質疑応答|髙多伊吹

2026年10月16日

東浩紀 まず注意しておくと、髙多さんの論考はぼくの研究に依拠しすぎています。とくにデリダやフロイトの解釈はぼくの『存在論的、郵便的』を下敷きにしているのだけど、あの本はとても変わった本で、大学内のデリダ研究者から必ずしも高く評価されているとはいえない。研究するのであれば、いちおうは主流派の解釈を踏まえたうえで、しかしあえてこう読むという手続きを取る必要があります。

 研究全体についていえば、いまは LLM ​は現代思想ではこう解釈できるという方向だけど、むしろ方向性を逆にして、L​L​M​ などの数学的モデルを使ってデリダやセールの新たな解釈を見出すというふうに進めたほうが可能性があると思います。

髙多伊吹 まさしく今後はその方向で進めるつもりです。近年認知科学の分野でよく参照されるフリストンの自由エネルギー原理は、フロイトを明示的に引用しつつこれを情報理論の語彙で精緻化した好例です。神学的な議論に陥りがちな話題を、数理的なモデルで解釈し直せるのではと構想しています。

東 ただ、デリダ自身は60​年代にグラマトロジーを構想したあと、言語や文字の理論をつくる方向をみずから放棄している。ぼくもやめました。この路線がほんとうに有望かどうかは、よくわかりません。

髙多 ぼくが考えているのは融合ではなくキャッチボールです。フロイトがフリストンに影響を与えたように、哲学の知見が認知モデルを組み立てる手がかりになることもある。逆に、モデルの数理的な精緻化によって、デリダ読解で神秘化されてしまっていた部分をクリアにできるかもしれない。

2026年10月24日刊行『ゲンロン19』

髙多伊吹

99年生。東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻博士後期課程2年。2024年より株式会社スマートエコー代表取締役社長 (共同創業者)。専門はフランス現代思想、デジタル・ヒューマニティーズ、記号論など。「言稿」名義で『ユリイカ』などに寄稿。
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