ゲンロンサマリーズ(7)『統治・自律・民主主義』要約&レビュー|斎藤哲也
初出:2012年11月2日刊行『ゲンロンサマリーズ #45』
宮台真司監修、現代位相研究所編『統治・自律・民主主義──パターナリズムの政治社会学』、NTT出版、2012年9月
要約
レビュー
本書は、社会学者・宮台真司監修のもと、その弟子にあたる堀内進之介、鈴木弘輝が中心となって編纂した論集である。主題となっているパターナリズム研究が重要な理由について、宮台は以下の2点を「解題」で挙げている。「第一は、グローバル化即ち〈資本移動の自由化〉への妥当な政治的対処と、民主主義の政治体制(民主側)とが、両立しがたくなっていること」。「第二は、日本が民主制にとって必要な社会的条件を満たさないということ」。その含意するところは、民主制を適切に機能させるパターナリズムは、現在の日本においては不可避であるということだ。
収められた八つの論文は、「パターナリズムからは逃れられない」という問題意識を共有しながらも、扱う素材やパターナリズムに対する価値評価はそれぞれ異なっている。だが、八つの論文のうちの半分が教育をテーマにしていることは注目すべきだろう。複数の論文で指摘されているように、教育の場ではつねにパターナリズムによって自律を促すというパラドックスがつきまとう。この困難に対して、各論者がいかなる診断を下し、どのような処方箋を提示しているかが本書の一つの読みどころになっている。
聞くところでは、パターナリズムは、ロースクールの入試問題で頻出の分野であるらしい。本書はあくまで社会学的なパターナリズム研究であるが、今後は、法学的な議論とも接続されていくことを期待したい。第5章の鈴木論文はその貴重な試みといえるだろう。
『ゲンロンサマリーズ』は2012年5月から2013年6月にかけて配信された、新刊人文書の要約&レビューマガジンです。ゲンロンショップにて、いくつかの号をまとめて収録したePub版も販売していますので、どうぞお買い求めください。
・『ゲンロンサマリーズ』ePub版2012年11月号
・『ゲンロンサマリーズ』Vol.1-Vol.108全号セット
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斎藤哲也
1971年生まれ。人文ライター。人文思想系、社会科学系の編集・取材・構成を数多く手がける。著書に『試験に出る哲学──「センター試験」で西洋思想に入門する』『もっと試験に出る哲学──「入試問題」で東洋思想に入門する』『試験に出る現代思想』(NHK出版新書)、『ちくま現代文記述トレーニング』『読解 評論文キーワード』(筑摩書房)など。編集・構成に『ものがわかるということ』(養老孟司・祥伝社)、『中国哲学史──諸子百家から朱子学、現代の新儒家まで』(中島隆博・中公新書)、『哲学用語図鑑』(田中正人・プレジデント社)、『新記号論』(石田英敬、東浩紀・ゲンロン叢書)ほか多数。2024年4月10日に編著『哲学史入門Ⅰ』(千葉雅也、納富信留、山内志朗、伊藤博明・NHK出版新書)を刊行。
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