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    「禁酒令」下のゲンロンカフェで――小松理虔×さやわか×辻田真佐憲(+東浩紀+上田洋子)「シラスと酒」イベントレポート

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    ゲンロンα 2021年7月6日配信
     シラスの開設から半年が過ぎた。当初はゲンロン完全中継チャンネルのみで始まった配信プラットフォームだが、いまでは総チャンネル数は19を数える(7月6日現在)。番組を見ていてとりわけ印象的なのが、チャンネルを問わず、多くの配信者が酒を飲みながら語りかけていることだ。 
     そんなわけで、さる5月2日、福島の酒と食の魅力を紹介する「ローカルNICEST」の小松理虔氏、宝酒造の焼酎ハイボールを片手にサブカルチャーについて語る「カルチャーお白洲」のさやわか氏、そして、ありとあらゆる酒を飲みこなす「国威発揚ウォッチ」の辻田真佐憲氏を招き、酒を片手に楽しく語り合うイベントが開催される運びとなった。なぜ「シラサー」たちは酒を愛するか。 
     当時は緊急事態宣言下。夜の五反田の片隅で、彼らはなにを語ったのか。本レポートではその熱気(と酔気)の一部を紹介する。(ゲンロン編集部)

    君が代と日本酒



     会場には登壇者3人が2本ずつ持ち寄り、合計6本の日本酒が集まった。挨拶もそこそこに乾杯し、各自が持ち込んだ酒のプレゼンが始まる。まずは3人の酒を1本ずつ紹介しよう。 

     小松が持参したのは、やはり地元福島の地酒、大木代吉本店の「楽器正宗」。一風変わった名前だが、その由来は大正時代にまで遡る。旧皇族の朝香宮鳩彦王(あさかのみややすひこおう)が蔵元を訪れた際、この酒をいたく気に入った。随行していた雅楽師で、君が代の作曲者とされる奥好義(おく・よしいさ)から「酒造りも楽器を奏でることも、元は同じく神様への捧げ物」と言われたことから、酒の名前としてよくある「正宗」に「楽器」を組み合わせ名付けられたという。国家の作曲者に由来する日本酒! 『ふしぎな君が代』の著者である辻田と酌み交わすにぴったりの銘柄が、イベントの1杯目となった。 

     さやわかが持参した酒は、宮城県気仙沼市にあるおけい茶屋の限定酒。平成3年に製造された古酒である。自身が主任講師を務める「ゲンロン ひらめき☆マンガ教室」の聴講生の1人からもらったもので、燗をつけて飲むのが最適だという。 

     最後の辻田は、新潟県柏崎市にある阿部酒造の日本酒「あべ」を紹介。その名前のインパクトからか、以前にチャンネルで取り上げた際に視聴者の反応が良く、満を持しての再登板となったのだという。ラベルの文字が目立つ。 

     まさに三者三様、それぞれのバックグラウンドが垣間見える紹介となった。6本すべての銘柄について知りたい方は、ぜひ番組をご視聴いただきたい。 

     
     

     

    日本人と酒



     酒の紹介が済むと、それぞれの短いトークに移る。印象的だったのが日本人と酒にまつわる辻田のプレゼンだ。 

     辻田によると、日本人が酒好きであることは、古くから外国の文献でも確認されているという。たとえば、中国の正史である『後漢書』には、日本人について「人性酒を嗜む」と記されている。ほかにもルイス・フロイスの『ヨーロッパ文化と日本文化』では、「われわれの間では誰も自分の欲する以上に酒を飲まず、人からしつこくすすめられることもない。日本では非常にしつこくすすめ合うので、あるものは嘔吐し、また他のものは酔払う」といった、いまの我々も見慣れた光景について描写されている。日本の飲み会の模様は他国から見るとめずらしいものだったようだ。 

     さらに日本が近代化へと向かう明治時代には、収入のうち酒税に占める割合が増え、日露戦争の頃には国税の税収の第1位となった。酒は国民の生活を支え、また政府の財政も支えていたのである。 

     つまり日本が近代化を成し遂げた要因はなにか。酒であると辻田は断言する。その「エビデンス」が示されたプレゼンであった。 

     
     

     

    究極のおつまみ



     酒には当然つまみが必要である。小松からは知人の話として、酒飲みが最終的に行き着くつまみについて語った。 

     究極のつまみとはなにか──それは輪ゴムだというのだ。 

     これにはさすがに視聴者(コメント)もどよめいた。どういうことかというと、輪ゴムに塩や醬油をつけて食べるのだという。もちろん飲み込みはしない。噛んでいて味がなくなったらまた調味料をつける。そして食べる。これを繰り返す。つまり輪ゴムは、調味料に食感を与えることによって、つまみへと進化させるものなのだ。小松はこれを永久機関と呼んでいた。勇気のある酒飲みの方は試してみると良いだろう。 

     
     

     番組の中盤には東浩紀も登壇し、辻田チャンネルの開設当初を振り返る一幕があった。 

     辻田の初回放送はいくつかの奇跡(アクシデント)が重なったことで「神回」とよばれるようになり、いまでも一部では語り草となっている。その結果、辻田チャンネルは多くの購読者を獲得し、華々しいスタートダッシュを決めた。当然、シラス関係者の多くはこの流れを歓迎していた。 

     しかしシラス以前からニコ生で配信に慣れていた東は、ひとりの古参配信者として強い危機感を持ったという。こんなことを許してはいけない。そこで2021年1月19日、辻田が行った突発放送にかぶせる形で、自身も突如突発を開始。題して「東浩紀がシラサー辻田についに挑戦」となるこの放送は、新時代のトップ・シラサーに対抗する話し手としての意地が感じられる配信となった。一方の辻田はそのとき、負けじと降り積もる雪を食べたりしていた。なにを言っているかよくわからないと思うが、一切の誇張はない。アーカイブ動画の早期視聴をおすすめします。 

     
     

     夜更け近くにはゲンロン代表の上田洋子も登壇。ロシア通の上田ならではの酒としてジョージア(グルジア)産のワインが新たに開けられ、ますます話は弾んだ。酔っ払いトークだけではなく、イベントの直前に行われた兵庫県豊岡市長選で、「演劇のまち」を掲げていた現職市長が敗れた結果を受け、市民社会と芸術の関係性にまつわる真面目な議論もされたとかされないとか。 

     イベントは9時間にもおよび、話題はあちらこちらに広がった。それはまさに「飲み会の雑談」であり、あるときはひとつのテーマを掘り下げたかと思えば、またすぐ次の瞬間には別の話題に飛躍しする、そんな時間だった。多人数での飲み会が制限される昨今、コメント欄にはそんな姿を懐かしむ言葉も多く見られた。 

     人々が集まり、酒を片手にざっくばらんに語り合い、家へと帰る(あるいは帰らない)。『後漢書』に書き留められ、ルイス・フロイスが目撃した日本人の「伝統」が、ふたたびあたりまえの光景になる日を願っている。(江上拓) 

     
     

     シラスでは、2021年10月30日までアーカイブを公開中。ニコニコ生放送では、再放送の機会をお待ちください。

    小松理虔×さやわか×辻田真佐憲「シラスと酒──フリーランスにとって自由とはなにか」 
    (番組URL=https://genron-cafe.jp/event/20210502/

     

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