AI時代のイベントレポート──川上量生×松尾豊×東浩紀「知性とはなにか」イベントレポート
川上量生×松尾豊×東浩紀「知性とはなにか──AI時代の人文学」
URL=https://shirasu.io/t/genron/c/genron/p/20230625
登壇者は、ZEN大学の仕掛け人である川上量生、東京大学教授でAI研究の第一人者である松尾豊、ゲンロン創業者の東浩紀です。テーマは「知性とはなにか──AI時代の人文学」です。
まず、川上はZEN大学の目的や設立の思いについて話しました。要点はふたつ。大学入試をめぐる問題をバイパスすることと、学際研究の重要性を変えるきっかけを作ることです。
ZEN大学にて「第二松尾研」をスタートさせる予定の松尾豊は、AI時代に人文社会科学が大きく変わると考え、AIの開発だけでなく応用にも取り組むことについて述べました。キーワードは「人工知能で人文社会科学をアップデートする」です。具体的な例のひとつとして、法律の作り方もAIの影響を受けて変わる可能性があると松尾は述べました。
それに対し東は、AIのメカニズムと人間の脳のメカニズムが同一とは限らないため、AIを理解することと人間の思考方法を理解することは別の問題である可能性も指摘しました。議論はここから、AI観や人間観が完全には一致しない3人だからこその盛り上がりを見せました。
たとえば、松尾は ChatGPT のモデルは大脳皮質に近いが、行動を扱う部分は不完全であると述べました。東はAIの学習メカニズムについて質問し、松尾は自己教師あり学習や誤差逆伝播について説明しました。
また、AIの出現によって人文社会科学が変わり、プログラミングの自由度も増す可能性があることについても話し合われました。松尾はAIの学習には失敗も必要であることから、教育においても失敗を認めること褒められることが重要であると指摘しました。
議論はさらに、政治や経済へのAIの応用から人間の幸せの追求についても展開しました。川上は、人間の幸せの感覚とは生物の生存を目的とした進化的な必然性から生じたものであるため、「幸せとはなにか」を目的として追求することは倒錯であり、進化的には正しくないと述べました。それに対し、東は人間にとっての自然は「幸せとはなにか」を考えてしまう倒錯も含めて成り立っていると述べました。松尾豊は人間性と最適化のバランスが重要であると述べました。
東浩紀は「人工知能による計算でユートピアが実現する」という発想と共産主義の類似性について言及し、スマートシティの概念や19世紀のロンドンの万博と社会主義の関連性についても触れました。東はそのようなユートピアを忌避してしまう自己破壊的な人々がどうしても現れてしまうということに人間の人間たるゆえんを見出しています。東は、ユートピア思想の反復は基本的に失敗するとも指摘します。
イベントでは、タイトルどおり「知性」についての議論も行われました。東は、『岩波 哲学・思想辞典』の「知性」の項を参照しつつ、伝統的な知性の概念は「直観」に近いものだったのが、近代において「理性(論理能力)」に置き換わり、その意味が狭まっていることを指摘しました。これに対し、川上は直感とは帰納的な推論のことではないかと応じ、東は帰納とも演繹ともちがう「アブダクション」がそれに近いかもしれないと述べました。
松尾は、人間の知能を2階建ての概念として捉え、動物OSと言語アプリという言葉で表現します。動物OSは外界を感知し、学習を通じて世界のモデルを作り、予測を立てる基盤となります。言語アプリは予測を利用して、言語の入力をベースに条件付き生成を行います。東は、近代では言語が理性とされ、動物は感覚しか持っていないと考えられていると述べています。しかし、近代において人間の特別な能力として言語や論理が求められるようになったことが正しいかどうかはわからないと述べています。人間とAIの関係については、芸術家や政治家はAIで代替可能かという議論も盛り上がりました。
ほかにもイベントでは、川上と松尾のバックグラウンドに迫る議論も展開しました。
川上はニコニコ動画の創始者として有名ですが、中学生時代からコンピュータに詳しく、大学卒業後にサラリーマンとして働いたのちに起業したエピソードも披露されました。そして、ニコニコ動画と YouTube の関係や動画コンテンツの特徴についても話しあわれました。川上はニコニコ動画のアノテーションやランキングの仕組みについて言及し、東は涼宮ハルヒというコンテンツとニコニコ動画の親和性について話しました。また、松尾が YouTube の勢いが減少しない理由について質問し、川上は動画サービスのインフラの問題や Google の優位性について説明する一幕もありました。
松尾は香川県出身で、讃岐うどんについても熱弁をふるいました。詳しい内容は動画アーカイブを見ていただきたいですが、この話はAI研究とも関係しています。まず、彼は大学進学で東京にきたとき、うどんの味のレベルの低さにショックを受けました。しかし、その後讃岐うどんブームが起きて人々のうどんに対する意識が変わったことで、自分の考えが正しかったことを確認したと言います。これとおなじく、彼が学生時代に人工知能研究をはじめたころにはその重要性は理解されていませんでしたが、いまとなってはその重要性はだれもが認めるところです。
イベントの最後に次回の講座の予告もだされました。
次回は、数学者の加藤文元氏と川上量生、東浩紀の3人による講座で、加藤が一般向けの解説本を出したIUT理論について話し合われます。加藤は数学の役割や数学界の合意の欠如について議論したいと語っているとのことです。川上と東は、IUTの話題は数学の抽象化と関連しており、数学や論理能力の再定義についても議論したいとも考えています。
川上と東は再会に喜びを感じ、今後もゲンロンカフェでこの講座を続けていきたいと述べています。
※ZEN大学(仮称)は設置構想中のため、掲載している内容は今後変更の可能性があります。
社内および編集部のなけなしの知恵を動員して緊急で生成したAIイベントレポートはいかがでしたでしょうか? 冒頭で、AIによるイベントレポートに「いくらか」手を加えた、と書きましたが、それがほんとうに「いくら」だったのかはあえて明らかにしません(笑)。生成の詳細な方法についても同様です。イベントを視聴してこの作業に従事した人間の感想としては、「いまのところAIにはまだ限界もあるな」といったところでしょうか。今後もおなじ試みはたびたび行うかもしれません。その経過をたどれば、AIの進化が可視化できるのかも……?(住本賢一)
川上量生×松尾豊×東浩紀「知性とはなにか──AI時代の人文学」
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