「ただそこにあること」をつくるために

 美術作家の大槻香奈は少女を主題とする絵画で知られる。創作のみならず、キュレーションや批評、動画配信から場づくりまで活動を広げてきた。本格的な芸術同人誌『日本現代うつわ論』の刊行や、放送プラットフォーム・シラスのチャンネル「大槻香奈の芸術お茶会」での配信など、創作を言語化し、実作と批評の横断を欠かさない。
 近年、大槻が注目しているのが「うつわ」という概念である。日本文化は中心に絶対的なものを置かず、空虚であるとは、河合隼雄をはじめ多くの論者が語るところだ。大槻は「うつわ」を、空虚さをかたちづくる輪郭であると同時に、そこからなにかが生まれてくる希望を秘めたものであるととらえる。たんなる消極的なものではなく、そこに日本的な美術の可能性を見ているのだ。
 そんな大槻の言語活動に関わり、ときにともに展示を行う陶芸作家の木ノ戸久仁子は、伝統工芸の技法を生かして「石」をつくっている、なんともユニークな作家だ。
 大槻は木ノ戸の作品を「うつわ的」であると評価する。では、うつわ的とはどういうことか。日本的な空虚は現代のものづくりにどんな軸を与えているのか。大槻が東京で運営するスペース「ゆめしか家」に、ふたりを訪ねた。(上田洋子)


──今日は大槻香奈さんと木ノ戸久仁子さんの作品を見せてもらいながら、日本で創作をすることについて、いろいろうかがいたいと思います。
 木ノ戸さんはふだんは滋賀県を拠点にしているのですよね。肩書きは陶芸家でよいのかしら。


 

木ノ戸久仁子 そうです。比叡山のあたりに窯を持っていて、そこで石や陶芸作品をつくっています。


 

──石のかたちをした作品ではなく、石そのものをつくっているのですよね。木ノ戸さんの石にかける情熱には感銘を受けました。ゲンロンでは年にいちど、東京・五反田で「ゲンロン友の会総会」という大規模イベントをやっているのですが、大槻さんは毎年、コミュニティマーケットにブースを出店されます。作品や同人誌を販売するだけでなく、おもしろい作家を紹介してくれるので、いつも楽しみなんです。2​0​2​6年3月は木ノ戸さんがブースにいて、「石」と称したぐい呑みを販売していた。ぐい呑みも素敵でしたが、同時に石はつくることができるのだと力説している姿が印象に残りました。そんな木ノ戸さんをさらに大槻さんがプッシュして、熱量の塊のような空間になっていました。
 木ノ戸さんは「大槻香奈の芸術お茶会」の番組にもよく登場されていますね。大槻さんのまわりには創作と言葉の新しい関係を模索する人々が集まっているのではないでしょうか。今日はおふたりに存分に語っていただけるとうれしいです。

 

2026年10月24日刊行『ゲンロン19』

大槻香奈

84年生。美術作家、嵯峨美術大学客員教授。作品集に「その赤色は少女の瞳」(河出書房新社)、「ゆめの傷口」(アトリエサード)。2021年に日本の精神性を探る「日本現代うつわ論1」(ゆめしか出版)を企画し、以降シリーズ刊行&ディレクションを担当。2024年には芸術活動の実験の場として半オープンスペース「ゆめしか家」を企画し、ワークショップや展覧会、お茶会等のイベントを行う。

木ノ戸久仁子

76年生。陶芸家。登り窯窯元・宗陶苑にて作陶を始め、若手オブジェ集団「SEEDS」に参加。1998年より1年間ニュージーランドにて作陶したのち、2001年信楽窯業技術試験場釉薬科修了。

上田洋子

1974年生まれ。ロシア文学者、ロシア語通訳・翻訳者。博士(文学)。ゲンロン代表。早稲田大学非常勤講師。2023年度日本ロシア文学会大賞受賞。著書に『ロシア宇宙主義』(共訳、河出書房新社、2024)、『プッシー・ライオットの革命』(監修、DU BOOKS、2018)、『歌舞伎と革命ロシア』(編著、森話社、2017)、『チェルノブイリ・ダークツーリズム・ガイド』(調査・監修、ゲンロン、2013)、『瞳孔の中 クルジジャノフスキイ作品集』(共訳、松籟社、2012)など。展示企画に「メイエルホリドの演劇と生涯:没後70年・復権55年」展(早稲田大学演劇博物館、2010)など。
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