【 #ゲンロン友の声|036】どうすれば失敗を受け入れられますか
はじめまして。非会員の立場ながら、東さんのご意見を伺えたらと思い質問させていただきます。
私はいま大学生なのですが、大学受験に失敗した経験を引きずったまま学生生活を送っています。受験生の頃は東京にある大学を目指していたのですが、一浪した末に別の地域にある大学へ進学しました。私はもともと田舎育ちで都会への憧れが強かったこともあり、試験に落ちた悔しさだけではなく、望んでいた東京暮らしへの未練も自らの胸の内に潜んでいるように思います。
とはいえ大学生活は悪いことばかりではなく、部活やサークル、大学に入ってから出会った哲学の勉強に打ち込む日々には楽しさもあります。しかし、ふとした瞬間にすべてが中途半端に感じられてしまい、「本来あったはずの」輝かしい青春をイメージしては勝手な寂しさを憶えることが日常に度々あるのです。また、勉強をきちんとしていなかった(つまり必然的な不合格だったのですが)ため、「ちゃんと勉強していれば受かる能力はあったんだ」という傲慢な妄想が何度も頭をよぎり、挙げ句の果てには、同級生と話していても「ともすれば、もっと賢い人たちに囲まれていたんだろうな」などと考えてしまいます。
このようなことを考えるたび、自意識が強く他責的で、怠惰にもかかわらず自己の能力を過信し、他者からの承認に飢えているといった自分の性格の負の面を否応なく突きつけられており、そのこと自体にもまた辛いものがあります。
こうした後悔や葛藤は、やはり長く続くものなのでしょうか。あるいはいつか、すべてを受け入れられる日が来るのでしょうか。
大変に見苦しい質問で申し訳ありません。お答えいただけると幸いです。(北海道・20代・男性・非会員)
質問ありがとうございます。ちょうど受験シーズンですね。同じような悩みを抱えている大学生の方、あるいは来たる受験に失敗し同じ悩みを抱えることになるのではないかと、不安な受験生さんも多いのではないかと思います。
さて、回答ですが、なかなかすっきりとした答えは返すことはできません。「悩むことなんてない、いま通っている大学がいちばん!」みたいに答えればいいのかもしれませんが、真面目に考えるとそれは無責任というもので、細かい状況を知らないとアドバイスはできません。どんな大学に行くはずで、いまどこに通っているのか。学部はどこで、将来の夢はなんなのか。個別のケースで回答は異なるはずだと思います。実際、仮面浪人で第一志望の大学に入り直すひとや、社会人になってから大学に戻るひともいる。ひとそれぞれです。
しかし、その前提のうえで答えさせてもらえば、やはり基本的には「そんなに気にすることはない」と思います。なぜならば、たとえ大学の選択に満足できたとしても、同じような悩みには今後いくども出会うはずだからです。人生の選択は大学だけではありません。就職先。結婚相手。そもそも結婚するかしないか。子供をつくるかつくらないか。どこに住むか。とにかく無数の選択肢がある。そしてそのすべてについて後悔しない人生なんて、さすがにありえない。ひとはだれでも、「自分にはべつの人生があった」と思い、その仮想の世界に夢を託すことで生きているものだと思います。
というわけで、質問者の方はいまはまだ若いので大学の選択で苦しんでいるだけで、希望どおりの大学に入り直したとしても、どうせ似たような後悔や葛藤はやってくる。人生なんてそんなもんです。そういうものだと割り切って、現に自分が歩んでいるルートを満喫するのがよいと思います。
そもそも、いまや50代半ばのぼくからすればあなたは無限に若い。年齢を重ねると、新しい選択肢を選び、ほかの人生を思って後悔するということすらできなくなる。そういう点では、あなたの悩みはとても贅沢なものでもある。元気出して!(東浩紀)
東浩紀
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