料理と宇宙技芸(1)中華料理は宇宙である──麻婆豆腐について|伊勢康平
2023年4月21日タイトル更新
この連載は、おそらくゲンロン史上初のレシピ紹介企画だ。ぼくの嗜好の関係上、さしあたり中華料理(以下中華とも)を中心に取りあげることになるだろう。軽いきもちで読んでいただけたらと思う。もちろん、じっさいにつくってみるのがいちばんだ。
はじめにいっておくと、ぼくは中華の調理師でも研究家でもない。ただ趣味で料理を楽しむ素人である(むかし上海の料亭でスイカを切るバイトを1週間だけやったことがあるけれど)。おまけに東京在住なので、本気で中華をつくろうとしても手に入らない食材がけっこうある。たとえば中国の料理サイトをのぞいていると、そもそも日本に存在しない魚類やおどろくほど巨大なナスが必要とされたり、「まずアヒルをさばきましょう」といったすべてが無謀な難題を突きつけられたりすることもしばしばだ——アヒルはそんなにないが。そうしたわけで、ぼくのレシピは、思わず「むりだ……」とため息がもれるようないくつもの挫折のうえに成り立っている。なので、ここで紹介する料理は、なにより無理なくつくれることと、日本国内で材料がそろうことを基本的な方針にしたい[★1]。
ところで「料理と宇宙技芸」というタイトルは、たんなるレシピ紹介にしてはなかなか本格的な印象をあたえるかもしれない。じっさいは会議中のノリとひらめきだけで爆誕したにすぎないのだが、とはいえ重要な論点がふくまれているのも事実である。この連載は軽いレシピ紹介の企画だけれども、今回は初回なので、中華を例にこのタイトル(および企画そのもの)の意外に深い背景を手短に説明しておこう。それにくわえ、今回のレシピにあわせて「そもそも『麻婆』ってなに?」といった麻婆豆腐の簡単な紹介もしようと思う。
むろん、そんな話はどうでもいいからさっさとレシピをみせろというかたもいるだろう。そういうかたは、こちらからご覧いただきたい。
1 中華は宇宙技芸である
まず用語の説明からはじめよう。
ある程度ゲンロンのコンテンツに触れているひとはご存じだろうが、「宇宙技芸(cosmotechnics)」とは、香港出身の哲学者ユク・ホイ(許煜 / Yuk Hui)が提唱する概念で、単純にいえば宇宙論や自然観と密接に結びついた技術のことである。
こんにち技術といえば、ひとはたいてい産業革命ののち急速に世界中へ拡がったいわゆる近代的なテクノロジーを想像するだろう。しかし、ほんらい世界の各地域には、有形無形のさまざまな技術(technics)があった。それらはただたんに外見や機能が異なるだけでなく、むしろそれぞれの地域特有の自然観や宇宙観、あるいは哲学的思考に支えられていたのである。ユク・ホイは、西洋とその哲学に由来する技術によって世界中が均質になっていく現状を変え、未来をより豊かなものにするために、各地域の技術の思想をつくりなおし、多様な宇宙技芸に彩られた技術多様性(techno-diversity)を生み出していかなければならないと主張している。
かなりかいつまんだ説明ではあるが、いまは中華がメインなので、宇宙技芸についてはこれくらいにしておこう。くわしくは『ゲンロン』に掲載された彼の論考や、ぼくがかつて発表した原稿や翻訳などをみていただくとして[★2]、いま考えたいのはつぎの問題だ。つまり、中華は宇宙技芸なのか?
結論からいうと、中華はまぎれもなく中国の宇宙技芸である。というのも、中華の理想は、料理という人間の技術的ないとなみを通じて、古代の中国人が考えていた宇宙のありさまを体現することにあるからだ。
どういうことか。以下、簡単にみていこう。
2 五味と五行
中華料理の理想は、ひとことでいえば「五味調和」である。五味とは酸・苦・甘・辛・鹹(塩からさ)の5つの味のことだ(ちなみに現代中国語では「酸甜苦辣鹹」という)。つまり中華の理想とは、ひとつの料理のなかで、あるいは複数の料理の組み合わせのなかでこれらの味が絶妙な調和を保つよう調理することにほかならない。こうした考えはかなり古くから存在しており、戦国時代の書物である『呂氏春秋』本味篇には早くも、料理にかんして「味の調和には、かならず甘・酸・苦・辛・鹹を使いわけること」という記述がみられる[★3]。
五味調和とは、ようするに味わいにはバランスが大事だということだ。これだけではごくありきたりの話だが、中華にとって重要なのは、この調和が五行説という中国古来の宇宙論と深くつながっていることである。五行説とは、単純にいえば、全世界ないし宇宙を木・火・土・金・水という5つの構成要素およびその相互関係によってとらえる考えかたのことだ。一般的に、この考えが文献上へ最初にあらわれたのは『尚書』洪範篇だとされている。そこでは伝説の王である禹が天から授かった9つの法のひとつとして五行が言及される。
ひとつめは五行である。〔五行とは、〕一に水、二に火、三に木、四に金、五に土。水は潤して下る。火は炎え上がる。木は曲直〔まがったりまっすぐになったり〕する。金はひとの意図にしたがって形を変える。土には作物を植え、貯蔵する。潤して下ることは塩からさ〔鹹〕をもたらし、炎え上がることは苦さをもたらし、曲直することは酸味をもたらし、ひとの意図にしたがって形を変えることは辛さをもたらし、作物を植え、貯蔵することは甘さをもたらす。[★4]
細かい分析はしないが、ここで重要なのは、宇宙の構成要素である五行が、そのはたらきを通じて五味と結びつけられていることである。そのほか、さきほど言及した『呂氏春秋』本味篇でも、五味の調和を生みだす調理の精妙さが「陰陽の変化や四季のめぐり」のようなものとして語られている。つまり味わいは宇宙を通じて理解されるのだ。このような五味と五行の関連は、のちに中国医学などさまざまな分野のなかで発展していくのだが、その詳細には触れないでおこう[★5]。ここではひとまず、「五味調和」という中華料理の理想が、いわば調理を通じて中国の宇宙論にもとづく調和を体現することだと理解していただければよい(ちなみにユク・ホイが論じた中国の宇宙技芸の構図をもちいていえば、これは調理器具という器を介して宇宙論的秩序を具現化し、それによって道つまり天と人間の共鳴へといたることだ)。
3 麻婆豆腐の由来
やや込み入った話が続いたが、かたい話はここまでにしよう。ぼくがいいたかったのは、ようするに中華料理の理想はかつて中国人が想像した宇宙を表現することにあるということだ。この点をおさえたうえで、今回の主役である麻婆豆腐に移ろう。
麻婆豆腐——いうまでもなく、だれもが知る中華の代表的な料理だ。ぼくはまだ、日本で麻婆豆腐を知らぬひとに出会ったことがない。おそらくその日はいつまでも来ないだろう。けれども、ひとが麻婆豆腐について知っていることはさほど多くないのではないか。たとえば、麻婆豆腐はいつごろからあるのだろうか? そもそも麻婆豆腐の「麻婆」とはなんだろうか?
麻婆豆腐の歴史は意外と浅く、およそ19世紀ごろに生まれたという[★6]。発明者は、四川省の成都にある万福橋という橋のちかくで当時小さな食堂をいとなんでいた陳という姓の女性だといわれている。陳さんの顔には麻子つまりあばたがあったため、客から「陳麻婆」と呼ばれていたそうだ(これはひどい!)。
ある日、万福橋を通りかかった担ぎの油屋が、買ったばかりの豆腐と牛肉をたずさえて陳麻婆の店へやって来た。油屋は陳麻婆に肉と豆腐、そして売り物の菜種油をひとすくい渡して、なにかつくってくれと頼んだ。そうして生まれた料理が麻婆豆腐の原型だとされる。万福橋のあたりは船の出入りも多く、町人やいわゆる苦力も数多く往来していたため、これが相当な人気を博したようで、のちには遠路はるばる陳麻婆の豆腐炒めを食べに来るひとまで出てきたらしい。この豆腐炒めが人口に膾炙するにつれ、いつしかひとはこの料理を麻婆豆腐と呼ぶようになったようだ。
4 宇宙論的麻婆豆腐へ——「魂」を注入せよ
日本では麻婆豆腐は辛い料理として知られており、むろん中国で食べてもなかなかに辛いものではある。とはいえ、これも中華料理である以上、さきほど述べた味わいの調和を理想とすることに変わりはない(ちなみに「五味調和」は多分に理念的なものなので、じっさいの調理の現場では多少のバリエーションをふくみつつ、柔軟に調和が目指される)。
ならば麻婆豆腐にとって調和とはなにか? 端的にいえば、それは辛いなりにほかの味わいや香りをきちんと引き出し、それぞれバランスを取ってやることだ。つまり激辛もけっこうだが、たんに辛けりゃいいという問題ではないのである。具体的にいうと、麻辣つまり唐辛子や花椒の刺激を中心に、生姜や葱のさわやかな香りや、とろけるような豆腐の甘みにホロホロとくずれる牛肉の旨み、そして豆豉がもつ独特の発酵した風味などが、それぞれ適切な強度をもち、たがいに消しあうことなく調和しなければならない。では、見事にそのバランスを保ち中国の宇宙論にもとづく調和を体現した、いわば〈宇宙論的麻婆豆腐〉をつくるにはどうすればよいのだろうか。そこでただならぬ役割をはたすのが郫県豆板である。
郫県豆板とは、四川省成都の郫県(2016年に郫都区と改称)という特定の地域でのみ生産される特別な豆板醤である。これは「四川料理の魂(川菜之魂)」とよばれており、辛い料理には欠かせない。だがこの豆板醤の特徴は、なんといってもそのバランスのよさにある。つまりただ辛さばかりが際立っているわけではなく、むしろ発酵した蚕豆の旨味や唐辛子の辛味、そして塩味のバランスが絶妙に取られている。ここがきわめて重要である。つまり麻婆豆腐をつくるときに、辛さだけをいたずらに突出させることなく、ほかの味わいとの調和を保つには、郫県豆板が最適な調味料となるのだ。
じっさい、麻婆豆腐の仕上がりは使用する豆板醤によってかなり左右されるのだが、郫県豆板をうまく用いた麻婆豆腐はあきらかに次元の異なる味わいをみせる。まさに天地の差である。どう異なるのかというと、ひとことでいえば宇宙を感じる。それほどの味わいなのだ。したがって、はるかなる郫県の風土が育んだ「四川料理の魂」を適時に適量投下した時点で、われわれの宇宙論的麻婆豆腐はすでになかば完成したも同然である。その意味で、郫県豆板とは「宇宙の半分」なのだといってもよい。
5 麻婆豆腐のつくりかた
冒頭からここまで飛ばしてきたひとのためにも内容をまとめておくと、ここまでぼくが話してきたのは、中華料理の理想とは調理によって調和にもとづく中国の伝統的な宇宙論を表現することであり、もちろん麻婆豆腐のような辛い料理もその例外ではないということだった。つまり、麻婆豆腐とは宇宙である。調和を乱してはならない。
さて、長いはなしもすんだところで、さっそくレシピに入っていこう。まずは適量の唐辛子を用意する。
……もちろんこれは冗談だ。じっさいにはこれほどの唐辛子を使う必要はない。以下が1〜2人前の麻婆豆腐に必要な材料の一覧だ。
◯食材
・豆腐(絹) 350g
・牛挽肉(合挽きでも可) 100〜150g
◯香辛料
・唐辛子 3、4本
・一味唐辛子 大さじ1
・花椒 20粒くらい
・豆豉 大さじ1
・生姜 少量
・長ねぎ 半分〜1本
◯調味料
・郫県豆板 大さじ1〜
・甜麺醤 小さじ1〜
・醤油 小さじ1
・料理酒 小さじ1
・鶏ガラだし(詳細は第6節の備考を参照)
(この2つはなくてもよい)
・花椒油 すこし
・明油(ねぎ油) すこし
※なお、香辛料や調味料の量はあくまで目安だ。ぼくはだいたいどの料理も目分量でつくる。結局調和が取れればそれで問題ないし、むしろ目分量にこそ作り手の個性が出るといえるのではないか。
下準備
◯香辛料の用意
・生姜・豆豉・長ねぎ(白)はみじん切り。長ねぎは、あらかじめ縦向きに長い切り込みを数本いれておくと楽にみじん切りにできる
・長ねぎ(緑)はうすく切る
・唐辛子は調理バサミなどで細かく切り、花椒といっしょに待機
◯豆腐の下準備
・絹豆腐を準備する。口どけと味わいに優れるため
・切る。サイズは好みで
・切ったらくさみを取りのぞくために1度水でていねいにあらう
・あらったらかるくゆでる。かるく塩を振った水のなかに豆腐をていねいに入れ、中火で加熱
・沸騰しきらないくらい(豆腐がぽこぽこおどりだすくらい)で鍋からていねいに出す
※しつこく繰り返したが、豆腐はとにかくていねいに扱おう。やさしさが成功のカギだ。あと豆腐の下ごしらえは煮込みのすこしまえに完了するくらいがちょうどいいので、可能であれば炒めのプロセスと並行して加熱していこう。
炒め
◯油をつくる
・鍋を火にかける。少量の油をしき、軽く煙が出るくらいまで加熱。その後清潔なキッチンペーパーなどを使って油を捨て、あらたに油を追加
※これは「滑鍋」などとよばれる技法で、おもに焦げつきを防止する効果がある。油を入れ替える目的は、香りの悪化の予防と、上昇しすぎた油の温度をリセットすることだ。とはいえ、鉄鍋を使っていなければこの作業は飛ばしていいかもしれない。
・中火で花椒と唐辛子を炒める。10秒くらいで火を止め、香辛料を網ですくいあげたあと、細かく砕き・切る。色が変わるまえにすくうのがポイント。唐辛子が黒くなったら捨てる
※ちなみにこのように炒め、砕かれた唐辛子と花椒のことを「刀口辣椒」という。
◯挽肉を炒める
・中火で鍋を加熱し、挽肉をいれる
・全体的にお肉の色が変わってきたところで郫県豆板を投下。すばやくまぜる
・郫県豆板から香りがよく立ってきたら生姜を入れて炒める
・同様に生姜の香りが出てきたら一味唐辛子を入れて炒める
・豆豉と甜麺醤を投入。これはほぼ同時に入れてよい。ただ甜麺醤は焦げやすいので注意が必要
・よくなじんだら醤油と料理酒をくわえて強火で炒める
※一般的に、豆板醤には塩分が多くふくまれているので、麻婆豆腐にかぎらず豆板醤を使用するときには、食塩や醤油、料理酒の量に気をつける
仕上げ
・200cc の「信濃屋だし」を投入し、豆腐を入れる。「信濃屋だし」がない場合は、200cc の水とスプーン1杯程度の鶏ガラ中華スープをくわえ、味の素と塩をひとつまみほどいれる
・豆腐が崩れないようお玉の背中側でなでるようにまぜながら、強火で沸騰させる
※味見はこの段階で行なう。必要に応じて水や塩をくわえて調整。
・ある程度水分が飛んだら、1度火を止めて、水で溶いた片栗粉を入れる(1回目)。火を止めるのは、片栗粉がダマになるのを防ぐため
・さらに水分が減り、挽肉のシルエットがくっきりしてきたあたりで、同じく火を止め、少し濃いめに溶いた片栗粉を入れる(2回目)。片栗粉を繰り返し入れるのは、最適な濃度に調整するため
・みじん切りにした長ねぎ(白)を投下し、すばやくなじませる
・水分がさらにすくなくなったら火を止め、さらに濃いめに溶いた片栗粉を入れる(3回目)
・仕上げに鍋の底へ焦げつきそうになるまでつよく炒める。じっさいに焦げてしまうとつらいので無理は禁物
・火を止めて花椒油と明油(ねぎ油)をすこし加えたら、お皿に盛りつけ、長ねぎ(緑)や砕いた唐辛子と花椒をふりかける。花椒油の代わりにミルで砕いた花椒をかけるのもわるくない
完成したらすぐに食べよう。できたてが一番おいしい。
6 備考・リンク集
○だしについて
ぼくは鶏ガラスープ(および味の素)の代わりとして、東京・五反田にある鶏だし専門店「信濃屋+」で購入できる無添加特製の「信濃屋だし」をしばしば用いている。ゲンロンカフェとゲンロンのオフィスとのちょうどあいだに位置する「信濃屋+」は、おなじく五反田にある鶏肉専門店「信濃屋」の2号店だ。良心的な値段でじつに優れた鶏だしを販売している。「信濃屋だし」は汎用性が非常に高く、料理の仕上がりが如実に変わってくるのでたいへんおすすめである。いまはゲンロンカフェのイベントに来ていただくことはできないが、五反田方面へ来たときにはぜひ試してみてほしい。
○郫県豆板について
郫県豆板は、2008年に中国の無形文化遺産に登録されており、いまやかなりの種類が発売されている。いちおう品質規定はあるが、ほとんど玉石混交の体をなしているといえるだろう。とはいえ、熟成年数や製法などにしたがって、上から「特級」「一級」「二級」「紅油」の4つのレベルに分類されているため、選別は難しくない。中国で購入するときには、特級か一級を選ぶのが無難だ。またさきほどの写真でもわかるだろうが、よい郫県豆板は熟成期間が長いためかなり暗い色をしている。パッケージによっては、色をみて選ぶこともできるだろう。
意外なことに、郫県豆板は日本でも容易に入手できる。各地の中国系の物産店や通販サイトで購入可能だ。ただ、入手できる種類はあまり多くなく、一級以上のものは手に入れづらい。おすすめは、「鵑城牌」という郫県豆板の代表的なブランド。やや値は張るが、日本国内の通販で簡単に入手できる数少ない特級レベルの郫県豆板だ。なおランクは下がるが、「紅油」の郫県豆板でも十分にちがいが実感できるので、試しに買ってみるのもいいかもしれない。
○香辛料について
中華の香辛料は、日本のスーパーのでもかなり手軽に集められる。たとえば、エスビー食品の「菜館」シリーズは、本レシピで用いた唐辛子や花椒、豆豉などの香辛料をあらかたそろえており、また量も使い切りなのでたいへん便利だ。おまけに「菜館」の豆豉は香りもなかなかよい。
けれども、なかには別のルートで購入するのがよいものもある。たとえば花椒には、「麻椒」と呼ばれるより香りのつよい品種が存在する。これはふつうのスーパーではほとんどみかけないが、中華系の物産店や各種通販サイトで購入できる。より高次元の香りを求めるひとにおすすめだ。
それから、本格的な麻婆豆腐にはしばしば「蒜苗」つまり葉ニンニクが用いられるのだが、これを日本で入手するのはややむずかしい。現実的な策は長ねぎの代用だろう。本レシピでも代用を前提としているが、葉ニンニクが手に入ったらぜひ挑戦してみてほしい。なお、ニンニクの芽を刻んで代用することも可能ではある。ただ食材としての主張がつよいため、個人的に扱いづらさを感じてはいるが。
7 次回予告
はじめに中華の理念について語ったのでなかなかのボリュームになってしまった。次回以降はもう少し気軽に読めるコンパクトな記事になるはずである。今回せっかく「四川料理の魂」にして「宇宙の半分」たる郫県豆板を紹介したので、次回もこの材料にまつわる料理を取りあげたい。なににするかは秘密だが、もしかすると前掲の写真に写っているかも……。
★1 方針は予告なく変更になる場合がございます。(編集部)
★2 「宇宙技芸」の概念を提唱したユク・ホイの The Question Concerning Technology in China: An Essay in Cosmotechnics(Urbanimic, 2016) は、仲山ひふみによって序論が翻訳され、『ゲンロン7』、『ゲンロン8』、『ゲンロン9』に掲載されている。そのほか、拙訳の「百年の危機」(「ゲンロンα」に掲載)や、拙稿「哲学と世界を変えるには——石田英敬×ユク・ホイ×東浩紀 イベントレポート」などを参照してほしい。
★3 『呂氏春秋 中』、楠山春樹訳注、明治書院、1997年、377頁。訳文は変更している。
★4 訳出にあたっては手元の吉川幸次郎訳の『尚書正義』を参照した。『吉川幸次郎全集 第9巻』、筑摩書房、1970年、266-268頁。
★5 詳細は省くが、こうした五行と五味の関連性は、五方(四方+中央)や五季(四季+長夏)、五臓といった自然現象から人体までをふくむさまざまな要素の対応理論へと発展し、調和にもとづく宇宙論に寄与していった。以下などを参照。郭永胜、张思超《论五味理论的起源与形成》,《中华中医药杂志》,2018年第8期。
★6 麻婆豆腐の由来にかんする記述は以下を参考にした。彭逸晨,《麻婆豆腐的由来》,《烹调知识》,2018年第6期,页55。
伊勢康平