ゲンロンサマリーズ(4)『一般意志2.0』要約&レビュー|入江哲朗

シェア
初出:2012年5月8日刊行『ゲンロンサマリーズ #1』
東浩紀『一般意志2.0──ルソー、フロイト、グーグル』、講談社、2011年11月
レビュアー:入江哲朗
 
 
 
要約
一般意志2.0とはなにか? ● この本で語られるのは、近代社会が長いあいだ忘れつづけてきた夢、「未来社会についての夢」だ。 ● ルソーの「一般意志」という謎めいた概念は、現在の情報技術の知見を使えば具体的にイメージできる。 ● ルソーはコミュニケーションが苦手なオタクだったから、熟議なき数学的なモノとしての一般意志を描いた。 ● グーグル日本語入力は、ネット上の膨大な日本語を機械的に収集・解析して出来た点で、一般意志っぽい。 ● ルソーの一般意志の概念を、総記録社会の現実に照らしてアップデートしたものが「一般意志2.0」だ!
熟議との組み合わせ ● でも最近の政治学は熟議を重視。ナチスドイツみたいな全体主義の危険を考えると、それも一理ある。 ● しかし現代の複雑な社会では人びとの価値観も多様なので、熟議はたいへん。コストが高い。 ● だから大事なのは両者の組み合わせだ。熟議と一般意志2.0の組み合わせとしての「民主主義2.0」!   その実現のために国会をニコ生中継して、議事堂をスクリーンで囲みそこに視聴者のコメントを流せばそれは実現できる。 ● なぜなら、ニコ生のコメント群の表示は、人びとの無意識を可視化するためのひとつの手段だから。 ● 表示される一般意志2.0はあくまで制約条件。無意識にさらされながらいままでどおり議論することが大事。 ● 一般意志2.0のシステムが実装されると、意識が高くない「動物的」なヤツにも政治参加の道が開けてくる。 ● 「憐れみ」という個別の場面で働く想像力にこそ、ネットワークを介して人びとを連帯させる力がある。
レビュー
 ゼロ年代以降の思想系の本と言えば、難しい専門用語をバリバリ駆使してマニアックな議論をチマチマ展開しているような、「思想オタク」向けの本が多かった。そんななか「筆者はこれから夢を語ろうと思う」という一文で始まるこの本は、「一般意志」というルソーの概念をテーマにしている点でまぎれもない思想書でありながら、同時に18世紀のヨーロッパと現代の日本を見渡そうというスケールのデカさを持っている。読むとまさしく未来への「夢」が広がってきて、ワクワクさせられる本だ。  さらに大事なのは、話を単なる「夢物語」に終わらせないように、その未来を実現するための具体的な提案もなされていること。なにしろ、国会をニコ生中継しコメントを議員にリアルタイムで見せるだけでも、一般意志2.0を政治に活かすことができるというのである(「そんなバカな」と思った人は、だまされたと思っていますぐ読んでみてほしい!)。  やろうと思えば明日からもできるその一歩が、「夢」の実現に繫がる。本書がより多くの人に読まれ、東のメッセージが世界中に拡散していくことによって、その実現の「確率」は間違いなく高まってゆくはずだ。
 
 『ゲンロンサマリーズ』は2012年5月から2013年6月にかけて配信された、新刊人文書の要約&レビューマガジンです。ゲンロンショップにて、いくつかの号をまとめて収録したePub版も販売していますので、どうぞお買い求めください。
『ゲンロンサマリーズ』ePub版2012年5月号
『ゲンロンサマリーズ』Vol.1-Vol.108全号セット

入江哲朗

1988年生まれ。東京外国語大学世界言語社会教育センター講師。専門はアメリカ思想史および表象文化論。映画批評もしばしば執筆。著書に『火星の旅人──パーシヴァル・ローエルと世紀転換期アメリカ思想史』(青土社、2020年、表象文化論学会賞奨励賞受賞)、『オーバー・ザ・シネマ 映画「超」討議』(共著、石岡良治+三浦哲哉編、フィルムアート社、2018年)など、訳書にジェニファー・ラトナー゠ローゼンハーゲン『アメリカを作った思想──五〇〇年の歴史』(ちくま学芸文庫、2021年)など。
    コメントを残すにはログインしてください。

    ピックアップ

    NEWS