせられている。 ありがとうございました。

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