動物から人間の特異性をいかに考えるか?──ゲンロン・セミナー第2回「遊びから考えるヒトと動物の社会性」事前レポート
webゲンロン 2023年3月17日配信
5人の先生方の講義によって1つのテーマを深めていく新たな教養講座「ゲンロン・セミナー」。お招きするのは各分野の第一線で活躍する研究者のみなさまで、その聞き手を務めるのはゲンロンで働く大学院生たちです。「webゲンロン」では、各回の開催前に聞き手による「事前」レポートを公開していきます。
第2回は2023年3月26日(日)、山本真也先生による「人間とはなにか──遊びから考えるヒトと動物の社会性」。聞き手は青山俊之が務めます。
山本真也 聞き手=青山俊之「人間とはなにか──遊びから考えるヒトと動物の社会性」(URL= https://genron-cafe.jp/event/20230326/)
第2回は2023年3月26日(日)、山本真也先生による「人間とはなにか──遊びから考えるヒトと動物の社会性」。聞き手は青山俊之が務めます。
山本真也 聞き手=青山俊之「人間とはなにか──遊びから考えるヒトと動物の社会性」(URL= https://genron-cafe.jp/event/20230326/)
人間とはなにか──この問いに対しては、「人間は神によってつくられた」、「自由意志を持つ存在なんだ」、「いやいや記号的な言語によって認識が彩られた存在だ」など、さまざまな答え方がされてきました。一方、この「人間とはなにか」は、もはや使い古された問いともいえるものです。
けれども、学問は古い問いを新しい問いに変換しながら、知見の更新を図ります。では、21世紀のいま、どのようにすればこれを古くて新しい問いへと磨き上げることができるでしょうか。
ごく単純な方法は、問いに合わせてことばを変えてみること。たとえば、「人間とはなにか」をいったん「ヒトとはなにか」と言い換えてみると……?
わたしたちがさも当たり前かのように用いていることばは、ともすれば一定の方向に考えを染めてしまいます。けれども、少しの工夫でものの見方は変わります。こうした視点の切り替えこそ、学問ならではのクリエイティブな面白さでしょう。
「ゲンロン・セミナー」第2回では、種としての「ヒト」に着目し、動物からヒト、ヒトから人間の姿を浮かび上がらせることで、古くて新しい「人間とはなにか」という問いを考えていきたいと思います。
独特なアプローチでこの問いに挑むのが、今回の講師をつとめていただく山本真也先生です。山本先生は、特定の動物を対象にするのではなく、チンパンジー、ボノボ、ウマといった種々の動物を比較することで、「人間とはなにか」を探る研究者です。
注目していただきたいのが、「比較」という視座です。1回目の講義が遊びを哲学的に「解釈」するものだったとすれば、2回目の講義のポイントはこの「比較」です。では、山本先生はどのような点に着目した比較をしてきたのでしょうか。山本先生からイベントに向けたコメントをいただきましたので、ぜひお読みください。
けれども、学問は古い問いを新しい問いに変換しながら、知見の更新を図ります。では、21世紀のいま、どのようにすればこれを古くて新しい問いへと磨き上げることができるでしょうか。
ごく単純な方法は、問いに合わせてことばを変えてみること。たとえば、「人間とはなにか」をいったん「ヒトとはなにか」と言い換えてみると……?
わたしたちがさも当たり前かのように用いていることばは、ともすれば一定の方向に考えを染めてしまいます。けれども、少しの工夫でものの見方は変わります。こうした視点の切り替えこそ、学問ならではのクリエイティブな面白さでしょう。
「ゲンロン・セミナー」第2回では、種としての「ヒト」に着目し、動物からヒト、ヒトから人間の姿を浮かび上がらせることで、古くて新しい「人間とはなにか」という問いを考えていきたいと思います。
独特なアプローチでこの問いに挑むのが、今回の講師をつとめていただく山本真也先生です。山本先生は、特定の動物を対象にするのではなく、チンパンジー、ボノボ、ウマといった種々の動物を比較することで、「人間とはなにか」を探る研究者です。
注目していただきたいのが、「比較」という視座です。1回目の講義が遊びを哲学的に「解釈」するものだったとすれば、2回目の講義のポイントはこの「比較」です。では、山本先生はどのような点に着目した比較をしてきたのでしょうか。山本先生からイベントに向けたコメントをいただきましたので、ぜひお読みください。
【講師の山本真也先生より】
進化の隣人であるチンパンジーとボノボ、ヒト社会の隣人とも言えるイヌとウマ、他さまざまな動物を対象に、認知行動実験と野外観察の両方を通して知性の進化の謎に取り組んでいます。専門分野を問われれば比較認知科学と答えていますが、ホルモンレベルから認知・行動・社会・生態まで、幅広い手法を取り入れて研究しています。究極の研究テーマは「人間とは何か」を知ること。人間性の進化:その過去だけでなく、未来にも目を向けています。とくに社会の中で発揮される知性である社会的知性に関心をもっており、主なキーワードは、共感・他者理解・協力・文化・集団社会です。
今回のテーマは「遊び」ですが、私自身は「遊び」そのものを研究しているわけではありません。ただ、遊びにはさまざまな社会交渉が含まれています。ヒトの遊びと動物の遊び、何が共通しているのでしょうか? あるいは、両者を分かつ明確な差異はみられるのでしょうか? 「遊び」をひとつのとっかかりとして、動物の社会性についてさまざまな視点から見てみようと思います。「ヒトらしさ」とは何か、この講座で皆さんとともに考えられるとうれしいです。
山本先生は、「人間とはなにか」を考えるにあたって、動物の「社会性」を比較することから垣間見える「ヒトらしさ」に着目しています。そこで、第2回目の講義に参加するみなさんに宿題です!
「わたしたちヒトの特異性とはなんでしょうか?」
こちらの問いは講義の冒頭で会場のみなさんにディスカッションしていただく予定です。進化の系譜、生物としての構造、あるいは文化的な存在としての人間など、考える視点はいくつかあります。ぜひ考えてみてください。
そのうえで参考になるのが、山本真也先生のホームページです(URL= https://www.wrc.kyoto-u.ac.jp/members/shinya-yamamoto.html)。また、こちらの山本先生の研究室ホームページ(URL= https://sites.google.com/view/yamamotolabwrcias/)もあわせてご覧ください。
ふたつのホームページには、学術論文などの研究業績から、一般向けに書かれた研究コラムまで、先生のお仕事がまとまっています。英語が並んでいる箇所もあり、一見とっつきづらく感じるひともいるかもしれませんが、よーく見ると、「ちびっこチンパンジーとその仲間たち」や「家畜化による心の変化:比較認知科学からの提案」など、興味深いタイトルがいくつも並んでいます。ぜひいくつかリンクをクリックしてみてください。
今回のイベントにむけて、山本先生からは現時点での講義スライドをすでに何枚かいただいております。ここでは、そのなかから2枚を選んで紹介しましょう。まずは、山本先生がこれまで研究してきた動物の写真を並べた1枚。
本当にたくさんの動物をとりあげていらっしゃいますね。数々の写真のなかでも特に目を引くのは、中央の「サルによる『サル』文字」でしょうか……。これはすごい。
お次は、ギニアのチンパンジーが道路を渡る際の集団行動をとらえた1枚です。
山本先生の研究によると、チンパンジーによる2者間のやりとりを観察すると、彼らは相手がなにを求めているか、状況を見て判断しているけれども、自発的に手助けをすることはないそうです。一方、集団行動に目を移してみると、またちがった側面が見えてきます。
写真の奥に人影が見えるように、この道路は人にとっては村をつなぐものなのですが、チンパンジーにとっては車の往来がある危険な道です。この写真は、その道路を渡る際、チンパンジーのなかでも屈強な男性が安全確保を務めるというシーンをとらえたものなのです。
本当にたくさんの動物をとりあげていらっしゃいますね。数々の写真のなかでも特に目を引くのは、中央の「サルによる『サル』文字」でしょうか……。これはすごい。
お次は、ギニアのチンパンジーが道路を渡る際の集団行動をとらえた1枚です。
山本先生の研究によると、チンパンジーによる2者間のやりとりを観察すると、彼らは相手がなにを求めているか、状況を見て判断しているけれども、自発的に手助けをすることはないそうです。一方、集団行動に目を移してみると、またちがった側面が見えてきます。
写真の奥に人影が見えるように、この道路は人にとっては村をつなぐものなのですが、チンパンジーにとっては車の往来がある危険な道です。この写真は、その道路を渡る際、チンパンジーのなかでも屈強な男性が安全確保を務めるというシーンをとらえたものなのです。
しかし、チンパンジーにこのような意外な協力行動をとる一面がある一方で、彼らよりも「平和」な生態であるといわれるボノボを観察すると、逆に集団ではあまり協力行動を取らないのだとか。いわゆる「平和ボケ」というやつでしょうか。詳細はぜひ講義でお聞きしましょう。
今回、「ゲンロン・セミナー」第2回の聞き手を務める青山俊之は、主に言語人類学という学問を中心に研究を行ってきました。言語人類学は、ジェスチャーや視線、会話の間やうめき声も含めた非言語的な資源にも着目し、人間が言語コミュニケーションを身につける過程や、ことばを共有する集団やその分派が生じる社会的な文脈の研究を行ってきました。
そのため、言語人類学は、身体と言語をもちいてやりとりをつむぐヒトの共同基盤を探る点でも、フィールドワークと比較認知科学を駆使する点においても、霊長類学や山本先生のご専門と近しい研究分野です。どのように山本先生が動物研究にのめり込んでいったのか、そこから「人間」をどうとらえてきたのか、今後の研究にはどのような展望があるのか。講義の聞き手としてはもちろん、いち研究者の卵としてもお話が聞けるのをとても楽しみにしています。
ここまで見てきたように、講義では、山本先生ならではのフィールドワーク経験や、動物たちが特有の自然環境で身につけていく社会的知性の進化の謎に迫りたいと思っています。動物が生活する環境や社会性との関係を掘り下げながら、人間と動物はもちろん、人類学と霊長類学の相違点など、「わたしたち」自身を掘り下げる視点も考えます。
最後にもう1点。この2月に、山本先生の研究コラム「『ヒトとは何か』を探る動物研究」が掲載されている『最前線に立つ研究者15人の白熱!講義 生きものは不思議』が発売されました。先生が研究を志した経緯やその内容がわかりやすくまとまっているので、講義にむけてさらなる予習をしたいかたはぜひこちらをご覧ください。
それでは、みなさんのご参加をお待ちしております!
今回、「ゲンロン・セミナー」第2回の聞き手を務める青山俊之は、主に言語人類学という学問を中心に研究を行ってきました。言語人類学は、ジェスチャーや視線、会話の間やうめき声も含めた非言語的な資源にも着目し、人間が言語コミュニケーションを身につける過程や、ことばを共有する集団やその分派が生じる社会的な文脈の研究を行ってきました。
そのため、言語人類学は、身体と言語をもちいてやりとりをつむぐヒトの共同基盤を探る点でも、フィールドワークと比較認知科学を駆使する点においても、霊長類学や山本先生のご専門と近しい研究分野です。どのように山本先生が動物研究にのめり込んでいったのか、そこから「人間」をどうとらえてきたのか、今後の研究にはどのような展望があるのか。講義の聞き手としてはもちろん、いち研究者の卵としてもお話が聞けるのをとても楽しみにしています。
ここまで見てきたように、講義では、山本先生ならではのフィールドワーク経験や、動物たちが特有の自然環境で身につけていく社会的知性の進化の謎に迫りたいと思っています。動物が生活する環境や社会性との関係を掘り下げながら、人間と動物はもちろん、人類学と霊長類学の相違点など、「わたしたち」自身を掘り下げる視点も考えます。
最後にもう1点。この2月に、山本先生の研究コラム「『ヒトとは何か』を探る動物研究」が掲載されている『最前線に立つ研究者15人の白熱!講義 生きものは不思議』が発売されました。先生が研究を志した経緯やその内容がわかりやすくまとまっているので、講義にむけてさらなる予習をしたいかたはぜひこちらをご覧ください。
それでは、みなさんのご参加をお待ちしております!
1000分で「遊び」学 #2
2023年3月26日
ゲンロン・セミナー第1期
動物と遊び──動物から考える社会性(仮)
No. | 開催日 | 登壇者 | 講義テーマ |
---|---|---|---|
第1回 | 2/11(土) | 古田徹也 | 「遊びと哲学」 |
第2回 | 3/26(日) | 山本真也 | 「遊びと動物」 |
第3回 | 4/22(土) | 梅山いつき | 「遊びと演劇」 |
第4回 | 5/13(土) | 池上俊一 | 「遊びと歴史」 |
第5回 | 6/17(土) | 三宅陽一郎 | 「遊びとAI」 |
第6回 | 7/1(土) | 全講義をふり返るアフターセッション |
※各回とも14時開始予定
第2回~第6回の通し券・配信つき通し券を購入する(Peatixへ)
「ゲンロン・セミナー」全体の情報は、こちらの特設ページをご覧ください!
https://webgenron.com/articles/genron-seminar-1st/
https://webgenron.com/articles/genron-seminar-1st/
青山俊之
1992年生まれ。筑波大学大学院人文社会科学研究科国際日本研究学位プログラム博士課程。専門は言語人類学や記号論、研究テーマは自己責任論。