浜通り通信(25)躍動する常磐ラッパーたち|小松理虔

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初出:2015年5月8日刊行『ゲンロン観光地化メルマガ vol.36』

 浜通り通信、小名浜の小松理虔です。
 
 私事ですが、3月末でかまぼこメーカー「貴千」を退職し、4月からフリーランスとなりました。調子に乗って「ヘキレキ舎」なる個人事務所を開業しまして、この1ヶ月、いわき市内外のあちこちを飛び回りつつ、ローカルな企画や編集、企業のPRなどのお手伝いを少しずつ始めています。唐突な退社だったので、あちこちから「小松大丈夫か?」と心配されていますが、皆さんの心配の通りまさに「お先真っ暗」な状態でして、いろいろまあ大変ですが(汗)、子どもと触れ合う時間も増えたし、やったらやったで道は開けるもんだろうと開き直っておりまして、意外にも毎日そこそこ楽しく暮らしております。

 なぜかまぼこメーカーを辞めたかというと、一言で言えば「潮時」と感じたからです。震災から4年ともなり、首都圏の取引先からも大規模な注文が戻りはじめ、一般消費者向けの直売やPRなどにコストをかける必要がなくなってきていたんですね。震災直後は、大口顧客からの注文が激減したこともあって「価値のあるブランド商品を作って直売するしかない」と会社も大きく方向転換しましたが、この4年で会社の期待した結果が出ず、また、ここにきて大口顧客からの問い合わせなどが増えつつある中、わたしのような人間にコストを払ってPRを続ける理由がなくなりつつあったと、そういうわけです。

 少し前になりますが、メディアのインタビューに対して、会社の幹部が「震災後の方向転換は失敗だった。これからは震災前のように、決しておいしいわけではないが、安い大量生産品を作って生きていくほかない」という主旨のことを語っているのを耳にし、責任を痛感しましたし、「わたしのような人間が関わることはかえって迷惑になるな」と直感しました。創業者の一族でもないのに、立場を利用していろいろなメディアに登場したり、本まで書かせてもらったり、まあこれまで3年間大暴走させてもらいましたが、このままではお互い不幸になってしまうなあと。そんなわけで「退職」という道を選んだと、ざっくりそういう経緯です。もちろん会社には感謝しかありません。
 思い出せば、在職中の最後の1年くらい「震災前の構造に戻りつつある」流れを感じていました。わたしはそれがイヤだったので変えられたらいいなと思っていましたが、変えられませんでした。変えたいなどという考えが、そもそも傲慢だったのでしょう。多くの人が言うように、震災と原発事故は、震災前からの様々な問題をより鮮明に浮かび上がらせましたが、かまぼこ業界に限って言えば(ほかの業界もそうかもわかりませんが)、それらの問題の多くは何十年にわたってじわじわと形作られたものであり、地理的な条件や人材・教育の問題なども絡んでいたりするので、原発事故のインパクトをもってしても変えようがない。そもそも「変えるべき問題ですらなかった」のかもしれません。それを痛感した3年間でもありました。

 そのあたりの心の変遷を『常磐線中心主義』では言葉にしたつもりです。コモディティこそ誇るべきだ。なにもないと思ってきた故郷の「なにもなさ」こそが実は豊かさそのものだったのだと。もちろん、そう思ったからこそ書いたわけですけれども、何もせず今後も「東京の下半身」のみで生き続けよ! と言っているわけではありません。あの本で書かれたことは常磐という地域性を理解するための「出発点」でしかないと思っています。多くの問題が温存されていますし、生き残りのためにはブランド戦略は必要です。それに、コモディティとは違った形で商品をアピールしていきたいという生産者も実際にはたくさんいます。わたしが独立したのは、そのような方たちを応援したいからこそでもあります。

 原発事故は本当に甚大な被害を与えたけれども、個人的には、この事故はこれまで福島が抱えてきた問題を解決する最大のチャンスになるのではないかと感じてきました。というか、そうしなければ被害を受けた人たちに申し訳が立ちませんし、あの事故は何だったのかということになってしまう。敢えて刺激的な言い方をすれば「これまであんまり冴えなかった福島県が飛躍できるチャンス」でもあるとすら思っています。不幸を背負った「被災地」としてではなく、様々な英知を結集して困難を克服した、世界の人たちが学ぶべき地として。ですから、あれだけの事故を経験しながら何事もなかったかのように震災の前の構造に戻ることには、やはり抵抗があるんですよね。
 2015年は震災後の日本に生きる人たちの「転換期」になるような気がします。「震災モード」から、かつての日常へ回帰するなかで、その日常をどう受け止め、どう選択していくのか。きっと外からはほとんどわからないと思いますが、各々静かに心の中で転換していく、そんな年になるのではないか。このメルマガも来月から「ゲンロン観光メルマガ」にリニューアルされるとのこと。東浩紀さんらしい、より思想的なアプローチになっていくのでしょうか。「浜通り通信」もどうやら存続?の方向とのことですので、これまで以上に勝手に、そしてフリーな立場で、福島から発信できればと思います。

 さて、前置きが超絶長くなってしまいました。今回はヒップホップの話です。『常磐線中心主義』でわたしが担当したいわき駅のパートでも、DAZU-O(ダズオー)という小名浜出身のラッパーへのインタビューを掲載したのですが、改めてローカルヒップホップは面白いなと感じています。人口32万のいわき市において、震災と真っ正面から向き合って表現しているのはラッパーくらいのものなんですね。もともとアーティストと呼べるような存在も多くなく、時節柄、福島を作品として取り上げることがますます面倒になっているなか、彼らのストレートな言葉にこそ「震災と表現」にまつわる現状が映し出されているのではないか。そんな風に考えて、本の中で取り上げたのでした。
 福島について取り上げることの面倒くささに「炎上」があります。しかし、彼らは彼らのルールとフィールドで動いている。別にSNSでどういう論調が作られているかなんて気にすることはほとんどありません。「東浩紀」や「津田大介」の存在も知らなければ、「開沼博」という社会学者が何を語っているかなんてたいして関係がない。「復興」というゆるふわワードに絡めとられるのでもなく、公共事業としてライブを企画しているわけでもない。彼らは彼ら自身の言葉で「勝手に」地元を語っていたりするわけです。だから面白いし、非常にリアルなんだと思うんです。


 個人的には、富岡町夜ノ森出身のATOMICがオーガナイズする「東西南北」というイベントがアツいですね。もともと双葉郡内で活動してきたDJやラッパーたちが、移住先のいわき市内で始めたヒップホップのイベントなんですが、自分のルーツや震災後の表現を強く意識した楽曲も多い。オーガナイザーのATOMICがたまたま小名浜に移住していて、何度かUDOK.でもイベントを共催してきましたが、とにかく表現することに飢えていて、血気盛んなのがいいですね。原発で働きながら活動を続けるラッパーなども所属していて、彼らの表現にはいつもドキっとさせられます。YouTubeなどで楽曲が紹介されているわけではありませんが、いずれ彼らのインタビューなども、浜通り通信で紹介できればと思います。

 いわき界隈のヒップホップシーンで言えば、いわき明星大学出身で、現在は東京を拠点に活動している狐火(キツネビ)が、特に目立った存在になっています。彼はメインストリームとは一線を画す「ポエトリーリーディング」的なヒップホップのジャンルでかなり知名度を上げており、自分の弱さや孤独など、自分の内面をリアルに吐露したリリックが多くの支持を集めていますね。震災や戦争など社会的なテーマにも果敢に切り込んでおり、先日池袋で開催された三宅洋平の選挙フェスでは、池袋の街中で自身の楽曲『山本太郎みたいに干された』を熱唱しています。

 震災関連では『PRAY FOR FINAL』というアルバムがもっともダイレクトな作品でしょうか。曲名も『レベル7』、『時間差メルトダウン』、『精神被ばく』など、震災と原発事故を強く押し出したものになっていますし、震災3日後にYouTubeにアップされた『被災地のあなたへ』という曲は、韻も踏まずリズム感もあまりないのですが、狐火の被災地への思いが怒濤の言葉で綴られており、狐火らしさがもっともよく表れている作品になっているように感じます。3日間で作られたというフレッシュさが、YouTubeの動画からも伝わってくるようです。

 それから『常磐線中心主義』でも取り上げたDAZU-Oについても紹介しておきましょう。DAZU-Oは小名浜出身、現在はいわき市鹿島に「Yellow」というバーを経営しながら、ローカルシーンで活動しているレペゼンいわきなラッパーです。震災後の2013年に盟友である大<オロチ>蛇というラッパーとともに、上野から仙台まで各駅を拠点にするラッパーたちとコラボした『常磐DOPE』というアルバムを残していますが、意識的にせよ無意識にせよ、東京からの距離感や常磐各地の意識の違いなどがよく表れているのが興味深い。『常磐線中心主義』より2年も早く「常磐」にフォーカスしているのは、やはりラッパーたちの感度のよさだと思うんですね。
 
 『常磐線中心主義』が鉄道をテーマに取り上げたのに対し、彼らは、自らのリリックにも取り上げられているように「常磐自動車道」あるいは「国道6号線」を動脈と考えている。電車ではなく「車」というのは、「東京からみた常磐」ではなく、むしろ「常磐から見た常磐」に徹していてリアリティを感じます。何の打算もなく直感的に「常磐」を志向しているあたりが、やはりヒップホップの面白さなんだろうなと思うんですね。開沼、五十嵐という常磐エリアを代表する社会学者よりも先に気づいちゃってるわけですから。

 地方でヒップホップというと「マイルドヤンキーの受け皿」みたいな印象があります。もちろん、そういうヤツらも多少いるけれども、アーティスト不在の浜通りにおいて、今もっとも表現することに敏感なのが彼らだと思うんですね。ですから、今、浜通りで何が起きているのかを知るためには、彼らの無骨な、そしてストレートな音楽に耳を傾けるのもいいと思います。ローカルすぎてググっても音源が出てこないアーティストもたくさんいますが、それも含めて浜通りの「今」なんですよね。レッツチェケラッチョー!
「本書は、この増補によってようやく完結する」。

ゲンロン叢書|009
『新復興論 増補版』
小松理虔 著

¥2,750(税込)|四六判・並製|本体448頁+グラビア8頁|2021/3/11刊行

小松理虔

1979年いわき市小名浜生まれ。ローカルアクティビスト。いわき市小名浜でオルタナティブスペース「UDOK.」を主宰しつつ、フリーランスの立場で地域の食や医療、福祉など、さまざまな分野の企画や情報発信に携わる。2018年、『新復興論』(ゲンロン)で大佛次郎論壇賞を受賞。著書に『地方を生きる』(ちくまプリマー新書)、共著に『ただ、そこにいる人たち』(現代書館)、『常磐線中心主義 ジョーバンセントリズム』(河出書房新社)、『ローカルメディアの仕事術』(学芸出版社)など。2021年3月に『新復興論 増補版』をゲンロンより刊行。 撮影:鈴木禎司
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