3月に、今年で27回目を迎える推薦制の公募展「VOCA展2020」にヒエロニムス・ボス《快楽の園》のオマージュ作品《Lounge of earthly delights / Oruyankée aux Enfers》(2019)を出展しました[★1]。開催日程は3月12日から30日までで、オープニングにあたってレセプションとシンポジウムが予定されていました。しかし周知の通り新型コロナウイルス感染症の世界的流行により展示の自粛ムードが2月から高まり、感染拡大防止の観点から、オープニングレセプションとシンポジウムは出展者と美術館スタッフのみで行われる簡素な内覧会にとって代わりました[★2]。
【図1】藤城嘘《Lounge of earthly delights / Oruyankée aux Enfers》(2019年)、2200×3900mm、木製パネルにアクリル・色鉛筆など 撮影=上野則宏
《Lounge of earthly delights / Oruyankée aux Enfers》について話していきましょう。私は今まで「キャラクター」を絵画制作のメインテーマにし続けながら、「天使」のようなファンタジックなモチーフや、「太陽」「青空」といった、大きく括れば「天界を司る」モチーフを多数描いてきました。「キャラクター」は肉体を持つ私たちとは違い、神仏のように超越的な存在ととらえることもできます。一方、「廃仏毀釈」をテーマにした2017-18年の「カオス*ラウンジ新芸術祭 百五◯年の孤独」では、「地獄絵図」を描くことに挑戦しました[★3]。「地獄」に対する想像力は、日本はもちろん、世界中で様々なキャラクターと物語を生み出してきました。それを一度、自分の手で描いてみようと思ったのです。
「天国と地獄」といえば、19世紀のオペラッタであるジャック・オッフェンバックの鋭い風刺作品『地獄のオルフェ Orphée aux Enfers』の別名でもあります。この作品はギリシア神話のパロディで、ユリディスとオルフェの夫婦仲が悪いという設定に変更されており、オルフェは“世論”に従うかたちで渋々と死んだ妻を冥界から取り戻しに向かうストーリーになっています。しかも、結局は夫婦は「見るなのタブー」のセオリーを破ることなくそのまま決別し、それぞれの自由を獲得することとなる。世論だけが不満を抱き、狂乱のなか幕を閉じるというこの演出は、SNS社会である現代からとらえ直しても面白く思えるでしょう。今回の制作にあたってまずこの作品が念頭にありました。
1990年東京生まれ。日本大学芸術学部美術学科卒業。美術作家。作家活動に並行して、集団制作/展示企画活動を展開する。「カワイイ」・「萌え」などの日本的/データベース的感性をベースに、都市文化や自然科学的なモチーフから発想を得た絵画作品を制作。主な個展に「キャラクトロニカ」(2013年)、「ダストポップ」(2017年)、「絵と、」vol.2(2019年)など。音ゲーを趣味とする(pop’n music LV47安定程度の実力)。