ゲンロンサマリーズ(9)『ネットと愛国』要約&レビュー|峰尾俊彦
初出:2012年8月3日刊行『ゲンロンサマリーズ #21』
安田浩一『ネットと愛国──在特会の「闇」を追いかけて』、講談社、2012年4月
要約
レビュー
ここ数年、2ちゃんねるなどの日本のネット空間において「ネット右翼」や「嫌韓厨」と呼ばれる人々によるヘイトスピーチが跋扈している。そしてそのような言説を、ネットだけに留めず現実の草の根社会運動として発信し多数の支持を集めているのが、「在日特権を許さない市民の会」(「在特会」)である。ネットや社会運動の現場において注目を集めている彼らの存在を、私たちはどのように受け止めるべきなのだろうか。
本書は、在特会をレイシスト集団として全否定するのではなく、その只中に飛び込んだ視点から記述しようとする優れたノンフィクションである。著者の安田は過激な活動を行う在特会のメンバーに直接取材を敢行し、在特会の実態を描いていく。そこで安田が問いかけるのは、果たして私たちは在特会をそう簡単に切って捨てることができるのだろうか? ということだ。
在特会の活動は、ある意味では純粋な市民運動らしい市民運動である。在特会は運動に関心のなかったごく普通の人々を数多く動員し、左右問わず他の運動体では達成できなかったような大衆的な成功を収めた。その成功の理由は、ネットを駆使し過激な街宣活動の動画をアップロードして支持を集めていくという「草の根的」な宣伝戦略によるものであると同時に、左派も右派も見失ってしまったラディカルさを得ることで、普通の人々の不全感を見事に掬い上げていることにもある。安田も指摘しているように、そこにはかつての社会運動が担い、人にコミットメントを促した〈革命と連帯の夢〉がある。その意味で、在特会の主張や活動への拭い切れない違和感と、運動に生きがいを見出すメンバーへの共感というアンビバレントな感情が滲む著者の筆致は、この在特会の「厄介さ」を見事に映し出すものとして読者に迫ってくるだろう。
『ゲンロンサマリーズ』は2012年5月から2013年6月にかけて配信された、新刊人文書の要約&レビューマガジンです。ゲンロンショップにて、いくつかの号をまとめて収録したePub版も販売していますので、どうぞお買い求めください。
・『ゲンロンサマリーズ』ePub版2012年8月号
・『ゲンロンサマリーズ』Vol.1-Vol.108全号セット
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峰尾俊彦
1985年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程在籍。文学研究。「東浩紀のゼロアカ道場」に参加。『ゲンロン』にて共同討議「現代日本の批評」の構成を担当。
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