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    野党が勝つための唯一の方法──三浦瑠麗×東浩紀「ほんとうの日本はどんな国?」イベントレポート

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    ゲンロンα 2020年9月24日配信

    ますます盤石さを増す自民党政権


     イベント当日(9月18日)から遡ることわずか3週間。8月28日、安倍首相が持病の悪化を理由に辞任の意向を固めたと報道された。9月14日には菅官房長官が自民党総裁に選出され、次期首相となることが確定した。三浦瑠麗と東浩紀の対話はこのニュースを語ることから始まった。

     朝日新聞による世論調査によれば、菅内閣の支持率は安倍内閣発足時を超える65%という高い数字を示している。二人はともに、この結果に驚きを感じていると語った。菅内閣は安倍内閣に比べて女性からの支持率が上がっており、与党の支持はより盤石になったのではないかと三浦は述べる。東は、安倍辞任のタイミングが旧民主党勢力の合流から国民の注目を奪ってしまったことを指摘した。

     
     

     今回のイベントの中心は、三浦が運営するシンクタンク山猫総合研究所による調査報告書「日本人価値観調査2019」の紹介だ。三浦は同報告書をもとに、立憲民主党の議員に対して、現実のデータに即した戦略を提案したことがあるという。しかし議員からは、「データからそうした意味合いが導き出せることはわかるが、なかなかそういう方向に舵を切るのは難しい」というような反応を受けたそうだ。現実の民意に寄りそうのではなく、自分たちの政策に民意を引き付けようとする。そのような野党の戦略は有効ではないと語った。

     東は三浦が紹介する報告書を読んで、野党が勝つためにはむしろいちど改憲するしかないのではないかという感想を抱いたという。

     三浦は「今日の結論を先取りしている」と賛同を示した。いったいどのようなデータが報告書に記されているのだろうか。

    グラフから見えてくるアメリカの現実


     三浦が調査を始めた動機は2016年のアメリカ大統領選にあった。選挙戦前夜、トランプに対する評論は数多く出ていたが、その内容は、人種差別主義的である、女性蔑視主義者である、いい加減な辻褄の合わない政策を出している、全体主義者である──など、一面を捉えた批判ばかりだった。結果として識者もメディアも予測を外した。

     他方で、選挙後に行われた意識調査が新聞の論説に取り上げられて話題になった。YouGovのパネルを利用した研究者グループによる調査で、2016年時点でのアメリカ有権者の価値観分布のグラフが掲載されていたという。グラフは社会的な価値観の縦軸と、経済的な価値観を横軸に置いた四象限で構成されている。そしてドナルド・トランプ、ヒラリー・クリントン、独立系候補のそれぞれに投票した有権者がどのような思想を持っているかが可視化できた。

     
     


     アメリカは二大政党制であり、有権者は主に、共和党を支持する保守層と民主党を支持するリベラル層の二極に分かれている。グラフでは、トランプが新たに獲得した票の内実は、社会的に保守であるが経済的には中道から分配よりのポピュリストの層であることを示していた。財政出動を約束し、働き盛りの子育て世代への減税を行うなど、共和党の経済政策を中道に引き寄せたことで白人労働者の支持を集めたことが、トランプの勝因だ。

     三浦は当時、多くの評論家がその現実を読み落としていたことを見て、政治と民意の正しい評価には、現実を正確に反映したデータが不可欠であると痛感したのだという。

    「日本人価値観調査2019」から見える現実


     三浦は報告書のなかで、有権者を四象限に分け、2019年の参議院選挙における支持者ごとの社会的・経済的志向を可視化した。

     その結果は、アメリカと大きく異なり、自民党、立憲民主党、日本維新の会などそれぞれの支持層が、四象限の中央付近の位置でほぼ重なっていた。つまり日本では、各党派の支持層は社会的価値観の対立に基づかず、与党と野党の支持基盤にほとんど差がないという現実が見えてきたのである。

    2019年参院選比例代表における自民・立憲投票者の価値観分布(経済×社会)。「日本人価値観調査2019」、p28
     

     これは自民党がリベラル層も取り込んでいるということを意味する。東もこのグラフを見て、自民党の支持基盤の盤石さに驚いたという。

     東はこれを次のように分析した。日本では各党の支持者がじつは同じような生活をし、同じような価値観を抱いている。本来政治とは各人の生活環境(階級)を反映するものであり、そこに差がなければ政治対立というものも成立し得ない。結果日本での政策論争は、本当の政治に基づく対立ではなく、論争で勝つためのポジション取りになってしまうのではないか──。

     
     
     
     次に三浦は、縦軸を社会的な価値観から外交安全保障についての立場に置き換えたグラフを提示した。こちらでは支持層に多少の差異が見えてきた。外交安全保障に関しては、自民党はリアリズムに寄っていて、立憲民主党は中心に位置している。つまり、日本では、アメリカのような社会的価値観で支持政党が分かれるのではなく、憲法や安全保障への立場によって支持政党が分かれているということだ。

    2019年参院選比例代表における自民・立憲投票者の価値観分布(経済×外交)。「日本人価値観調査2019」、p28
     

     三浦は以上のようにデータを紹介しながら、日本では政治的対立がわずかな論点でしか成立していないことを指摘した。だとすれば、野党は勝つためにはなにをすべきなのか?

     
     

     東は、いまの日本では憲法が政治問題としてあまりに巨大になっていて、それ以外の争点で野党が戦えなくなっているのが問題だと述べた。だからこそ、逆説的に、改憲さえ済んでしまえば、護憲・改憲の論争は後退し、それ以外の政治的問題の対立が成立するようになるはずだ。そうなればむしろ野党の復活の可能性もあるだろう。三浦も同意し、護憲・改憲の問題がなくなると、社会政策が新たに争点となるだろうと語った。

     自民党にとって改憲は悲願でもある。しかしだからこそ、改憲後は、改憲の主張によって得ていた支持基盤を失うことにもなると三浦は述べる。だからこそ自民党は、『ViVi』のようなファッション誌に広告を打つなど、社会政策が争点になった際の状況に備えているという。ここでもまた、現実の民意を意識する自民党の強さが表れている。

    ふたりの知識人のなごやかな対話


     本イベントでは他にも、女性問題、コロナ禍と戦時下の共通性、歴史修正主義など、多様な論点で議論が展開されたが、シリアスな雰囲気は番組前半で終わり、後半は一転してなごやかなムードでトークが展開した。リラックスした三浦の姿は、地上波のテレビ討論番組での「強い」イメージからは遠く、柔らかい物腰の印象が際立っていた。

     対話はだんだんと深夜番組のようなゆるい雰囲気に転調し、話題はお互いの家族観にまで広がった。マスメディアからは窺えない知識人の「素の表情」を感じられる会話は、シリアスなイベントタイトルに反して意外性に満ちていた。四時間の動画を視聴したあと、視聴者が三浦に抱くイメージは良い意味で大きく変わることになるだろう。ぜひご覧いただきたい。(遠野よあけ)

     


     こちらの番組はVimeoにて公開中。レンタル(7日間)600円、購入(無期限)1200円でご視聴いただけます。
     URL=https://vimeo.com/ondemand/genron20200918
    三浦瑠麗×東浩紀「ほんとうの日本はどんな国?──山猫総合研究所(三浦瑠麗代表)のデータからみえる新政権の未来」
    (番組URL=https://genron-cafe.jp/event/20200918/
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