ゲンロンサマリーズ(5)『(日本人)』要約&レビュー|徳久倫康

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初出:2012年7月3日刊行『ゲンロンサマリーズ #13』
橘玲『(日本人)かっこにっぽんじん』、幻冬舎、2012年5月10日
レビュアー:徳久倫康
 
 
 
要約
日本人論の間違い ● 『菊と刀』をはじめ、日本人論はつねに特殊性に着目する。そして日本人自身も、自分たちは特殊だと思っている。 ● しかし空気の読み合いと気配りを重視するのは東アジア共通の現象で、日本に限ったことではない。 ● また、東洋人は関係性に、西洋人は分類に注目するという明確な差異が心理学の実験で明らかにされている。 ● 新渡戸稲造にとべいなぞうの『武士道』も、日本が文化的な国であることを示すべく、武士をキャラとして利用した虚構にすぎない。
「空気」の原理と「水」の原理 ● 政治学の調査で、日本人は世界で類を見ないほど世俗的・合理的で、権威を嫌っていることがわかった。 ● 日本人は地縁・血縁を嫌い、学校や会社など偶然の出会いから仲間になる無縁社会を作ってきた。 ● 日本社会は、よく言われる「空気」(世間)とともに、「水」(世俗)という原理を持つ。日本人の特徴はむしろ後者。 ● 二つの原理は矛盾しない。空気の支配は、それなしではまとまらないほど個人主義的なことの裏返しである。   ローカルな正義からグローバルな正義へ ● グローバル化は富を平準化するため世界全体の幸福度は上昇するが、各国内での格差は拡大する。 ● グローバル空間では、空気の原理のようなローカルな正義は通用しない。 ● 他方、平等や自己決定を尊重するリベラルデモクラシーはグローバルな正義として機能している。 ● 正義の原理に基づくアメリカと違い、日本では道徳的な情緒が先行しがち。グローバルな正義の導入が必要だ。 ● 具体的には、定年制の禁止、同一労働同一賃金の法制化、解雇規制の緩和で流動的な雇用市場を作るべき。   リバタリアンのユートピアと日本人 ● 先進国は近代化の利益を享受しつくし、「夢」を失った。しかし、国家を超えたグローバルな世界思想は夢を描きうる。 ● 最も有力な世界思想はネオリベラリズム(新自由主義)。福祉国家の断念を特徴とし、80年代以降世界的に流行した。 ● 水の原理で動く世俗的・個人主義的日本人は、ネオリベラリズムと親和性が高い。小泉、橋下ブームは必然的。 ● ただし、より徹底した自由主義=リバタリアニズムだけは、ネオリベを超えるユートピアの可能性を持つ。 ● 個人主義で超越者(神)から自由な日本人こそが、ユートピアを実現する歴史的な使命を負っている。
レビュー
 経済方面に強い作家・橘玲の、『大震災の後で人生について語るということ』(講談社)につぐ震災後2冊目の著作。前著が具体的な投資法や資産運用を主題としていたのに対し、今作では射程を広げ、人類学、社会心理学、政治哲学といった諸分野の知見を引きながら、従来の日本人論を覆していく。ポイントは、テーマはあくまで「日本人」であって「日本」という国家ではないことで、最終的には国家を超えた、グローバル時代の新しい「日本人」論が語られる。  ただし最終章の、世俗性の強い日本人だからこそリバタリアニズムのユートピアに辿り着ける、という展望には注意が必要だろう。著者も強調しているとおり、ユートピアの成立は日本旧来のシステムの崩壊や国内の格差拡大と表裏一体であり、それを単純に喜ぶことはできない。そしてさらに注意すべきなのは、日本人は特殊ではないと主張していたはずの著者が、最終章では日本人の特殊性を強調し、それがユートピアの可能性を秘めている、と結論づけていることだ。日本人特殊論を否定した結論として新たな日本人特殊論が導かれるのは、いささか奇妙な事態である。  著者は、ユートピアに辿り着けるのは、国家に依存せず超越者を信じない個人だという。結局のところ、その夢を信じるかどうかは、私たち一人ひとりの決断に委ねられているのだろう。  なお、著者のホームページ(https://www.tachibana-akira.com/)で、書籍化の直前に削られたパートが公開されている。興味を持たれたかたは、まずこちらを参照されたい。
 
 『ゲンロンサマリーズ』は2012年5月から2013年6月にかけて配信された、新刊人文書の要約&レビューマガジンです。ゲンロンショップにて、いくつかの号をまとめて収録したePub版も販売していますので、どうぞお買い求めください。
『ゲンロンサマリーズ』ePub版2012年7月号
『ゲンロンサマリーズ』Vol.1-Vol.108全号セット

徳久倫康

1988年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒。2021年度まで株式会社ゲンロンに在籍。『日本2.0 思想地図βvol.3』で、戦後日本の歴史をクイズ文化の変化から考察する論考「国民クイズ2.0」を発表し、反響を呼んだ。2018年、第3回『KnockOut ~競技クイズ日本一決定戦~』で優勝。
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