友の会から(5) 「第九」もシラスも世界平和のために──福岡ジルベスターコンサート実行委員会、qppさんインタビュー

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webゲンロン 2024年12月27日配信
 ゲンロンの活動は支援組織「ゲンロン友の会」のみなさまによって支えられています。「友の会から」は、会員の方が普段どのような活動やお仕事をされているのかを紹介するインタビュー企画です。
 第5回は、シラスの番組のコメント欄をご覧の方なら一度はそのハンドルネームを目にしたことがあるはずの「qpp」さんにお話を伺いました。番組を盛り上げるやわらかなコメントでおなじみのqppさんの友の会へのコミットや地元で運営されているコンサート、それらの活動を支える思いについてお話を聞きましたので、ぜひお楽しみください。(編集部)

──qppさんは、シラスのコメント欄で存在感を放つ有名なシラシー(シラスユーザー)さんであるとともに、お住まいの福岡ではじめてのゲンロン・シラス非公式ミニ総会「人文マルシェ(ぶんまる)」★1を開催するなど、ゲンロンのコミュニティに積極的に関わっている方です。また、今年(2024年)の年末に第8回を迎える「福岡ジルベスターコンサート」★2の運営にも長年携わっており、その経験がぶんまるの開催に活かされたと言います。

 今日はこのふたつの活動についてお話をうかがえればと思います。

 

qpp よろしくお願いします。

 

コロナ禍下でのシラス体験

──まずは、いつから友の会の会員なのかをお聞かせください。

 

qpp 入会は2020 年9 月です。コロナ禍の最中で、シラスが始まる直前ですね。

 

──ゲンロンを知ったきっかけはなんですか?

 

qpp 2017 年ごろにYouTubeで政治や社会学関係の動画をいろいろ見はじめて、そのなかで東浩紀さんを見つけたことです。言っていることが的確で問題意識に共感できたし、なにより話がおもしろい。それをきっかけに当時出ていた東さんの『ゲンロン0 観光客の哲学』も読みました。

 

──2017年にそういった動画を見はじめたきっかけはなんでしょうか?

 

qpp 2016年のブレグジットやトランプの大統領選勝利です。それまでほとんど政治に関心はなくて、世界はこのまま平和で多様性もどんどん認められ良い方向にむかっていくものだと勝手に思っていたんです。でも、どうやらそうではなさそうだと衝撃を受け、自分のなかで納得がいく価値観を求めていました。

 いろんな動画を片っ端から見るなかで、はじめは宮台真司さんの動画もおもしろいと思ってよく見ていたのですが、そのあと東さんを見つけてからは東さんのものばかり見るようになりました(笑)。

 

──なるほど。

 

qpp そこからゲンロンにも徐々に興味を持つようになり、ゲンロンカフェでのはじめての観覧として2020年3月の小松理虔さん、石戸諭さん、東さんのイベントを予約しました。ウキウキ楽しみにしていたのですが、ちょうどコロナで会場観覧が中止になってしまいました。そういうこともあって、コロナ初期にゲンロンが募っていたカンパも参加しました。

 

──そして半年後にシラスがローンチされるわけですね。

 

qpp はい、ここまでゲンロンにコミットするようになったのは、やはりシラスの存在が大きかったです。

 

──シラスにハマったきっかけはなんだったのでしょう?

 

qpp コロナと外出規制です。ひとり暮らしなので、だれともご飯にもいけない状況がとてもストレスフルで、シラスでおもしろい話を聞いたりコメント欄で交流したりするのがほんとうに救いだった。一時期、わたしの人生は仕事とシラスしかないぐらいの勢いでのめり込んでいました。

 

──(笑)。視聴者のなかにはROM専でコメントはあまり書かない方もいますが、qppさんははじめからコメントをたくさん書かれていました。もともとそういう文化に親しまれていたんでしょうか?

 

qpp コメント文化が盛んなニコニコ生配信はほとんど見ていませんでした。でも、わたしが学生のころがちょうどインターネットが出てきはじめた時期で、それにすぐ食いついたほうだったのは関係あるかもしれません。近くの駅のパソコンショップで、店頭に何台か置いてあるパソコンがお金を払えば使えるというサービスをしていたんです。それこそ1時間◯◯円といったかたちで、言ってみればネットカフェのはしりみたいなものですね。若い身からすればやはりインターネットは興味の対象だったので、友達といろいろ検索してみたり、ハンドルネームを使ってやりとりするチャットサイトにハマったりして、定期的にそこに通っていました。

 

──シラスにつながりそうな体験ですね。当時からハンドルネームはqppさんだったんですか?

 

qpp ちがいます!(笑) qppはシラスではじめて。

 

──ハンドルネームの由来を教えてください。

 

qpp よく聞かれるのですが、由来はとくにないんです。完全に音と字面だけで決めました。SF編集者でシラサーの小浜徹也さんには「そういうことを言うやつに限ってなにか深い意味を隠しているにちがいない」と言われたりするんですが、ほんとうにない(笑)。

 それはさておき、ゲンロンには賢いひとたちが集まる敷居の高いところというイメージがあったんですが、わたしは真面目なひとたちが好きなので、ここにいるひとたちと仲良くなりたいという気持ちで恐る恐るコメントしていました。

 

──恐る恐るだった時期を経てコメント欄のみなさんと打ち解けたきっかけはありますか?

 

qpp 無名でも実名でもない、ハンドルネームでのやりとりというのが大きいと思います。名前があれば固有性があり仲良くなりやすいですし、実名ではないハンドルネームなので失敗したとしてもべつに現実世界が脅かされるわけではない。それとやはり真面目で穏やかな方が多いことが救いでしたね。コメント欄でヘイトなど、ひどいことを言うひとがいないのも安心感がありました。

 でも逆に、コメント欄に知り合いが増えるに連れて、身内だけのやりとりになってもいけないなとも思うようになりました。仲の良いひとができるのは嬉しいけど、そこだけで「こんにちは」ばかり言っていたら他のひとが入ってきにくい。

 

──勉強になります。

 

qpp あと、わたしのように学問の知識があまりないひとがコメント欄に混じっていたほうがひとは輪のなかに入ってきやすいかなという思いもあったので、そういう部分を積極的に担っていこうという意識もありました。わたしだけでなく、コメント欄でよく名前を見かける方の多くは「どうすればこの場がより良くなるか」を考えていると感じます。

 

──ありがとうございます。ゲンロンのほかにはどんなチャンネルをご覧になっていますか。

 

qpp 月ごとに変わりますが、いまは「唐澤頼充のかやぶきコモンズ」、「小松理虔のローカルNICEST」、「山下Topo洋平のHappy New Moment」をよく見ています。前者ふたつは地域コミュニティへの関心から視聴しています。Topoさんはシラスの初期のころに福岡に来てくれた縁と恩があるというのと、もちろんケーナも素晴らしいから。それと、月額の値段が安いというのも大きいです(笑)。

モチベーションは世界平和です

──Topoさんが福岡に来てくれた恩というお話がありましたが、やはり福岡への愛は強いですか。

 

qpp どうでしょう。福岡は住みやすいし、食べ物も美味しいし、とても良い街だとは思いますけど、全国どこにでもそういう場所はあると思います。だから、「福岡じゃなきゃ絶対ダメ」とは思わない。それよりわたしはひとベースでものごとを見ていて、一緒に過ごすひとたちがいいひとだったらそこにいたくなる。わたし自身も出身は福岡ではなく大阪ですし、今日のもうひとつのテーマである福岡ジルベスターコンサートの運営も福岡出身というひとは意外とそこまで多くないです。

 

──そちらの話に移りましょう。福岡ジルベスターコンサートはどういうもので、qppさんはどういったことをされているのでしょうか。

 

qpp ジルベスターという言葉はたんにドイツ語で「大晦日」という意味なんです。だからジルベスターコンサートという名前の年越しコンサートはいろんなところでやられています。

 一番有名なのは、「東急ジルベスターコンサート」という1995年から開催されているコンサートですね。そこも含めて、有名な指揮者を招いて出演者も全員プロでやるところが多いのですが、うちは全国的にも珍しくプロアマ混合でやっています。オーケストラだとトップ奏者だけがプロであとは一般公募、合唱はほぼ全員が一般公募です。そして、毎年ベートーベンの「第九」をかならずプログラムに入れています。

 運営は「福岡ジルベスターコンサート実行委員会」という、ボランティアスタッフも含めると20数人規模の団体がやっています。わたしはそこの事務局長をやっています。

 

──つまり、かなり偉い……?

 

qpp いえいえ(笑)。いちおうナンバー 2ですけど、偉くないです。トップには立ち上げメンバーでもある実行委員長がいて、中心となる実行委員がわたしを含めて5人、そのほかに活動が盛んな合唱団の活動を運営するためのメンバーが8人ほどいます。

 

──qppさんや運営メンバーの方も歌うのでしょうか。

 

qpp そのあたりはひとによってバラバラで、わたしは歌うこともありますけど基本的には裏方です。ただ、第九は合唱を成立させるために必要な人数が多いので、コンサートで第九をするときはメンバーが一般公募で集められるケースも多く、他団体にお手伝い的に参加して歌うこともあります。うちは今年使う劇場がすこしせまいので合唱が 70 数人になっていますが、合唱100人前後にオケも足して200人近くでやることもありました。

2023年コンサートでのカウントダウンの様子

──一般公募ということは、メンバーは毎年変わるわけですよね。練習はどうしているのでしょうか。

 

qpp 合唱のほうは年間をつうじてずっと練習しています。年末のコンサートにむけての練習は夏から始まるのですが、2月から6月くらいまでのあいだは、福岡の「合唱祭」という別のイベントにむけて練習をしています。うちは初心者歓迎でここを新しい趣味の入り口にしてくれればという思いがあるので、そのぶん練習はしっかり基礎的なところからやります。

 

──ご自身は合唱の経験があったんですか?

 

qpp ありません。音楽自体もほとんどやったことがありませんでした。

 

──どういう経緯で参加されたのでしょうか。

 

qpp かんたんに言うと「なにか新しい趣味が欲しいな」と思ったのがきっかけです。当時の職場がずっとクラシックを流していたので、「オーケストラみたいにたくさんの人数で音楽をつくる一員になれたら素敵だな」と思いました。それで、福岡の市民楽団に電話やメールで「経験はまったくないんですけど、なにかやらせてもらえませんか」と問い合わせました。

 

──フットワークが軽い!

 

qpp というより、舐めてました(笑)。当時のわたしは無知だったので、「まあ打楽器くらいならできるかな」と思っていて……。当然ながら、どこに行っても「あるていど基礎ができてからじゃないと入れませんよ」と言われて事態を悟り、まずは手軽そうなフルートをやってみようと音楽教室に通いました。教室の先生が紹介してくれたコンサートに行ったとき、会場で福岡ジルベスターコンサートのチラシを見つけたんです。「そういえばむかしから第九を歌ってみたかったんだよな」と思ったのですが、よく見ると参加費が2万円で高い。その横にボランティアスタッフ募集と書いていたのでそちらで行くことにしました(笑)。

 

──それで徐々に関係が深くなっていった。

 

qpp ふつうはそう思いますよね。でもちがうんです。わたしが参加したのは第 2 回の後半でした。2015年のことです。もともと、このコンサートはその前年に福岡の音楽好きが集まって「こんなことができたら楽しいね」と始めたものが、準備期間も短く結果的には大きな赤字になってしまいました。当然続けるのか辞めるのかという話になったらしいのですが、なんとか続けようとなり、そのタイミングでわたしが参加する事になったのです。顔合わせでわたしが「音楽の経験はなくて、受付とか事務周りの仕事ならできると思うんですけど……」と言ったら、「そういうひとが欲しかったんです!」と割とすぐ会計担当に抜擢されました。

 それでもそのときは当時の事務局長がいたんですが、第2回も第 3 回も第1回ほどではないにせよ赤字からは抜けきれず、運営自体も大変になる一方だったため、第3回を終えるころには「もうこれ以上続ける事はできない」と身を引いてしまって……。

 

──『ゲンロン戦記』みたいな話ですね(笑)。

 

qpp そうなんですよ。だからあの本を読んだときは、「すごくわかる」と思いました。それで結局事務局長が辞めてしまい、実行委員長と今後の話し合いになったところで「事務局長を引き受けてほしい。あなたがやってくれれば続けられる」と言われた。「わたしにそんなことができるのかな」と思いつつも、実際に来てくれたみなさんの声で気持ちが傾いて。

 合唱団には高齢の方もたくさん参加されているのですが、なかでも一番心に残っているのは、仕事や子育ても一段落して旦那さんも亡くされたという方が「これまでは寂しい年末年始を過ごしていたけど、ここに来るとみんなと楽しい時間を過ごせて幸せだった」と言ってくれたこと。これは絶対に続けねばと思いました。

 

──それは嬉しいですね。

 

qpp わたしは、このコンサートで、関わってくれたひと一人ひとりの人生をちょっとずつ豊かにできればと思ってるんです。舞台に上がるひとにはいろんな背景があって、年齢も仕事もバラバラだし、思想があわないひともなかにはいると思います。でも、そのひとたちがひとつの音楽をつくるために一緒に頑張れるというのは素晴らしいことです。とくに第九は、一度覚えてしまえばどこの国に行っても一緒に歌えますしね。そういうことの積み重ねで世界は良くなっていくと思っています。

 言ってしまえば、モチベーションは世界平和です(笑)。

事務とぶんまる、地方とゲンロン

──良い話でした。ところで、qppさんが会計や事務ができたのはお仕事が関係していたのですか。

 

qpp はい。転職歴は多いのですがほぼすべて事務の仕事だったので、広く浅くわりとなんでもできます。事務はめんどくさいうえにあまり日が当たらないので嫌いなひとが多いのもわかりますが、わたしは好きなんですよね。

 

──ぶんまるでも運営を担当されました。開催は東さんの配信で話が持ち上がったんですよね。

 

qpp そうです。ぶんまるの前段として、まずは2024年3月の友の会総会で、会員がブース出展できる「ゲンロン・シラス コミュニティマーケット」というのがつくられました。そこに、それまでZoomやオフ会をつうじてできていた仲の良いシラシーのコミュニティでブースを出して、同人誌を売ったんです。

 ぶんまる開催のきっかけは、その総会のあとに東さんがやっていた配信に、同人誌を一緒につくったシラシーのsimesaba氏とふたりで急遽電話出演したときです。東さんが「こういう会員同士の交流会が半年に1回くらいできると嬉しいけど、ゲンロンではとてもそこまではできない」と言っていて、simesaba氏が「じゃあぼくらがやりますよ」と。東さんも「もしやってくれるなら俺はひとりでも行くよ」と言ってくれて、これはやるしかないということになりました(笑)。

 そこからはすぐに会場探しです。最初は神戸に決まりかけましたが、紆余曲折があって福岡になりました。

 

──相変わらずフットワークが軽いですね。

 

qpp そうですかね。でも、もともと東さんが地方に来てくれたらいいなというのはずっと思っていたんです。東京までは遠いからなかなか行けないけど、東さんに会って話を直接聞きたいひとは地方にたくさんいるはずです。だから、じつはそれまでも「どうやったら東さんを呼べるかな」と思って、過去に東さんを呼んだことのあるひとが主催するイベントに行って主催者と仲良くなることを試みるなど、ひそかに活動はしていました(笑)。ただ、実際に呼べるところまでは遠いなあと思っていたので、非公式総会の話はほんとうに渡りに船で、わたしからすれば奇跡みたいな話でした。

 そういう経験があるので、最近始まった友の会企画の「ぶら友(ゲンロンぶらり友の会)」★3は最高の試みだと思います。東さんにもいろんなひとに会ってほしいし、いろんなひとに東さんの話を聞いてほしい。

ぶんまるでの東浩紀(左)とqppさん(右)

 

──ゲンロン・シラスへのコミットとジルベスターコンサートの運営のあいだにはなにか関係や共通点はあると思いますか?

 

qpp ジルベスターの話のときに「世界平和」なんて言葉も出しましたけど、どちらもより良い未来のための活動だという点で共通していると思います。あとは、応援したがりなわたしの性格が出ている(笑)。

 

──むかしから企画を立ち上げたりだれかの活動をサポートしたりするのが好きだったのでしょうか。

 

qpp いえいえ、学生時代や若いころはまったくそうではなかったです。冷めた学生だったので、部活で熱くなるみたいなことはしたくなかったし、企画や運営に熱中したりするひとたちのことも「変わってるな」と思っていました。でも40歳くらいになって、「わたしはいままで恵まれて生きてきたな」と思うようになり、人生の後半は社会や他人にお返しをして生きていきたいという気持ちになってきた。みんなや社会が幸せなことが自分の幸せであり、そのためにできることをできたらいいなと。

 仕事も、いまは児童福祉関係の職場で働いているのですが、若いころはこういう方面に進む友達を見て「なんであんなにしんどい仕事をするんだろう」と思っていました。でも、いまはこの仕事が好きでずっと続けたいと思っています。

 

──素晴らしいですね。

 

qpp とはいえ、いまの仕事に就くまでは事務職ならなんでもいいというかんじで業種も選んでいませんでしたし、もっと若いときは自己実現とかキャリアアップみたいなことばかり考えていましたよ(笑)。でも、あるとき転職のための模擬面接で面接官に「会社や社会はあなたの自己実現のためにあるわけじゃないから」と言われて、「たしかに!」と強く思ったことを覚えています。そういう小さな経験の積み重ねですこしずつ変わっていったのかな。

 

──最後に、今後のゲンロンへのメッセージをお願いします。

 

qpp 東さんの思想として、広く多くの人びとに届く言葉で語るところが好きです。社会の上のほうの層にとってだけいい世界をつくろうとするのではなく、ダメなひとも含めてすべてのひとが幸せになれる世界をつくるための活動をされていると感じています。

 会員を4年ちょっと続けてきて辞めようかなと思ったことは一度もないので、いまの方向性のまま突き進んでほしいです。逆にわたしがゲンロンを離れたくなるときがもしくるとしたら、それはゲンロンからそういう部分が失われてしまったと感じたときなのだと思います。会員のなかには「なにかゲンロンの力になれることがあればやりたい」と思っている方もたくさんいらっしゃると思いますし、これからもみなさんと一緒に歩めていけたらなと思います。

 

──力強い言葉をありがとうございます。今日はありがとうございました。

2024年12月13日
Zoomにて収録
構成・注=編集部
写真提供=qpp


★1 詳細は以下のページを参照。URL= https://bunmaru2525.studio.site/
★2 詳細は以下のページを参照。URL= https://fukuokasilvester.jimdosite.com/
★3 詳細は以下のページを参照。URL= https://webgenron.com/articles/2122=
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