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    小西康陽弾き語り!五反田は夜の七時──小西康陽(聞き手=速水健朗)「ゲンロンカフェの小西康陽」イベントレポート

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    Webゲンロン 2023年1月23日配信
     1月13日、90年代のカルチャームーヴメント「渋谷系」を牽引した伝説のバンド「ピチカート・ファイヴ」のリーダーで、バンド解散後も多方面で旺盛な活動を展開してきた小西康陽氏による「弾き語り+トークイベント」がゲンロンカフェで開催された。イベントは2部構成。第1部は小西氏による弾き語りで、第2部はライター・編集者の速水健朗氏を聞き手に迎えたトークライブとなった。
     イベントタイトルは「ゲンロンカフェの小西康陽」。このレポートでは、いつもとはすこし違った「小西康陽のいるゲンロンカフェ」の様子の一部をお届けする。(ゲンロン編集部)
     時刻は夜の七時。冒頭15分間ほどのイントロダクションを終えると、会場が暗くなる。ガットギターを抱えた小西がおもむろに歌いはじめたのは、「東京は夜の七時」だった。いわずと知れたピチカート・ファイヴの代表曲だ。しかし歌詞があまりにシチュエーションと一致していたからだろうか、曲名にもなっている有名なフレーズに差し掛かると、小西は「トーキョーは──。言いたくない」と歌った。

     
     
     続けて演奏したのはこちらもピチカート・ファイヴの曲、「戦争は終わった」。ところが1コーラスを歌い終えたところで、小西は突然演奏をとめる。かと思うと、この曲の歌詞について滔々と語り始めたのだった。

    ゆうべ飲んだワインと
    ウイスキーのグラス
    吸い殻が溢れた
    灰皿のそばを
    猫が歩く


     この詞を書くにいたった背景について小西は語る。いわく「ある日フランソワーズ・サガンの若いころの写真を見ていたら、この詞の風景そのものと出会った」。ひとしきり話し終えると、「じゃあ、二番歌いますね」とまた歌い始める。第1部ではこのように、演奏が始まったかと思えば途中で小西が独りごち、話がひと段落するとまた歌が始まる、そんなスタイルの弾き語りライブが繰り広げられた。

     
     


     3曲目の「あなたのいない世界で」に続いて、4曲目に披露されたのは同じくピチカート・ファイヴの「連載小説」。ここではちょっとしたサプライズがあった。その内実はぜひ配信アーカイブで確かめてほしい。

     ライブが終盤にさしかかると、かまやつひろし(ムッシュかまやつ)作曲のザ・スパイダーズ「いつまでもどこまでも」など、小西が敬愛するミュージシャンからのカバー曲もいくつか披露された。長年バンド活動を続けていた小西は、ひとりで弾き語ることについて「曲目も、リズムも、演奏をとめることだって自分で決められる。それが楽しい」と話した。

     
     
     第2部はトークパートでは、聞き手の速水が小西からさまざまなトピックを引き出す様が印象に残った。ピチカート・ファイヴ結成前後の貴重なエピソードから、ブレイク後のカルチャーシーンにおける小西の影響力、さらには山下達郎や細野晴臣といった上の世代のレジェンドたちにまつわる語りまで。90年代カルチャーを知悉した速水ならではの絶妙な問いかけによって、多岐にわたる話題が展開した。またイベントの最後の質疑応答タイムでも、会場に集った小西ファンからさまざまな角度からの質問が飛び交った。ここではある質問者とのやりとりを紹介して結びとしたい。

     



     質問者の問いはこうだった。「小西の活動のひとつに『ピチカート・ワン』というソロプロジェクトがあるが、それと今日のような本名でのソロ活動はどう違うのか」。

     これに対し小西は、「いままで考えたことがなかったが、今日わかったことがある」と話す。「『ピチカート・ワン』では、プロのミュージシャンを呼んで、レコーディングをして、というように完成された作品を出したいという意識がある。いっぽうで小西康陽名義では、もっとカジュアルに、たとえば今日のようなスタイルで演奏したい。そしていまはこちらの活動のほうがちょっと楽しいかもしれない」。

     その言葉どおりの、「作品」に対する力の入った感覚とはまたちがう、軽やかさに満ちた自由な夜だった。曲と曲のあいだに加えて、曲の途中でも話が入る。歌詞について語っていたかと思えば、いつのまにか映画やレコードの話題になっている。対談のあいまにも、思い出したかのようにギターを手にとり爪弾く。いつ話し出すのか、いつ曲が始まるのか、そのタイミングは小西以外にはわからない──。そうすると、だんだんと演奏と語りの境目があいまいなふわふわとした感覚になってくる。だからライブとトークを聞き終えた私に残ったのは、個々の楽曲の印象というよりも、「なにか重要なものを目撃した」という漠然とした、しかし確かな感触だった。

     いつもとはちょっと違うゲンロンカフェ、その一部始終をぜひ目撃してほしい。(江上拓)

     
     


    シラスでは、2023年04月13日までアーカイブ動画を公開中です。


    小西康陽 聞き手=速水健朗「ゲンロンカフェの小西康陽──うた、ギター、ことば。」(番組URL=https://genron-cafe.jp/event/20230113/
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