日本とはなにか

空海、折口、篤胤

東浩紀 今日は文芸評論家の安藤礼二さんと近世思想研究者の石橋直樹さんをお招きしました。ぼくが生徒役となって、おふたりに、空海や、折口信夫、平田篤胤あつたねなど、「日本」をかたちづくってきた思想家と彼らが考えてきたことについて、いろいろとお話をうかがいたいと思います。

 安藤さんは河出書房新社で編集者を務めたのち、折口信夫論で文芸評論家としてデビューされました。それ以来、鈴木大拙、井筒俊彦などへ関心を広げ、近年は大著『空海』を刊行されています。さまざまな思想家を対象としつつ、「安藤学」と呼ぶべき壮大なお仕事を展開されています。

 石橋さんは2​0​0​1​年生まれの若い研究者です。2​0​2​3​年に「〈残存〉の彼方へ──折口信夫の「あたゐずむ」から」で三田文学新人賞を受賞し、安藤さんとともに折口についての研究会も行なっていると聞いています。ゲンロンにも何度か登場していただいています。

安藤礼二 まさか、日本をテーマにして東さんとお話しする機会が訪れるとは思いませんでした。最初に動機を聞かせていただけますか。

東 最近、日本について考えています。そのなかでいろいろ調べていて、安藤さんの本も読み返してみました。すると、以前とはまったくちがって見えた。

 たとえば折口信夫。彼のまわりには鈴木大拙や井筒俊彦がいた。さらに大川周明をはじめとする超国家主義者たちもいた。彼らはそれぞれ異なる立場にいながら、天皇制と一神教をどう接続するのか、日本に普遍宗教をいかに作り出すのかという、共通の課題に取り組んでいました。これは『折口信夫』(2​0​1​4​年)で本格的に展開される議論ですが、最初の著作『神々の闘争 折口信夫論』(2​0​0​4​年)ですでに構想がはっきり示されている。安藤さんのお仕事は、全体がひとつの構想で貫かれていて、独自の日本論を形成している。個々の文芸評論もそこから生まれている。そのことに気づきました。

2026年10月24日刊行『ゲンロン19』

安藤礼二

1967年、東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。文芸評論家、多摩美術大学図書館長、美術学部教授。2002年「神々の闘争──折口信夫論」で群像新人文学賞優秀賞受賞。著書に『神々の闘争 折口信夫論』(講談社、2004年、芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞)、『光の曼陀羅 日本文学論』(講談社、2008年、大江健三郎賞および伊藤整文学賞受賞)、『折口信夫』(講談社、2014年、角川財団学芸賞およびサントリー学芸賞受賞)、『大拙』(講談社、2018年)、『列島祝祭論』(作品社、2019年)、『吉本隆明 思想家にとって戦争とは何か』 (NHK出版、2019年)『熊楠 生命と霊性』(河出書房新社、2020年)など。監訳書に井筒俊彦『言語と呪術』(慶應義塾大学出版会、2018年)がある。(撮影=小林りり子)

石橋直樹

民俗学・近世思想史・文学。2001年生、神奈川県出身。論考「ザシキワラシ考」で、2020年度佐々木喜善賞奨励賞を受賞し、民俗学を中心に執筆活動をはじめる(論考はその後『現代思想』「総特集=遠野物語を読む」に掲載)。論考「〈残存〉の彼方へー折口信夫の「あたゐずむ」から」で、第29回三田文學新人賞評論部門を受賞。論考「看取され逃れ去る「神代」」(『現代思想』「総特集=平田篤胤」)の発表以降、平田篤胤を中心とした国学思想・儀礼を専門に研究を進める。編著『批評の歩き方』等々に寄稿。

東浩紀

1971年東京生まれ。哲学者、ZEN大学教授。博士(学術)。株式会社ゲンロン創業者。著書に『存在論的、郵便的』(第21回サントリー学芸賞)、『動物化するポストモダン』、『クォンタム・ファミリーズ』(第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』、『弱いつながり』(紀伊國屋じんぶん大賞2015)、『観光客の哲学』(第71回毎日出版文化賞)、『ゲンロン戦記』、『訂正可能性の哲学』、『訂正する力』、『平和と愚かさ』など。
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