足場は動き続ける
AIとの協働から見えた人文学のこれから
基盤モデルの性能向上とツールの進化に振り回され続けた2025年度だった。
昨年の夏、日本財団 HUMAI プログラムに採択された時点では、私の研究計画は「近代詩のデジタルアーカイブ構築」だった。研究資料の電子化と、AIによる典拠・影響関係ネットワークの可視化。近現代詩の研究者で、ここ5年は中高の国語科講師を務めている身として、まっとうな計画だったと思う。だがその計画は大きく変わってしまった。
プロジェクト自体が頓挫したわけではない。新しいモデルやサービスの登場に合わせてワークフローを組み直しながら、むしろ効率化が進んでいる。ただ、その過程で技術的に可能になったことがあまりに多すぎて、研究計画が思わぬ方向へと展開してしまったのだ。
何が起こったのか。徐々に評判を上げていた Claude Code で何ができるか試しているうちに、思いがけず試験答案の採点支援AIを作ることになった。そのサービスをもとに、より大規模な教育支援プラットフォームを設計した。さらには、これまでにない形で日本文学研究関連資料を横断検索できるサービスまでリリースすることができた。プログラミングの正規教育を受けたことがなく、コードを自分の手で書く能力などほぼない人間が、わずか2カ月で、である(ちなみに同じ期間に、他にもさまざまなアプリケーションやサービスの開発を趣味として行なっていた)。
自分のできることが拡張されていく過程は素朴に面白いし、間違いなく望ましいことだ。しかし、同時に厄介でもある。たとえば先月作ったものの最適解が今月には変わり、システム全体の再設計を迫られる。すこし前なら最先端だった技術が、いまはもう時代遅れになっている。足場が常に動いている。
本稿ではまず、人文系の研究者で国語科教員の私が、基盤モデルやサービスの進化に振り回されながらもAIを使って数々のサービスやシステムを開発してきた実践過程を報告する。その先で「AIが従来は不可能だった物事を可能にし、知を扱う仕組みそのものを誰もが組み替えられるようになっていく中で、人文学の専門家が果たすべき仕事とは何か」という問いに向き合ってみたい。
2026年10月24日刊行『ゲンロン19』

岩井優士




