「アツさ」だけではない泉房穂の肖像──泉房穂(聞き手=西田亮介)「「社会を変える政治」とは」イベントレポート

シェア
webゲンロン 2024年5月16日配信
 2024年2月12日、ゲンロンカフェで元衆議院議員で2023年4月まで明石市長を務めた泉房穂によるトークイベントが開催された。聞き手を務めたのは社会学者の西田亮介である。イベントでは泉の政治観が、哲学者や思想家、さらには泉自身の生い立ちを通して明らかになった。そこから見えてきたのは理想と情熱、つまり「アツさ」だけではない、泉房穂のオルタナティブな姿だった──。本稿ではその一部をレポートする。
 
泉房穂(聞き手=西田亮介)「「社会を変える政治」とは──泉房穂の理想と挑戦」 
URL= https://shirasu.io/t/genron/c/genron/p/20240212

 泉房穂はアツい。泉房穂は冒頭から全速力である。自身の政治的モチベーションの原点について、「十歳のころに「こんな冷たい町を変えてみせる」と思った」と語るように、泉には生まれや家庭環境からくる社会への怒りと、それに基づく強烈な草の根的パッションがある。西田はそれに対して「暑苦しさはじつは政治家にありがちな性質だが、そうした数多の政治家たちと泉はどのように違うのかを今日確かめたい」とイベントの方向性を確認した。

 まず泉は日本について、「市民による革命が一度もない国」だとして、「その初めての革命を自分がしたいと思っている」と語る。さらにその「革命」の理想に基づき、明石市から国政へといたる今後の自身の方向性をほのめかした。理想と情熱を体現したような泉の語り口に対して、西田は「普段からこの調子で話されているのか」と狼狽しつつ、適宜補助線を入れながら整理していく。

 泉はさらに、自身のアイデンティティについて、「政治家ではなく、哲学者や社会思想家、変革家といったほうがしっくりくる」という。とくに最も影響を受けた哲学者ジャン=ジャック・ルソーについては、「ルソーはずっと大好きであり、自分はルソーに入れ込みすぎている」とまで述べる。泉によれば、ルソーはほとんど学校にいかなかったことで自由に思考を羽ばたかせることができた。彼は民衆の力を信じつつ、社会は変革してもよいのだ、社会のトップに立つのは王でなくてもよいのだと主張した「変革の思想家」なのである。

 このように民衆の力に期待し変革を志したルソーに対して、泉は「ジョン・ロックは嫌いだ」と言い切る。ロックは民衆というよりは議会の機能を重視した思想家であり、泉は「日本はまさにロックモデルで政治を行なっている」と批判した。あくまで議会を擁護するロックと、民衆の熱に期待を託し、ラディカルな社会変革を志すルソー(=泉房穂)。この両者の対比からも、泉のイメージがより明確に浮かび上がることだろう。

 しかしながら、イベントが進行していくにつれ、次第に「アツさ」だけでは汲み尽くせない泉のもうひとつの側面が見えてくる。それはメディアにおける「泉房穂像」とは対照的な「戦略家」としての一面だ。

 泉はたしかに情熱的かつ高速でトークを展開していったが、他方で「政治とは詰将棋である」という原則をなんども強調した。それは泉の政策提案にも表れている。西田も指摘したように、泉は政策の立案に際して、諸外国の類似した制度を徹底してリサーチする。そのうえで、各ステークホルダーが譲歩可能な範囲での、リアリスティックな政策を提言するのだという。たとえば消費税についていえば、イギリスやアイルランドの例を引きつつ、すべてを0%にするのではなく、生鮮食料品だけに限定して0%にすべきだ、と主張する。なぜなら、それが日本の省庁などのステークホルダーがかろうじて譲歩可能な範囲だからである。こうした人間的・利害関係的な駆け引きという意味での「政治」についても、泉は細かい気配りを忘れない。

 このような泉の両面性を、西田は「大胆な構想を抱く理想的な側面と、詰将棋的、人心掌握を重要視する戦略的な側面を併せ持っている」と評価した。いわば泉は情と理、パトスとロゴスを巧みに融合し、活用しているのである。話し方や振舞いにのみ焦点をあてれば、たしかに泉のイメージは「理想と情熱でもって人びとを焚きつける政治家」になる。だが、今回のイベントでは、そうした「アツい政治家」のイメージとはかけ離れた、戦略家としての泉房穂像が強調されることとなった。ここでは具体的な方策については省略するが、泉は自身の柱とも言えるインクルージョン(社会的包摂)政策についても、安易な「道徳」による解決に逃げず、透徹したリアリズムを提示し続ける。

 では、このような泉の両面性の背景には、いったいどのような経験が横たわっているのだろうか。泉はこの問いに、「子供の頃から「冷たい町を変えてみせる」と本気だった。だから着実に結果を出す必要があり、そのためには詰将棋的な戦略家にならざるを得なかった」と応答する。ではなぜ「冷たい町を変える」必要があったのか。詳細はアーカイブ動画を確かめてほしいが、泉の根本的なモチベーションには障がいを持つ弟と、それを巡る複雑な家庭環境があったのだという。自身の出自にまつわるトークでは、泉が感極まって涙を流す場面もあった。泉が併せ持つ情熱的な側面と戦略的な側面、それらの背景には故郷での強烈な原体験があった。

 イベントの終盤では東浩紀も参加し、明石に対する思いや田中角栄ら昭和の自民党政治家との類似性、さらには団塊ジュニア世代論など、多岐にわたるトークが展開された。西田からも泉の宗教観についての質問が投げかけられるなど、普段のメディア出演ではあまり語られないような話も展開された。とりわけ東と泉のあいだで繰り広げられたIT系インフルエンサーの政界進出についての議論は、昨今の政治の閉塞感を突破するためのヒントになるとともに、泉の今後についても期待感を抱かせるものとなった。理想と情熱、すなわち「アツさ」だけではない──とはいえやはりアツい──泉房穂の姿をぜひ確かめていただきたい。(田村海斗)

泉房穂(聞き手=西田亮介)「『社会を変える政治』とは──泉房穂の理想と挑戦」
URL= https://shirasu.io/t/genron/c/genron/p/20240212

    コメントを残すにはログインしてください。