日常の政治と非日常の政治(5) 「憲法2・0」再考(1)|西田亮介

初出:2016年9月9日刊行『ゲンロンβ6』
参議院選挙が終わって、改憲を主張する政党の議席数が衆参両院で3分の2を超えました。前回のこの連載でも触れたように、これは少なくとも数の上では、日本国憲法第96条が定める改憲の発議に必要な議席数が満たされたということを意味しています。
そこで今回から数回にわたって、憲法改正論の現状や、過去のさまざまな憲法草案を振り返ったうえで、2012年にゲンロン憲法委員会が起草した「憲法2.0」の試みと内容について、改めて考えてみたいと思います。
安倍総理は参院選の情勢が明らかになると、この選挙で憲法改正の是非が問われたことについては否定しつつも、議論のステージがすでに改憲の是非ではなく改正のあり方を議論する段階へと移行したことに言及しました。
他方、野党第一党で「3分の2をとらせない」を合言葉に野党共闘を選んだ民進党ですが、民主党時代から必ずしも憲法改正に否定的な立場を取っていたわけではありません。たとえば鳩山元総理は「新しい憲法を創る」という立場から、「創憲」を主張していました。
それどころか2016年の参院選のマニフェストでさえそうなのです。9条改正への反対と立憲主義の堅持には言及していますが、改憲それ自体については十分前向きといえる内容です。具体的な文面も見てみましょう。
8月6日には岡田前代表も、「憲法審査会は国会の審査会なので、積極的に参加するのは当然のことだ」と発言しています。このようにマニフェストを読むかぎり、改憲の構想については不透明なものの、やはりある意味では字句通りに――野党共闘という観点では一貫性を欠きますが――、改憲論への参加に前向きです。9月15日投開票の民進党代表選に出馬を表明している蓮舫民進党代表代行も憲法審査会への参加を明言しています。
それだけではありません。本来改憲とは直接関係しない別の角度からの憲法改正論も浮上してきています。今年7月にスクープされた今上天皇の生前退位報道をめぐって、保守系の産経新聞は、生前退位を可能にするための憲法改正の容認論を世論調査の結果とともに掲載しました[★3]
そこで今回から数回にわたって、憲法改正論の現状や、過去のさまざまな憲法草案を振り返ったうえで、2012年にゲンロン憲法委員会が起草した「憲法2.0」の試みと内容について、改めて考えてみたいと思います。
具体化に向かう改憲議論
安倍総理は参院選の情勢が明らかになると、この選挙で憲法改正の是非が問われたことについては否定しつつも、議論のステージがすでに改憲の是非ではなく改正のあり方を議論する段階へと移行したことに言及しました。
「この選挙においてですね、憲法の是非が問われていたのではないというふうに考えております。これからはですね、まさに憲法審査会において、いかに与野党で合意をつくっていくかということではないかなと思います」(安倍首相)
また、安倍総理は「議論を深めていく中において、どの条文をどう変えていくかが大切であって、憲法改正にイエスかノーかというのは、もう今の段階ではあまり意味がない」と述べ、憲法改正が現実的な政治課題に上ったという認識を示しました。★1]
他方、野党第一党で「3分の2をとらせない」を合言葉に野党共闘を選んだ民進党ですが、民主党時代から必ずしも憲法改正に否定的な立場を取っていたわけではありません。たとえば鳩山元総理は「新しい憲法を創る」という立場から、「創憲」を主張していました。
それどころか2016年の参院選のマニフェストでさえそうなのです。9条改正への反対と立憲主義の堅持には言及していますが、改憲それ自体については十分前向きといえる内容です。具体的な文面も見てみましょう。
基本姿勢
憲法は、主権者である国民が国を成り立たせるに際し、国家権力の行使について統治機構の在り方を定めたうえで一定の権限を与えると同時に、その権限の行使が国民の自由や権利を侵害することのないよう制約を課すものであって、時の権力が自らの倫理観を国民に押しつけるものではないことを確認して、国民とともに憲法の議論を進めます
私たちは、日本国憲法が掲げ、戦後70年間にわたり国民が大切に育んできた「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」の理念を堅持し、自由と民主主義を基調とした立憲主義を断固として守ります。
そのうえで、象徴天皇制のもと、新しい人権や地方自治を含む統治機構改革など、時代の変化に対応した未来志向の憲法を国民とともに構想していきます[★2]
8月6日には岡田前代表も、「憲法審査会は国会の審査会なので、積極的に参加するのは当然のことだ」と発言しています。このようにマニフェストを読むかぎり、改憲の構想については不透明なものの、やはりある意味では字句通りに――野党共闘という観点では一貫性を欠きますが――、改憲論への参加に前向きです。9月15日投開票の民進党代表選に出馬を表明している蓮舫民進党代表代行も憲法審査会への参加を明言しています。
それだけではありません。本来改憲とは直接関係しない別の角度からの憲法改正論も浮上してきています。今年7月にスクープされた今上天皇の生前退位報道をめぐって、保守系の産経新聞は、生前退位を可能にするための憲法改正の容認論を世論調査の結果とともに掲載しました[★3]
また、都道府県知事で構成される全国知事会は、2016年の参院選で導入された、高知県と徳島県の4議席をあわせて2議席に、また島根県と鳥取県の4議席をあわせて2議席にする「合区」の解消を主張し、参議院の憲法審査会に要請しています(余談ですが自民党はさっそくこの要望を受けて、合区解消に向け、総裁直属機関の設置を検討するという報道も流れています[★4]。ただでさえ交通の便が悪いうえに、東西に広大な両選挙区における選挙運動は相当大変だったともいわれていますが、都市と地方の一票の格差是正のための、合区等を通じた10増10減のコンセプトはどこへいったのでしょうか……)。
個人的には、この連載でも言及してきたように、環境権かプライバシー権といった公明党の要望を取り入れた「加憲」を見せ球にしつつ、第96条の改正による、改憲発議要件の3分の2から2分の1への緩和が成るかどうかがカギになるのではないかと見ています。しかし具体的な改憲に向けての本格的な論戦が始まるのは今秋の臨時国会以後で、まずは憲法審査会を起点にして論戦が戦わされることでしょう。選挙が終わってから報道が日常のモードに戻ってしまったうえに、北方領土問題が解決に向けた進展の気配を見せたり北朝鮮が弾道ミサイルを発射したり、一見派手な外交事案が続けて報じられていることもあって、あまりピンとこないかもしれませんが、政治的文脈は、改憲発議が現実化しつつある国会内だけでなく、先に挙げたような別の角度からのさまざまな要因も含めて、改憲の具体化に向かっているように思えます。
憲法改正の議論において、重要な役割を果たすのが新憲法の草案です。というのも、テクニカルな改憲の議論には大半の生活者は事実上ついていくことができず、しかし世論の盛り上がりがなければ、「国民の総意」という憲法の基本原則を体現することができません。草案というひとつの完成されたパッケージが提示されてはじめてその通奏低音というべきか、全体の論調、雰囲気を生活者が感じ取り世論の盛り上がりが生じ、それに応じてディテールと法技術的な側面を専門家が検討するというある種健全な改憲のための環境形成がなされるのではないでしょうか。
ところが現状、憲法草案というと、ともすれば自民党が2012年に公開した、いまでは悪評高き改憲草案ばかりが思い出されます。リベラルもなにかというとこの草案を引っ張り出してきて、批判を繰り広げます。確かにこの草案は、個人の自由や言論の自由よりも「公共」を重視し、また本来統治機構を制限するはずの憲法が個人に対して規範的要請を多々行うなど多くの問題を含んでいます。メディアが改憲問題を取り上げる際にもこの草案が中心となっていて、その非現実性や、公明党が消極的な態度を示していることについての報道をよく目にします。
しかし、この草案は4年前の4月、自民党が野党だった時代に作られたものですから、あくまで展示会に出品したコンセプトカーのようなプロトタイプにすぎないでしょう。というのも、憲法改正は原則として変更する各条文を検討し国民に改正の是非を問う作業になるので、現行憲法から一足飛びにこの憲法草案に向かうというのは作業量を鑑みても到底現実的とはいえないからです。世論の反発もあります。
その一方で、改憲論への参加に前向きな姿勢を見せながら独自の改憲草案は提示できていない民進党をはじめ、多くの生活者にとっては、参照すべき他のプロトタイプが見当たらないことも事実です。改憲の雰囲気だけは高まりつつも――改憲の「外堀」は埋められながらも――、その具体的な姿が見えないというのは奇妙な話です。
そうであるがゆえに、護憲/改憲という二項対立図式への賛否の表明だけが強制される現状は、まさに「下からの革命」を経験していない日本的な状況とはいえ、あまり健全とも思えません。かつて大日本帝国憲法の起草の時期や、日本国憲法への「改憲」に際して、民間有志を含むさまざまな人々が憲法草案を提示しました。今では9条改憲阻止を党是とする共産党でさえそうです。
1946年に共産党が発表した「日本共産党の日本人民共和国憲法(草案)」は、強い天皇制批判の前文で口火を切り、その第1条で「日本国は人民共和制国家である」と宣言し一院制を採用するなど、日本国憲法にはないユニークな特徴をもっていますが、基本的人権や個人的自由の尊重といった少なくない現行憲法との共通点など実に興味深い草案です。
この草案は現在では国立国会図書館のウェブサイト「日本国憲法の誕生」にアーカイブされていて[★5]、電子媒体で誰でも容易に閲覧可能ですので、ぜひ一読して欲しいのですが、このように論調の異なる幾つかの具体的な複数の改憲草案を前にしながら、実際の有り様を思い浮かべながら、憲法についての国民的議論を行うことが望ましいと思います。そのような作業が、有権者の憲法に対する想像力と敏感さを醸成するのではないでしょうか。
むろん、そのうえで現行の日本国憲法を護持する選択もありでしょう。憲法改正が発議されたうえで、その後の国民投票において改憲を否定するということは、成立から70年を迎えながら、多くの生活者にとって選択の契機が自明ではなくなりつつある日本国憲法を改めて選択し直す契機ともなるわけですが、あまりそのような議論はなされていないようです。
それでは現在、こうした憲法に対する想像力を醸成するための素材となるような改憲草案には、前述の自民党草案以外にどのようなものがあるのでしょうか。幾つか紹介しておきましょう。
政党のなかでは、改憲に対して肯定的な立場を取っていたおおさか維新の会が、今年3月に「おおさか維新の会 憲法改正原案」を公開しています。道州制や統治機構改革を標榜していた同党だけに、草案を第26条教育権、第92条以下の地方自治に限定しながらも、きわめて具体的な内容で、党名変更後の日本維新の会にも引き継がれているようです。自民党以外の政党が提示するなかでは、もっとも具体的な改憲案のひとつといえるでしょう。
個人的には、この連載でも言及してきたように、環境権かプライバシー権といった公明党の要望を取り入れた「加憲」を見せ球にしつつ、第96条の改正による、改憲発議要件の3分の2から2分の1への緩和が成るかどうかがカギになるのではないかと見ています。しかし具体的な改憲に向けての本格的な論戦が始まるのは今秋の臨時国会以後で、まずは憲法審査会を起点にして論戦が戦わされることでしょう。選挙が終わってから報道が日常のモードに戻ってしまったうえに、北方領土問題が解決に向けた進展の気配を見せたり北朝鮮が弾道ミサイルを発射したり、一見派手な外交事案が続けて報じられていることもあって、あまりピンとこないかもしれませんが、政治的文脈は、改憲発議が現実化しつつある国会内だけでなく、先に挙げたような別の角度からのさまざまな要因も含めて、改憲の具体化に向かっているように思えます。
国民的議論には複数の憲法草案が必要
憲法改正の議論において、重要な役割を果たすのが新憲法の草案です。というのも、テクニカルな改憲の議論には大半の生活者は事実上ついていくことができず、しかし世論の盛り上がりがなければ、「国民の総意」という憲法の基本原則を体現することができません。草案というひとつの完成されたパッケージが提示されてはじめてその通奏低音というべきか、全体の論調、雰囲気を生活者が感じ取り世論の盛り上がりが生じ、それに応じてディテールと法技術的な側面を専門家が検討するというある種健全な改憲のための環境形成がなされるのではないでしょうか。
ところが現状、憲法草案というと、ともすれば自民党が2012年に公開した、いまでは悪評高き改憲草案ばかりが思い出されます。リベラルもなにかというとこの草案を引っ張り出してきて、批判を繰り広げます。確かにこの草案は、個人の自由や言論の自由よりも「公共」を重視し、また本来統治機構を制限するはずの憲法が個人に対して規範的要請を多々行うなど多くの問題を含んでいます。メディアが改憲問題を取り上げる際にもこの草案が中心となっていて、その非現実性や、公明党が消極的な態度を示していることについての報道をよく目にします。
しかし、この草案は4年前の4月、自民党が野党だった時代に作られたものですから、あくまで展示会に出品したコンセプトカーのようなプロトタイプにすぎないでしょう。というのも、憲法改正は原則として変更する各条文を検討し国民に改正の是非を問う作業になるので、現行憲法から一足飛びにこの憲法草案に向かうというのは作業量を鑑みても到底現実的とはいえないからです。世論の反発もあります。
その一方で、改憲論への参加に前向きな姿勢を見せながら独自の改憲草案は提示できていない民進党をはじめ、多くの生活者にとっては、参照すべき他のプロトタイプが見当たらないことも事実です。改憲の雰囲気だけは高まりつつも――改憲の「外堀」は埋められながらも――、その具体的な姿が見えないというのは奇妙な話です。
そうであるがゆえに、護憲/改憲という二項対立図式への賛否の表明だけが強制される現状は、まさに「下からの革命」を経験していない日本的な状況とはいえ、あまり健全とも思えません。かつて大日本帝国憲法の起草の時期や、日本国憲法への「改憲」に際して、民間有志を含むさまざまな人々が憲法草案を提示しました。今では9条改憲阻止を党是とする共産党でさえそうです。
1946年に共産党が発表した「日本共産党の日本人民共和国憲法(草案)」は、強い天皇制批判の前文で口火を切り、その第1条で「日本国は人民共和制国家である」と宣言し一院制を採用するなど、日本国憲法にはないユニークな特徴をもっていますが、基本的人権や個人的自由の尊重といった少なくない現行憲法との共通点など実に興味深い草案です。
この草案は現在では国立国会図書館のウェブサイト「日本国憲法の誕生」にアーカイブされていて[★5]、電子媒体で誰でも容易に閲覧可能ですので、ぜひ一読して欲しいのですが、このように論調の異なる幾つかの具体的な複数の改憲草案を前にしながら、実際の有り様を思い浮かべながら、憲法についての国民的議論を行うことが望ましいと思います。そのような作業が、有権者の憲法に対する想像力と敏感さを醸成するのではないでしょうか。
むろん、そのうえで現行の日本国憲法を護持する選択もありでしょう。憲法改正が発議されたうえで、その後の国民投票において改憲を否定するということは、成立から70年を迎えながら、多くの生活者にとって選択の契機が自明ではなくなりつつある日本国憲法を改めて選択し直す契機ともなるわけですが、あまりそのような議論はなされていないようです。
それでは現在、こうした憲法に対する想像力を醸成するための素材となるような改憲草案には、前述の自民党草案以外にどのようなものがあるのでしょうか。幾つか紹介しておきましょう。
政党のなかでは、改憲に対して肯定的な立場を取っていたおおさか維新の会が、今年3月に「おおさか維新の会 憲法改正原案」を公開しています。道州制や統治機構改革を標榜していた同党だけに、草案を第26条教育権、第92条以下の地方自治に限定しながらも、きわめて具体的な内容で、党名変更後の日本維新の会にも引き継がれているようです。自民党以外の政党が提示するなかでは、もっとも具体的な改憲案のひとつといえるでしょう。
2013年には、産経新聞社が創刊80周年事業として「独立自存の道義国家」を前文に掲げた「国民の憲法」要綱[★6]を公開しています。立憲君主制と国柄の明記、皇位継承の男子限定、軍の保持の明記、緊急事態条項の新設などに言及した、ある意味とても産経新聞社らしい保守的な内容になっているといえるでしょう。2004年には読売新聞社も改憲草案[★7]を作成、公開していますが、新聞社による憲法論議の牽引という伝統を継承しているともいえそうです。
日本青年会議所も2012年に「日本国憲法草案」[★8]を公開しています。これは自民党の憲法草案と呼応しあう性質のもので、構成もよく似ています。
このように見ていくと、2010年代に入ってからも、保守的な立場からの改憲案はそれなりに提出されていることがわかります。しかしながら、戦後民主主義の尊重と9条維持が「常識」と化したリベラルな立場からのプロトタイプは見当たらないことに気づくことでしょう。
そんななかで、皆さんがお馴染みの『ゲンロン』は2012年に、前身の『思想地図β』時代の3号において、「憲法2.0」と題した、いわばフルスペックの憲法草案を提示しています。震災直後の状況のなかで、東浩紀はその巻頭言において、新しい社会は新しいマインドセットを必要とする」と明言しています[★9]。
新聞社でも政治団体でもないチームが在野で憲法草案を提示するというのは、憲政の伝統に則りながら、近年では極めて珍しい事態といわざるをえないでしょう。次回は、改めてその議論と価値を振り返ってみることにしましょう。
★1 「安倍首相、国会での改憲議論に期待」TBSテレビ、2016年7月11日付。
★2 『民進党政策集2016』民進党、2016年。
★3 「天皇陛下の『生前退位』へ『憲法改正してもいい』84% 『政府は制度改正を急ぐべき』も70%」産経新聞、2016年8月8日付。
★4 「参院合区解消へ総裁直属機関の設置検討 自民幹事長」、日本経済新聞、2016年8月31日付。
★5 各政党の憲法改正諸案(国立国会図書館「日本国憲法の誕生」)
★6 「『国民の憲法』要綱全文と解説」産経新聞、2013年4月26日付。(編集部注 ウェブ上の記事は現在削除されている。)
★7 「読売憲法改正試案全文」、読売新聞社公式サイト。
★8 「日本国憲法草案」、日本青年会議所、2012年。
★9 東浩紀編『日本2.0 思想地図β vol.3』2012年、45頁。(編集部注 原文の傍点を太字に変更)
日本青年会議所も2012年に「日本国憲法草案」[★8]を公開しています。これは自民党の憲法草案と呼応しあう性質のもので、構成もよく似ています。
このように見ていくと、2010年代に入ってからも、保守的な立場からの改憲案はそれなりに提出されていることがわかります。しかしながら、戦後民主主義の尊重と9条維持が「常識」と化したリベラルな立場からのプロトタイプは見当たらないことに気づくことでしょう。
そんななかで、皆さんがお馴染みの『ゲンロン』は2012年に、前身の『思想地図β』時代の3号において、「憲法2.0」と題した、いわばフルスペックの憲法草案を提示しています。震災直後の状況のなかで、東浩紀はその巻頭言において、新しい社会は新しいマインドセットを必要とする」と明言しています[★9]。
新聞社でも政治団体でもないチームが在野で憲法草案を提示するというのは、憲政の伝統に則りながら、近年では極めて珍しい事態といわざるをえないでしょう。次回は、改めてその議論と価値を振り返ってみることにしましょう。
★1 「安倍首相、国会での改憲議論に期待」TBSテレビ、2016年7月11日付。
★2 『民進党政策集2016』民進党、2016年。
★3 「天皇陛下の『生前退位』へ『憲法改正してもいい』84% 『政府は制度改正を急ぐべき』も70%」産経新聞、2016年8月8日付。
★4 「参院合区解消へ総裁直属機関の設置検討 自民幹事長」、日本経済新聞、2016年8月31日付。
★5 各政党の憲法改正諸案(国立国会図書館「日本国憲法の誕生」)
★6 「『国民の憲法』要綱全文と解説」産経新聞、2013年4月26日付。(編集部注 ウェブ上の記事は現在削除されている。)
★7 「読売憲法改正試案全文」、読売新聞社公式サイト。
★8 「日本国憲法草案」、日本青年会議所、2012年。
★9 東浩紀編『日本2.0 思想地図β vol.3』2012年、45頁。(編集部注 原文の傍点を太字に変更)


西田亮介
1983年京都生まれ。日本大学危機管理学部教授/東京工業大学リベラルアーツ研究教育院特任教授。博士(政策・メディア)。慶應義塾大学総合政策学部卒業、同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。同政策・メディア研究科助教(研究奨励Ⅱ)、(独)中小企業基盤整備機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学大学院特別招聘准教授、東京工業大学准教授等を経て、2024年4月日本大学危機管理学部に着任。現在に至る。
専門は社会学。著書に『コロナ危機の社会学』(朝日新聞出版)『ネット選挙——解禁がもたらす日本社会の変容』(東洋経済新報社)、『メディアと自民党』(角川新書)『情報武装する政治』(KADOKAWA)他多数。
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