『新プロパガンダ論』関連選書&推薦コメント|辻田真佐憲
ゲンロンα 2021年4月2日配信
2021年1月に刊行され、YouTubeで無料公開中の刊行記念イベントも話題沸騰のゲンロン叢書008『新プロパガンダ論』。各書店で、著者ふたりの主要書籍(編集部が選出)+著者おすすめの書籍を集めた刊行記念フェアを開催していただきました。
「ゲンロンα」ではその選書リストを特別に公開。また著書ふたりに選書への推薦コメントを寄せていただきました。以下にお届けするのは辻田真佐憲さんによる選書&コメントです。オルテガ・イ・ガセットから『日本の酒』まで──『新プロパガンダ論』の多用な楽しみ方が提示されています。
これらの書籍はゲンロンカフェに配架している「ゲンロンカフェ選書」にも追加予定。ほかの選書者によるリストはこちらからご覧いただけます。
「ゲンロンα」ではその選書リストを特別に公開。また著書ふたりに選書への推薦コメントを寄せていただきました。以下にお届けするのは辻田真佐憲さんによる選書&コメントです。オルテガ・イ・ガセットから『日本の酒』まで──『新プロパガンダ論』の多用な楽しみ方が提示されています。
これらの書籍はゲンロンカフェに配架している「ゲンロンカフェ選書」にも追加予定。ほかの選書者によるリストはこちらからご覧いただけます。
■ 辻田真佐憲
【辻田真佐憲による選書コメント】
『新プロパガンダ論』は、反時代的な本である。ハッシュタグ運動や専門主義が謳歌される時代にあって、個々の政治的なイシューを扱いながら、それと同時に、世の中で受け入れられているさまざまな価値観に疑問を挟み、この世界や社会について総合的に語ろうとする試みだからである。
『道徳の系譜』や『大衆の反逆』を選書した理由もこれと無関係ではない。筆者は、当然のように振りかざされる正義への懐疑を前者に、総合知を毀損して凱歌をあげる専門家への懐疑を後者に学んだ。この2冊との出会いは、高校生のときだった。新しい歴史教科書をつくる会の運動に興味をもち、その主要な論客であった西尾幹二と西部邁の著作を読むなかで、偶然(でもないが)たどりついたのだ。
知識はどこでどうつながるかわからない。だからこそ読者には選り好みせず、さまざまな分野を横断してもらいたい。『新プロパガンダ論』でも話題になった天皇制については、アカデミズムとジャーナリズムを横断する原武史の『平成の終焉』が最良の入門書。天皇の生の声が聞ける一次資料としては、『昭和天皇 最後の侍従日記』が新書で手に取りやすい。また『日本の酒』も、関係ないように見えて、近代日本の産業振興や戦争が重要なファクターとして登場する。
もう少しプロパガンダに近いところでは、『陰謀史観』と『白人ナショナリズム』があげられよう。歴史修正主義にせよ、Qアノンにせよ、トンデモ史観や陰謀論の構造はそれほど複雑ではない。その概略を知っておけば、仮に目の前に新出のものがあらわれても「ああ、あのパターンか」と冷静に距離が取れるようになる。また今後のプロパガンダでは、中国のレッドツーリズムのように、五感をすべて動員できる観光がかならず重要になってくる。『北朝鮮と観光』は、ベールに包まれた隣国を知るうえでも役に立つ一冊。最後に、『満洲分村移民を拒否した村長』はタイトルのとおり、戦前、満洲への農業移民に抗った長野県のある村長の話。「お前のところはなぜ人を出さないのか」という同調圧力に屈せず、国策の問題点を見抜いたその思想と行動は、青年期、市民による自主的な学習グループ・伊那自由大学に参加し、熱心に学んだことで培われたという。非常時が慢性化し、自粛圧力が吹きすさぶ今日、味わうべきエピソードではないか。
『新プロパガンダ論』は、反時代的な本である。ハッシュタグ運動や専門主義が謳歌される時代にあって、個々の政治的なイシューを扱いながら、それと同時に、世の中で受け入れられているさまざまな価値観に疑問を挟み、この世界や社会について総合的に語ろうとする試みだからである。
『道徳の系譜』や『大衆の反逆』を選書した理由もこれと無関係ではない。筆者は、当然のように振りかざされる正義への懐疑を前者に、総合知を毀損して凱歌をあげる専門家への懐疑を後者に学んだ。この2冊との出会いは、高校生のときだった。新しい歴史教科書をつくる会の運動に興味をもち、その主要な論客であった西尾幹二と西部邁の著作を読むなかで、偶然(でもないが)たどりついたのだ。
知識はどこでどうつながるかわからない。だからこそ読者には選り好みせず、さまざまな分野を横断してもらいたい。『新プロパガンダ論』でも話題になった天皇制については、アカデミズムとジャーナリズムを横断する原武史の『平成の終焉』が最良の入門書。天皇の生の声が聞ける一次資料としては、『昭和天皇 最後の侍従日記』が新書で手に取りやすい。また『日本の酒』も、関係ないように見えて、近代日本の産業振興や戦争が重要なファクターとして登場する。
もう少しプロパガンダに近いところでは、『陰謀史観』と『白人ナショナリズム』があげられよう。歴史修正主義にせよ、Qアノンにせよ、トンデモ史観や陰謀論の構造はそれほど複雑ではない。その概略を知っておけば、仮に目の前に新出のものがあらわれても「ああ、あのパターンか」と冷静に距離が取れるようになる。また今後のプロパガンダでは、中国のレッドツーリズムのように、五感をすべて動員できる観光がかならず重要になってくる。『北朝鮮と観光』は、ベールに包まれた隣国を知るうえでも役に立つ一冊。最後に、『満洲分村移民を拒否した村長』はタイトルのとおり、戦前、満洲への農業移民に抗った長野県のある村長の話。「お前のところはなぜ人を出さないのか」という同調圧力に屈せず、国策の問題点を見抜いたその思想と行動は、青年期、市民による自主的な学習グループ・伊那自由大学に参加し、熱心に学んだことで培われたという。非常時が慢性化し、自粛圧力が吹きすさぶ今日、味わうべきエピソードではないか。
政治の戦場はいまや噓と宣伝のなかにある
辻田真佐憲
1984年、大阪府生まれ。評論家・近現代史研究者。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院文学研究科中退。政治と文化芸術の関係を主なテーマに、著述、調査、評論、レビュー、インタビューなどを幅広く手がけている。単著に『「戦前」の正体』(講談社現代新書)、『防衛省の研究』(朝日新書)、『超空気支配社会』『古関裕而の昭和史』『文部省の研究』(文春新書)、『天皇のお言葉』『大本営発表』(幻冬舎新書)、『空気の検閲』(光文社新書)、共著に『教養としての歴史問題』(東洋経済新報社)、『新プロパガンダ論』(ゲンロン)などがある。監修に『満洲帝国ビジュアル大全』(洋泉社)、『文藝春秋が見た戦争と日本人』(文藝春秋)など多数。軍事史学会正会員、日本文藝家協会会員。