SFつながり(7) 異類婚姻とゲームと犬|藍銅ツバメ

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初出:2022年12月23日刊行『ゲンロンβ79』
「SFつながり」は、〈ゲンロン 大森望 SF創作講座〉の関係者をはじめ、SFの作家や著者にエッセイを寄せていただくリレー連載です。 
 今回の寄稿者は2020年に「第4回 ゲンロンSF新人賞」の優秀賞を受賞した藍銅ツバメさん。藍銅さんは講座の卒業後、『鯉姫婚姻譚』で「日本ファンタジーノベル大賞2021」を受賞しデビューしました(単行本は新潮社より2022年6月刊行)。本エッセイでは、人間と人間以外の種族が結ばれる物語になぜ惹かれるのか、ご自身の半生を振りかえります。(編集部)

 こんにちは。犬とゲームとハヤシライスが大好き、藍銅ツバメです。作家をしています。ゲンロンのSF創作講座4期を卒業して第4回ゲンロンSF新人賞の優秀賞を受賞しその後日本ファンタジーノベル大賞2021を頂きました。その受賞作『鯉姫婚姻譚』が初めて出した単行本です。 

 慌ただしい1年でした。今、これを書いているのが11月末なのですが、ファンタジーノベル大賞2021の最終選考通過のお知らせが来たのが去年の10月半ばごろ。仕事帰りでした。全く心当たりのない電話が2件ほど来ていました。怖かったので無視しようと思ったのですが、電車を降りたところでまた電話がかかってきてしまいました。しかたなく応答すると、なんと出版社からではありませんか。人通りの多い駅のホームなのでいまいち聞こえませんが、最終選考通過おめでとうございます、というようなことを言っている気がします。 

 隅っこにしゃがみ込んで詳しくお話を聞くとファンタジーノベル大賞2021の最終選考に残っており、その際の応募原稿に本名が記載されていない上タイトルが2つ書いてあったそうです。どちらのタイトルにしますか、と訊かれたので『鯉姫婚姻譚』の方で、と答え、ついでに本名も伝えました。11月初めに結果をお知らせします、と言われて、電話を切りました。 

 非常に驚きましたね。応募したのは確かなのですが、とっくの昔に落選していると思い込んでいたのです。それから半月程の結果がわからない時期は情緒不安定で過ごしました。結果通達の日も取り乱しており、むやみに予約を入れてしまった美容院で髪を切って貰ったりしていました。綺麗に整った髪形のまま家に帰ります。16時から18時の間に連絡すると言われていたので、お昼寝して電話を待ちました。起きたら18時を過ぎていたので、丁度帰ってきた姉と同居人に電話がこないからもう駄目かもしれないと述べているところに連絡がきました。おめでとうございます、ということでした。 

 そういうわけで受賞コメントを書いたり雑誌に載る写真を撮ったりしているうちに11月が終わり、12月から5月までは『鯉姫婚姻譚』を書き直し、6月末にようやく発売となりました。この『鯉姫婚姻譚』は、人間と人間以外の種族が結婚する伝承、異類婚姻譚を題材にしています。主人公の若隠居した青年は、屋敷の庭の池に棲む人魚の童女に様々な異類婚姻譚とその悲劇的な結末を語ります。しかし人魚はその終わりを肯定し、青年に求婚し続ける。この2人が迎える結末は青年が言うように悲しみに満ちたものだろうか。人魚が言うように幸せに終わるのだろうか。そういうお話です。

 昔から異類婚姻譚が好きで、どうしてだろうなと考えていたのですが最近思い当たったことがあります。私は小学生の頃、『牧場物語 コロボックルステーション for ガール』というDSのゲームを熱心にプレイしていたのですが、これにレタスという名の人魚の女の子が出てくるのです。牧場の敷地に池を作り、人魚の愛情度が最大の状態でプロポーズすると式を挙げ一緒に暮らすことができます。主人公が女の子だったので「結婚式」ではなく「大親友の儀」という名目にはなっていましたが、私は小学生の時確かに人魚と結婚生活を送っていました。 
 

藍銅ツバメ

1995年、大阪生まれ。徳島大学総合科学部人間文化学科卒業。ゲンロン大森望SF創作講座、4期受講生。『めめ』で第4回ゲンロンSF新人賞優秀賞受賞。『鯉姫婚姻譚』で日本ファンタジーノベル大賞2021大賞受賞。近作に『Niraya』(小説すばる2022年4月号掲載)、『春荒襖絡繰』(小説新潮6月号掲載)、『鯉姫婚姻譚』(新潮社)、『青蝋百物語』(小説新潮12月号掲載)など。
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