【 #ゲンロン友の声|016 】子供の「生きていることの不思議」に東さんならどう答えますか?
webゲンロン 2021年4月20日配信
小学一年生の娘が、「@@ちゃん(自分のこと)はどうして生きているんだろう?」と、ふと聞いてきました。
自分が生きていることを不思議に思うことは共感できますし、「そんなことを考えられるほど大きくなったのか」と親として嬉しく思いました。しかし、返答に困りました。
「生きてる理由は自分で決めてもいいんだよ。」って、実存っぽいことを答えましたが、娘には全く響いておらず……。
また、別の日、「魂は生きているの?」って聞かれ、再び返答に困り……、「魂と体は別のモノなの?」と聞き返すのが限界でした。娘はマジでした。
小さい子供でも立派に哲学を問うことができます。東さんならどう答えますか? (岡山県・30代・男性・会員)
自分が生きていることを不思議に思うことは共感できますし、「そんなことを考えられるほど大きくなったのか」と親として嬉しく思いました。しかし、返答に困りました。
「生きてる理由は自分で決めてもいいんだよ。」って、実存っぽいことを答えましたが、娘には全く響いておらず……。
また、別の日、「魂は生きているの?」って聞かれ、再び返答に困り……、「魂と体は別のモノなの?」と聞き返すのが限界でした。娘はマジでした。
小さい子供でも立派に哲学を問うことができます。東さんならどう答えますか? (岡山県・30代・男性・会員)
ご質問ありがとうございます。いい話ですね。ふたつ質問があるのですが、前者のみに答えます。おそらくはそれで答えになっていると思います。さて、ぼくにも娘がいます。ぼく自身はかつて似た質問にどう答えたのだろうと記憶を探ったのですが、さっぱり思い当たりません。どうもうちの娘はその手の質問をしなかった気がします。妻に尋ねても記憶にないとのこと。というわけでいまや15歳になった娘本人に尋ねてみたのですが、彼女いわく、「わたしはむかしからひとは無から生まれ無に帰っていくのだと思っていたので、そんな無意味な質問はしなかった」とのことでした。お、おう……。というわけで出だしからずっこけてしまったわけですが、気をとりなおして考えるに、もしかりに似た質問を受けたとしても、ぼくもまた結局はいまのうちの娘の考えと同じ答えを返す気がします。つまりは、ひとは無から生まれ、無に帰るのであり、生きることには意味がないが、しかしだからこそひとは生きているのだと……。これは子どもに返すにはあまりに高級な答えでしょうか? ぼくはそう思いません。なぜならば、ひとがそもそも意味なく生きているということ、それはおそらくは子どものほうがよく知っているからです。娘さんが意味を問い出したというのは、おっしゃるとおり成長の証で、それは大人の世界に足を踏み入れ始めたということだと思います。大人の世界は意味に満ちています。ぼくたちはいつも意味を問うている。だから、子どもにできないいろいろなことができる。それは事実です。けれども同時に、だれもが知っているとおり、それは無意味な苦しみ──というか、無意味という苦しみを生み出すものでもあります。わたしはなんでこれをしてるんだろう、これにはなんの意味があるんだろうとつねに苛まれ、ときに命を断ちたいという思いまで生み出すような条件を抱えることになる。だからひとは、つねに、意味の探究と意味の解除のバランスをとって生きていかなければなりません。そして子どもにもそのバランスを教えなければなりません。というわけで、ぼくが娘さんに答えるとしたらつぎのような答えになります。@@ちゃんが生きていることに原因はある。パパとママがつくったからだ。けれどもその子どもがなぜ@@ちゃんになったかといえば、それは偶然で意味はない。同じようにパパとママが生きて結婚していることにも意味はないし、空があったり海があったり森があったりすることにも意味がない。でもそれはおかしいことではなくて、そもそも意味がないのに、いま世界がこのように存在しているということが尊い。意味があって生きているんだとすれば、意味がなくなったら死ぬことになる。でもそれはまちがっている。そんなこといったら、世界はいますぐ消滅しなければいけないことになる。そもそもパパとしては、@@ちゃんが生きることにどれほど意味がなくても生きていてほしい。まあ、強いていえば、そういうまわりの愛情がいま@@ちゃんが存在していることの意味といえるだろうか……。(東浩紀)
東浩紀
1971年東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。株式会社ゲンロン創業者。著書に『存在論的、郵便的』(第21回サントリー学芸賞)、『動物化するポストモダン』、『クォンタム・ファミリーズ』(第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』、『弱いつながり』(紀伊國屋じんぶん大賞2015)、『観光客の哲学』(第71回毎日出版文化賞)、『ゲンロン戦記』、『訂正可能性の哲学』、『訂正する力』など。
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