ゲンロンサマリーズ(1)『「当事者」の時代』要約&レビュー|徳久倫康


要約
夜回り共同体
● 日本では記者クラブ所属の大手メディア記者と権力者が、言外の信頼に基づく夜回り共同体を形成している。
● 特定の場所に人と情報が集まる記者会見は、2ちゃんねるのような広場型メディアに似ているが、情報は希薄。
● 夜回り共同体は一対一の関係の連鎖で作られ、ツイッターのようなフィード型メディアに近く、関係性が濃密。
● 守秘義務がある以上、濃密でハイコンテキストな共同体なしに、権力者から情報を引き出すことはできない。
● 記者は権力に接近しつつも、弱者の意見の代弁者として、自分を正当化している(マイノリティ憑依)。
マイノリティ憑依の歴史
● 1965年ごろまでの日本人は、自分たちを戦争の被害者と認識しており、加害者としての自覚がなかった。
● ベトナム反戦運動をきっかけに、日本人は被害者だが、同時に加害者でもあるという自覚が生まれた。
● しかし70年代に入ると、一部で弱者への過剰な同化が始まり、次第に加害者視点は再び失われていく。
● マイノリティ憑依は、視点の分裂や戦死者への後ろめたさを同時に解消するための、画期的な手段だった。
● 人々は極端なマイノリティに憑依することで、地位や収入差を超え、自分が普通=中流だと確認できた。
当事者の時代へ
● 経済成長が行き詰まった以上、報道をバラエティ番組化させてきたジャーナリズムは見直されるべきだ。
● ソーシャルメディアで誰もが情報発信者となったいま、マイノリティ憑依は通用しない。
● みな自分の立ち位置を他人に投影して安心するのはやめ、各人独自の方法で当事者を引き受けるしかない。
レビュー
ITジャーナリスト、佐々木俊尚の1年ぶりの単著。前作『キュレーションの時代』(ちくま新書)のテーマはソーシャルメディアであり、人びとの「つながり」によって情報が選別される時代が来た、と主張していた。事実佐々木はいまも毎朝、注目すべきニュースやエントリを紹介するキュレーションを実践している。
だが本書には、ITについての記述は少なく、代わりに語られるのは、毎日新聞記者時代の経験に裏打ちされた多くのエピソードである。なかでも「夜回り共同体」の紹介は、近年さかんな記者クラブ批判に対するカウンターとも取れ、じつに興味深い。
著者は震災を受け、マスメディアが被災者たちに期待した「物語」と、実際の被災者たちの意識のずれに、マイノリティ憑依の限界を見たという。だが、自分の理想を押し付けることなく、ありのままの他者と向き合うのは、とても難しいことだ。著者はその困難を強調した上で、それでも私たちが当事者となることの重要性を訴えかける。最後の数ページに記されているのは、ほとんど祈りのような文章だ。
ツイートだけではうかがいしれない著者の強い決意が本の随所から立ち上がる、メルクマールとも言うべき一冊である。
・『ゲンロンサマリーズ』ePub版2012年5月号
・『ゲンロンサマリーズ』Vol.1〜Vol.108全号セット


徳久倫康
ゲンロンサマリーズ
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