博徒と批評性
原広司はいかに日本社会に孔を開けたか
藤村龍至 本日は建築家の隈研吾さん、社会学者の吉見俊哉さんと、2025年1月に亡くなった原広司さんの仕事を振り返ります。
原さんは、梅田スカイビル、札幌ドーム、京都駅と、超高層ビルからスタジアム、駅ビルまで、時代を象徴する建築を手広く設計し、建築界のみならず日本社会にも影響を与えました。丹下健三でさえ、超高層は設計したけれど、駅ビルとスタジアムは設計していません。
原広司はなぜこれほどまで多様な巨大建築を手がけることができたのか。原さんは、海外の集落調査の仕事がよく知られていますが、東京大学生産技術研究所で教授を務め理論的な著作を多数著す一方、鉄道会社や大手住宅メーカーなど大企業をクライアントに巨大なプロジェクトも担いました。原さんの建築の巨大さはどこか規格外で、ときに日本の都市の風景と齟齬をきたしてすらいます。わたしはずっと、原さんはいったい日本社会と自分の建築との関係にどんなふうに折り合いをつけてきたのだろうかと不思議に感じていました。
隈さんも吉見さんも学生時代に東大の原さんの研究室に所属しており、原さんはおふたりにとって師にあたります。そして、原さんの最後のご著書が吉見さんとの対談集『このとき、夜のはずれで、サイレンが鳴った』でした。帯文は隈さんが書かれています。田中純さんの『磯崎新論』が磯崎さんの著作に比べて圧倒的にわかりやすいのに似て、難解な原さん単独の著作に比べて、思想や想いがよく伝わってくる良書でした。
今日は原さんと親しかったおふたりに学生時代の話もうかがいつつ、原さんの建築が日本の都市や社会になにを問いかけたのか、議論ができたらと思っています。
小さい住宅という原点
吉見俊哉 わたしは建築の人間ではまったくないのですが、それでも原さんはわたしの師匠のひとりで、ものすごく大きな影響を受けています。わたしが原研に研究生として在籍していたのは学部卒業後の浪人時代の1年間でした。隈さんは先輩にあたります。
藤村 隈さんが本郷の内田祥哉の研究室から生産技術研究所の原研に入ったのはなぜですか。

隈研吾 ぼくは最初から原さんのもとで学びたかったのだけど、原さんは学部では研究室を持っていなかった。だから卒業論文は原さんの師匠である内田祥哉さんのところで書きました。
吉見 原研でわたしたちのさらに先輩にあたるのが、山本理顕さんです。彼は東京藝術大学大学院修了後に研究生として研究室に所属していました。理顕さんは隈さんとは9歳差、わたしとは12歳差なので、直接かぶっていたわけではないけれど、研究室を出たあともたまにふらっと顔を出した。そのようなつながりがあって、『思想』の原広司追悼号の座談会が組まれたのですが、そこでぼくは「原さんの建築は1990年代以降、小中規模の設計から巨大プロジェクトに転換していくが、そこにどのようなワープがあるのか」と尋ねたんです[◆1]。すると、ふたりともそこにはワープはいらないと断言した。つまり、原さんにとっても理顕さんや隈さんにとっても、小さい住宅や美術館でも京都駅や梅田スカイビルでもちがいはない。これはとても重要なことだとぼくは感じています。
◆2 通路を挟んで対称的に部屋が配置されている、原の「反射性住居」の一連の作品のひとつ。正弦曲線の内壁と、屋根に開いた三つの孔が特徴。
◆3 水平面と柱とガラスによって作られた大きな空間に、家具や間仕切りを自由に置くことで、どのような用途でも使うことができるというコンセプトを持つもの。ユニバーサルスペースとも呼ばれる。
◆4 原広司『建築に何が可能か 建築と人間と』(学芸書林、1967年)において提唱されている。原によれば、建築の境界面に孔を開けることは、空間内の光、風、モノといった要素と、外部とを関係づけることであるという。
◆5 原広司、北川若菜「新梅田シティ開発計画プロポーザルプラン」、『新建築』1989年4月号、新建築社、218頁。
◆6 原広司『空間〈機能から様相へ〉』、岩波現代文庫、2007年、187─188頁。単行本は1987年。
◆7 原広司「教育の風景のなかの内田祥哉論」、内田祥哉『建築の生産とシステム 住まい学大系051』、住まいの図書館出版局、1993年、Appendix 9─11。
◆8 京都駅旧駅舎は1953年に竣工、国鉄時代の1982年に改築計画が開始され、1984年に遷都1200年記念関連事業に指定された。1987年に国鉄からJRに移行したのち、1990年に改築の国際コンペが開催され、安藤忠雄、黒川紀章、B・チュミなど指名された7名のうち原広司案を採用。JR発足10周年の1997年にグランドオープンとなった。
◆9 山本理顕、隈研吾、吉見俊哉「〈討議〉原広司と〈集落〉の思想」、20─21頁。
2026年10月24日刊行『ゲンロン19』

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