【 #ゲンロン友の声|019 】どうしたら本が早く読めますか
webゲンロン 2021年8月10日配信
東さん、こんにちは。ゲンロンの本やシラスの放送をいつも楽しく読んで/見ています。
以前、突発放送のなかで東さんがものすごい勢いで文章を読んでいる様子を拝見しました。仕事柄たくさん文章を読む機会があるので、読むスピードを上げるコツがあれば教えてほしいです。(東京都・30代・男性・会員)
以前、突発放送のなかで東さんがものすごい勢いで文章を読んでいる様子を拝見しました。仕事柄たくさん文章を読む機会があるので、読むスピードを上げるコツがあれば教えてほしいです。(東京都・30代・男性・会員)
こんにちは。シンプルでいい質問だと思います。ぼくもツイッターで炎上しているばかりでなく、こういうノウハウ系というかライフハック系の質問にもどしどし答えていきたいものです。
というわけでマジメにお答えしますと、ぼくはけっして速読術を学んだわけではありません。でも職業柄開発してきた独自の方法論はあって、それは「段落の最初と最後の文だけを読む」というものです。たぶん放送でご覧になったのはそれだと思います。
段落は意味のまとまりです。導入は頭に書かれ、結論はだいたい最後に来ます。それ以外の部分は、議論を補強する例示などです。本をきちんと読もうとするならば、そこはとても大切なところです。そう思っていなければぼくも本なんて書きません。けれども、細かい論証は措いておき、取り急ぎ著者の言いたいことだけを掴むのであれば、段落のつながりを押さえて頭のなかで論理展開を推測すればなんとかなります。むろん、これは、段落単位で意味がまとまっておらず、議論が論理的に展開していない本には使えない。しかしそれは裏返せば、このやりかたであるていど流れが追えなければダメな本ということでもあるので、そういう判定にも使える方法でもあるわけです。
あともうひとつのコツは「漢字とひらがなの比率に気をつける」ことでしょうか。漢字が多いとページは暗く(黒く)なります。そして哲学や評論においては、たいてい大事なところは漢字が多くなる。そのため「なんとなくページが暗い」「なんとなく明るい」というのを視覚的に読み取り、重要な主張が書いてありそうな部分を直感的に選ぶという方法論が可能になります。これと上記の「段落読み」を組み合わせると、けっこうなスピードで本は読めます。
ただここで忘れてはならないのは、こんなハックが機能するのは、「著者の言いたいことがだいたい予測できている」ときでしかないということです。「段落読み」にしろ「黒いところ読み」にしろ、要は、本の内容のごく一部を受け取り、それをもとに全体を頭のなかで組み立てる──つまり、圧縮されたデータをもとに全体の議論を「解凍」するような作業でしかない。相手の主張があるていど予測できていないと、このハックはまったく機能しません。ぼくがそういう速読ができるのは、少なくとも哲学とか評論の世界においては、かなり経験を積んでいて、たいていの書き手や著作については「どうせこういうことを書いているんだろう」とアタリをつけることができるからにほかなりません。だから本当はそこでは、本質的にはなんの新しい経験にも出会っていない。でも大人になると、読んでもなにも手に入らないと知っていても、いろいろ付き合いだかなんだかで本を読まなければならないことがあるわけです。上記の方法はそういうときには使えます。しかし裏返せば、そういうときにしか使えない。
あたりまえのことですが、新しい知識を手に入れ、新しい考えかたに出会うためには、時間も労力もかかります。そこにハックはないのです。人生にハックがないのと同じように。(東浩紀)
というわけでマジメにお答えしますと、ぼくはけっして速読術を学んだわけではありません。でも職業柄開発してきた独自の方法論はあって、それは「段落の最初と最後の文だけを読む」というものです。たぶん放送でご覧になったのはそれだと思います。
段落は意味のまとまりです。導入は頭に書かれ、結論はだいたい最後に来ます。それ以外の部分は、議論を補強する例示などです。本をきちんと読もうとするならば、そこはとても大切なところです。そう思っていなければぼくも本なんて書きません。けれども、細かい論証は措いておき、取り急ぎ著者の言いたいことだけを掴むのであれば、段落のつながりを押さえて頭のなかで論理展開を推測すればなんとかなります。むろん、これは、段落単位で意味がまとまっておらず、議論が論理的に展開していない本には使えない。しかしそれは裏返せば、このやりかたであるていど流れが追えなければダメな本ということでもあるので、そういう判定にも使える方法でもあるわけです。
あともうひとつのコツは「漢字とひらがなの比率に気をつける」ことでしょうか。漢字が多いとページは暗く(黒く)なります。そして哲学や評論においては、たいてい大事なところは漢字が多くなる。そのため「なんとなくページが暗い」「なんとなく明るい」というのを視覚的に読み取り、重要な主張が書いてありそうな部分を直感的に選ぶという方法論が可能になります。これと上記の「段落読み」を組み合わせると、けっこうなスピードで本は読めます。
ただここで忘れてはならないのは、こんなハックが機能するのは、「著者の言いたいことがだいたい予測できている」ときでしかないということです。「段落読み」にしろ「黒いところ読み」にしろ、要は、本の内容のごく一部を受け取り、それをもとに全体を頭のなかで組み立てる──つまり、圧縮されたデータをもとに全体の議論を「解凍」するような作業でしかない。相手の主張があるていど予測できていないと、このハックはまったく機能しません。ぼくがそういう速読ができるのは、少なくとも哲学とか評論の世界においては、かなり経験を積んでいて、たいていの書き手や著作については「どうせこういうことを書いているんだろう」とアタリをつけることができるからにほかなりません。だから本当はそこでは、本質的にはなんの新しい経験にも出会っていない。でも大人になると、読んでもなにも手に入らないと知っていても、いろいろ付き合いだかなんだかで本を読まなければならないことがあるわけです。上記の方法はそういうときには使えます。しかし裏返せば、そういうときにしか使えない。
あたりまえのことですが、新しい知識を手に入れ、新しい考えかたに出会うためには、時間も労力もかかります。そこにハックはないのです。人生にハックがないのと同じように。(東浩紀)
東浩紀
1971年東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。株式会社ゲンロン創業者。著書に『存在論的、郵便的』(第21回サントリー学芸賞)、『動物化するポストモダン』、『クォンタム・ファミリーズ』(第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』、『弱いつながり』(紀伊國屋じんぶん大賞2015)、『観光客の哲学』(第71回毎日出版文化賞)、『ゲンロン戦記』、『訂正可能性の哲学』、『訂正する力』など。
ゲンロンに寄せられた質問に東浩紀とスタッフがお答えしています。
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