モンキー・D・ルフィと反キリスト 惑星的なものにかんする覚書 第7回|ユク・ホイ 訳=伊勢康平

★=原注 ☆=訳注 [ ]=著者補足 〔 〕=訳者補足
§1
2026年3月、パランティア〔Palantir〕の創業者であるピーター・ティールがローマを訪れ、ルネサンス期にオルシーニ家が建造させたタベルナ宮で連続講演を行なった。テーマは反キリストと西洋についてである。アメリカとイランが戦争をしている最中に反キリストにかんする講演をするとは、まるで十字軍のプロパガンダのようだ。もっとも、読者の多くはご存じかもしれないが、ティールは反キリストにかんする意見をすでにさまざまなところで表明している。ロス・ドーサットが聞き手をつとめた2025年のニューヨークタイムズのインタビューはその最たる例のひとつだ。
西洋は近代の初期から勝利を収めてきたが、しかし徐々に衰退しつつあり、いまや弱く脆い存在になっている──これがティールの基本的な考えである。本覚書の初回で論じたように、ティールは過去にこれとよく似た発言をしている[☆1]。たとえば2004年にルネ・ジラールを囲んで開催されたシンポジウムに寄せた「シュトラウス的瞬間」〔The Straussian Moment〕という論考のなかで、9・11という事件によって西洋は目覚めなければならず、またそれこそが西洋を立ちなおらせる瞬間なのだと主張している。このシンポジウムののち、ティールはCIAの援助を受けてパランティアを創業した。この企業は警察による監視や戦争の際に使われるソフトウェアを開発しており、現在アメリカやヨーロッパ(とくにドイツやオランダ、デンマーク、イギリス)で広く採用されている。創業者たちの発言からうかがえるように、この企業の根幹をなす目的は、没落する西洋にひそむバグを修正することである[★1] 。
20年前に比べて、ティールはさらに過激化している。2004年の段階では、かれはまだ「赤子を産湯ごと捨ててしまわないようにする方法」を、つまり西洋が利益を失うことなく敵を取り除くにはどうすればよいかを考えていた[★2]。しかしそれから20年が経過したいま、敵はより強力になり、血みどろの戦いは避けられないものになったようである。また、ティールのビジネスパートナーでパランティアのCEOであるアレクサンダー・カープは、テクノロジーは中立であるという言説に逆らい、これまでシリコンバレーはただビジネスをして消費主義を促進することにのみ集中し、国家権力の一部になることをためらってきたのだと考えている。まさにカープらが『テクノロジカル・リパブリック』という著作のなかで述べているように、このような思考は必然的にテック産業と国家の緊密な協力をもたらすだろう。


ユク・ホイ

伊勢康平




