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    上京者たちの見た東京──飯沢耕太郎×大山顕「写真・東京・スマホ」イベントレポート

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    ゲンロンα 2020年11月13日配信

     写真評論家の飯沢耕太郎氏と写真家の大山顕氏による対談シリーズ。注目の第3弾が行われた。大山の『新写真論』をきっかけに始まった本シリーズは、6月の第1弾「写真はほんとうに人間を必要としなくなるのか」、8月の第2弾「心霊写真から写真を考える」と続き、その熱い対話は新たな写真の見方を提供してきた。
     今回のテーマは「写真・東京・スマホ」。「写真」と「スマホ」に囲まれた「東京」がきわだつ。「東京」について語る時、その視点はどこにあり、我々はどこから「東京」を語るのか? 今回の対談を聞いていて、関西からやってきた一人の「上京者」として、自身の東京の中での位置を見つめ直すような感覚を覚えた。(ゲンロン編集部)
     
    「東京」とはそもそもなんだろうか。飯沢は「スクラップ・アンド・ビルド」だと答える。東京は変わり続けてきた。そしてその変化は日本における写真の歴史と切り離せない。明治維新、関東大震災、太平洋戦争、高度経済成長——街の変化は、日本の芸術写真にとっても大きなターニングポイントとなった。

     東京は絶えず変化していく街であり、変化前の姿をかけらも残さない。消えていくものを記録するメディアである写真にとって、常に変化し続け、揺れ動く東京はまさにうってつけの都市であると言える。逆に言えば、変化しないものを写真に収めても意味がないのだ。

     


    「上京もの」と東京


     東京はいつまでも自分の居場所とは思えない街だ。仙台から上京し、東京に40年暮らす飯沢でもそう所感を述べるほど、東京はいつまでも自身の「外」にあるような都市だ。

     大山は、写真と文学を題材に「上京者が描写した東京」を紹介した。日本文学においては、石川啄木のような「外」の人間が客観的に東京を見つめることで、自然主義が勃興し近代化が行われた。他方で写真の世界では、元々東京に住んでいた「内」の人間が東京を観察し、写真にすることで近代化が起こったのではないか。

     


     東京に上京してきた人間は、東京という都市と今まで自分の暮らしてきた場所との差に大きなショックを受ける。筆者自身も、初めて東京にきたときの交通機関や人々の忙しなさ、街の中で感じた所在なさは、忘れることができない。

     そのショックは、小説や詩など言葉による表現が生まれるきっかけにはなる。けれども飯沢がいうように「ショックでシャッターは切れない」。写真は、写真家自身が都市の中に身を置いて、観察を積み重ねる中で出会う、現場での偶然の一瞬を撮る行為だ。文章を作る過程では、都市から受けたショックを自身の脳内で咀嚼しながら表現を生み出す。写真は、撮影者の存在する場所がダイレクトに影響する。ここに文学と写真の創作の違いがあるのではないか。

     イベントでは、関東大震災以降東京を描写する地方出身者が、東京の盛り場が銀座から渋谷などの西の方へ移動することと連動して、東から西へ移動してきた現象も話題となった。もともと東京の東側に住んでいた人々にとって、渋谷や田端などの「西」に移動することは都落ちのように感じられる。けれども、上京者にはその抵抗がないのではないかと二人は語った。大山は、当時発展し切っていなかった「西」に、上京者たちは自分の故郷と似たような風景を見出したのではないかと推測した。

    「どこまで東京?」と「スマホのスナップ写真」


     飯沢はスマホの写真に貧しさを感じるという。その一方で、カメラとは違う気軽さもある。今年(2020年)10月に出版されたときたまの『たね』は、全編iPhoneで撮影された写真集だ。イベントでは『たね』を参照しつつ、新たな「スマホの写真論」が展開された。

     大山が『新写真論』で強調したように、スマホの写真は、ファインダーを見て撮るのではなく、結果を画面で確認して撮影することに特徴がある。その撮影は主観的ではなく常に客観的であり、スクリーンショットの保存と同義なのだ。そこで撮られるのはかつての写真とはまったく異質のものである。

     飯沢は、そのような「スマホの写真」をあえて写真集としてまとめることで新しい批評が生まれるのではないかと話す。スマホに保存された写真をカメラロールの外側に持ち出すことで、従来の写真とどう違っているのかが見えてくるのではないか。両者はともに、このアプローチに可能性を感じているようだ。

     他方で大山は「どこまで東京?」というプレゼンも披露。郊外育ちの人々が持つ体感的な東京のイメージと、東京生まれの人々の持つ東京のイメージ、あるいは別の地方から上京してきた人間の持つ「どこまでが東京か」の感覚は、驚くべきほどに違う。「スクラップ・アンド・ビルド」で変化し続ける街だからこその多様性は、写真でしか捉えられないのかもしれない。

     イベントの模様はアーカイブ動画で公開中。シラスでは半年後の2021年5月4日(火)まで視聴可能だ(ニコ生では今後再放送を予定)。上京者、東京者、郊外在住者……など、東京との距離感によって、イベントそのものの見え方も違ってくるかもしれない。 (清水香央理)

     こちらの番組はVimeoにて公開中。レンタル(7日間)600円、購入(無期限)1200円でご視聴いただけます。
     URL=https://vimeo.com/ondemand/genron20201104

     


    飯沢耕太郎×大山顕「写真・東京・スマホ──いま都市を撮るとは」
    シラス:https://shirasu.io/t/genron/c/genron/p/20201104
    ニコ生:https://live2.nicovideo.jp/watch/lv328777342
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