【ZEN大学共同講座】AIと女性たちのよりよい未来とは? 池澤あやか×ハヤカワ五味×佐々木チワワ「AIは女性を救うのか—テクノロジーとガラスの天井」イベントレポート

2025年12月12日、ZEN大学とゲンロンの共同公開講座第18弾として、AIと女性をめぐるトークイベントが行われた。登壇者は、ソフトウェアエンジニアでありタレントの池澤あやか、上場企業でAI活用推進を担当し個人でも発信を行うハヤカワ五味、歌舞伎町などの現場でAIを用いる若者たちのリサーチを続ける文筆家の佐々木チワワの3人である。
生成AIが爆発的に広まって3年余り経つが、女性とAIの関係に焦点が当てられることは意外にも少ない。生産性を圧倒的に向上させるというAIは、はたして、仕事と家事育児のバランスや低賃金に悩まされている女性を救うことはできるのか? 女性たちは実際にAIをどう活用しているのか?—イベントではさまざまな方向に議論が展開していった。その一部を紹介する。
池澤あやか×ハヤカワ五味×佐々木チワワ AIは女性を救うのか—テクノロジーとガラスの天井
URL=https://shirasu.io/t/genron/c/genron/p/20251212
AI利用にも男女差がある?
OpenAIがChatGPTを公開してから3年余り。いまや生成AIの存在は当たり前になった。だが、実際に活用できているひとはどれくらいいるのだろうか? その活用に、ジェンダーや年代による違いは見られるだろうか?
議論の口火を切ったのはハヤカワだ。AI関連のイベントの参加者や自身のPodcastのリスナー層は、男性が圧倒的に多いという。たとえばPodcastでは男性が7割を占め、女性は2割ほど。驚くべき比率だ。
これを受けて池澤は、いわゆる「アーリーアダプター」(新しいものをすぐに試してみる人たちのこと)に男性が多いことに目を向ける。そもそもテック業界は男性比率が高い。
ではなぜ男性が多いことが問題なのか。その理由は、ジェンダーの偏りが生ずることによって、イベントやオフライン空間に女性をはじめ多様なひとが参加しにくくなり、情報が一部のひとたちに独占されたり、サービスを享受できるひとが限られてしまったりすることにある。さらには、AI系のコミュニティのなかで無自覚なセクハラ的振る舞いが広がってしまう懸念もあるという。
そもそも生成AIは、ユーザーとのコミュニケーションを学習し、それにさらに適応していく仕組みだ。つまり、どのようなひとが、どのような使い方をしているかという情報の蓄積が、AIの出力に反映されていく。だからもし特定の属性のユーザーだけが利用していれば、その属性に特有の社会的価値観が強く反映され、場合によっては偏見が助長されてしまうリスクがある。実際に、AIが特定のジェンダーや人種を採用や金融の対象から排除する判断を行なうケースも報告されているのだそう。AIの多様化には、ユーザーの多様性が必要なのだ。
なぜ男性ばかりがAIを使うのか
2025年1月時点で生成AIユーザーの約85%は男性だと見積もられていた[★1]。しかし、2025年9月には男女差は多少改善されたとの報道もある[★2]。これは喜ばしいことだとハヤカワは語る。
利用者数の男女比は改善されつつあっても、やはりAIを使用する心理的ハードルは依然高い。池澤は、どの点が具体的なハードルとなるのかをなんとChatGPT本人(?)に聞いてみたという。ChatGPTの仮説では、問題はスキル差ではなく「心理的コスト」にあるのではないか、あるいは女性は効率化・生産性向上よりも「関係性最適化」のためにAIを利用する傾向があるのではないか、ということらしい。
ハヤカワによると、前者の「心理的コスト」は、企業内でAI活用を推進しようとする際にもこの傾向が見られるという。新しいツールを学び、業務に導入すること自体の負担や、おかしな回答が出てきて失敗することへの不安が、AI活用をためらわせるらしい。特に女性には、AIを使うことで「楽をしている」「サボっている」と思われないかという不安が顕著に見られるという。ハヤカワはこれを、お弁当に冷凍食品を入れることに、後ろめたさを感じてしまう心理になぞらえる。冷凍食品も、忙しい朝を助けてくれる味方のはずなのに、なにかと「楽をしている」と思われがちだからだ。一見関係なさそうなAI使用へのためらいと冷凍食品をつなげる、なんとも秀逸なたとえだ。
いっぽう池澤は、後者の、女性はAIを「効率化」より「関係性最適化」のために使うという見立てに深く納得した様子だった。業務をより早く・効率的に終わらせるよりも、人間関係を調整して、円滑にするためのAI利用、というものだ。
生産性向上か、ひととのコミュニケーションか。イベントでは、AI利用の二つの側面をめぐって、さらに議論が交わされた。AIとの向き合い方をあらためてじっくり考える時間となった。
感情労働とAI
イベント後半では、ホストや夜職女性を対象に社会学的調査を行う佐々木のプレゼンを軸に、AIと感情労働をめぐる議論が展開された。
AIは従来、単純作業を得意とし、ケアやカウンセリングのような感情労働は機械化されにくいと考えられてきた。しかし佐々木は、むしろAIは後者の感情労働こそ得意ではないかと提起する。いったいどういうことだろうか。
佐々木はホストや夜職女性を対象にAI利用に関する調査を行った。「AIを使ってる?」と尋ねられると、彼/彼女らはおおよそ「使っていない」と答えるという。けれども「AIに相談している?」と聞くと、不思議なことに「相談している」と答えるそうだ。
「AIを使う」という表現は、たしかに自動化や効率化といったイメージと結びついている。一方で「相談する」という表現は、先ほどのハヤカワと池澤の議論でも語られたように、感情や関係性の領域に近い。夜の街でもまた、AIの役割が人間関係のケアであるのは興味深い。
ところで、佐々木はZEN大学が主催するHUMAI研究奨励金プログラムの最終審査を通過し、本奨学金に選抜された[★3]。最終審査の研究プレゼンで佐々木が示したのは、AIに身体を数値化し評価してもらう事象と、AIに自身の肯定や分析を求める感情とが使用者のあいだで交錯しているという現状だった[★4]。前者では例えば整形箇所や顔の黄金比の相談のため、後者では恋愛関係の中でのLINEの分析や相談が挙げられる。
AIに価値基準を委ね、AIが述べたことを正しいと信じ安心する──このような態度は、単なる作業効率化の道具と思われてきたAIが、人間の感情を左右し、揺さぶっていることの証拠かもしれない。ハヤカワもまた、AIが言っていることと同じだからあなたを信用・評価する、という発言が、教育現場や企業内でもなされていると指摘する。AIに相談し評価を受け取り、現実の人間関係に反映させるという営みは、すでに日常的なものとして広がりつつあることがよくわかる。
ホストクラブに見るAI活用
佐々木はさらに、こうした「相談相手としてのAI利用」が、ホストクラブの「担当制」文化にも影響を及ぼすのではないかと予測する。担当制とは、初回で複数のホストが入れ替わり立ち替わりテーブルに来て接客した後、自分の担当一人を指名すると、原則として変更できなくなるという、ホストクラブ独自の制度のことだ。とはいえ、複数のホストクラブに通うことはできる。すると女性たちは、メインで指名する「本担(ルビ:ほんたん)」のほか、別の店舗にいる「サブ担」も持つようになるのだ。
彼女たちはこのサブ担に、本担との仲を相談するという。ホストという特殊な業務形態を理解してくれるひとは少なく、一般の友人に相談すると、場合によっては眉をひそめられることもある。その点、サブ担はホスト業界の知識をもとに、感情のケア—いわば「メンケア」をしてくれる貴重な存在なのだ。
この「メンケア」が、どうやらAIの登場によって様変わりしているという。AIに悩みを相談をするひとは増えているが、夜の街では果たしてどうなっているのだろうか。詳しくはアーカイブでぜひ確認してほしい。
AIは女性をめぐる問題を解決できるか
では、結局のところイベントのタイトルに掲げられた問い—AIは女性を救うのか—に対する答えはどのようなものだったのか。フタを開けてみると、その答えは三者三様であった。
ハヤカワは、女性の多くがAIの恩恵を受けづらい構造があることを率直に認める。女性は、観光、販売、看護など、直接サービスを提供する職種に多く従事しており、AIに代替できる業務がそもそも少ないのだ。それでもハヤカワは、AIに助けを借りれば、女性のキャリアにおける最大の壁である妊娠・出産による物理的・時間的制約から解放される可能性があると指摘する。イベント内では、メールの自動返信や、長文プロンプトをもとに開発した自分用AIなど、具体的な実践例が紹介された。こうした例は働く女性に限らず、多くのひとに参考になるはずだ。女性が気負わずに手軽に実践できるようになれば、より広い層がAIの恩恵を受けることができるだろう。
一方、池澤はAIの普及によってある懸念を抱くようになった。最近では、急速なAIの発展にともなって、むしろ「AIにはできない、人間にしかできないこと」が模索されつつある。つまり「現場」の重視だ。けれども、これではケア労働に就きやすい女性たちは、結局その「現場」に拘束されることになるのではないか。
また、人間同士のコミュニケーションが求められるということは、物理的な出社が必須となることを意味する。コロナを契機にせっかくワークライフバランスの議論が進み、子育て世代の働き方が模索されるようになったのにこれでは後退しかねない。現場回帰になりつつあるいまこそ、リモートワークなど柔軟な働き方の導入を進めてほしいと池澤は述べた。
池澤が提起するAIとケア労働についての問題に、佐々木は別の角度から未来予測を加える。AIの時代だからこそ、あえて人間の女性にケアしてほしいという需要が高まる可能性はないだろうか、と。だとすると、女性の感情労働に対して、これまで以上に対価が払われる未来がくるかもしれない。これもまた別の仕方で、「AIが女性を救う」ということになる。しかし、ケア労働者がより現場に拘束される問題はさらに広がる懸念も考えられる。
他にも、三人がそれぞれ使い分けている複数の生成AIとの関係を示した「AI相関図」や、AIと恋人のようなやり取りを行う人びとを指す「AIパートナー界隈」など、興味深い話題が続いた。AIを使いこなすだけでなく、AIをどう楽しむか。AIとの新たな付き合い方が提示されたイベントだった。
こうした内容を踏まえ、女性ならではのAIイベントとなった……とまとめるのは、政治的に正しくはない。それもまた女性をある種のステレオタイプに当てはめることになるからだ。それを承知であえて言えば、やはり筆者は「女性」として男性たちのAI語りにどこか距離を感じていたのもたしかである。もっとも、その違和感はジェンダーだけから生じているとは限らない。AI活用が急速に推進される現状に後ろめたさやためらいを覚えているひともいるはずだ。そんなひとにこそ本イベントは、AIを身近なものとして捉え直すきっかけをくれるものといえるだろう。ぜひ広く視聴していただきたい。(栁田詩織)

★1 Tech Crunch「ChatGPT’s mobile users are 85% male, report says」2025年1月25日。URL=https://techcrunch.com/2025/01/29/chatgpts-mobile-users-are-85-male-report-says/
★2 ITmediaNEWS「OpenAI、ChatGPTの利用実態調査を公開 男女差は解消、利用目的の半数は情報収集」2025年9月16日。URL=https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2509/16/news060.html
★3 東京大学 松尾・岩澤研究室の協力ならびに公益財団法人 日本財団の支援のもと、ZEN大学の第二松尾研が運営するプログラムで、人文社会領域に関心をもつ大学生・大学院生・ポスドクが、専門分野を越えて交流できる奨励金制度を提供している。HUMAIプログラムの詳細については、以下のイベントレポート記事も参照されたい。URL=https://webgenron.com/articles/article20250904_01
★4 佐々木チワワ氏の最終審査は以下のリンクから視聴することができる。URL=https://www.youtube.com/live/JEWdCI-_4oc






