【 #ゲンロン友の声|018 】話がうまくなるにはどうしたらいいですか
webゲンロン 2021年6月8日配信
初めまして。友の会の会員ではありませんが、質問させて頂きたいことがあり、フォームを送らせて頂いています。
私は、話す時にどうしても、自分の頭に思い浮かんだことをどんどんと話してしまいます。頭に浮かんだ内容を、すぐ話すのではなく、頭の中で一旦考えてから話そうと思うのですが、今思い浮かんだことを忘れたくないという気持ちや、忘れて話せなくなってもどかしくなることを避けたくなるので、すぐに口に出してしまいます。哲学対話などの経験をしても、話すことが未だに得意ではありません。
小学校教員を目指しているので、直そうと思っているのですが、とても難しく苦労しています。東さんがお話しされる時に、気をつけていらっしゃることなどあれば、教えて頂けると嬉しいです。(東京都・20代・女性・非会員)
私は、話す時にどうしても、自分の頭に思い浮かんだことをどんどんと話してしまいます。頭に浮かんだ内容を、すぐ話すのではなく、頭の中で一旦考えてから話そうと思うのですが、今思い浮かんだことを忘れたくないという気持ちや、忘れて話せなくなってもどかしくなることを避けたくなるので、すぐに口に出してしまいます。哲学対話などの経験をしても、話すことが未だに得意ではありません。
小学校教員を目指しているので、直そうと思っているのですが、とても難しく苦労しています。東さんがお話しされる時に、気をつけていらっしゃることなどあれば、教えて頂けると嬉しいです。(東京都・20代・女性・非会員)
質問ありがとうございます。こういうのは個人差が大きいと思いますので、ぼくのアドバイスが役に立つかわかりません。おまけに将来小学校教員を目指しているとのことで、ぼくの話し方が適しているとはますます思えないのですが、けれどもいちおう僕の考えをお話します。
で、ぼくが話すときに気をつけていることなのですが、まずふだん日常生活で雑談をしているときは、あたりまえですがなにも気をつけていません。すなおに頭に思い浮かんだことを頭に浮かんだ順番で声に出しています。なぜこんな基礎から始めたかというと、とりあえず第一に「ふだん話すとき」と「きちんと話すとき」でしっかり頭を切り替えてほしいからです。この2つはまったく別物で、この切り替えがうまくいかないと話はうまくなりません。
第二に、その切り替えが済んだうえでつぎに区別してほしいのは、「ひとりで一方向的に話すか」か「相手とキャッチボールで話すか」です。これもまたまったく別物で、こちらも切り替えないと話がうまくなりません。ぼくの経験では、自分は話がうまくないと思っているひとは、たいていこの切り替えがうまくいっていない。「相手とキャッチボールで話している」ときに突然一方向モードで話し出してしまい、相手が戸惑っているのをみて、あちゃー失敗したーとなるわけです。
それで、「きちんと話すとき」でも「ひとりで一方向的に話す」場合は、ちゃんと話を組み立ててから落ち着いて話せばいいので、それほど難しくありません。頭のなかで話がまとまらない場合は、話がうまくないというよりも、きちんと内容について考えられていないと判断するべきで、そういうときは話し出すまえに一呼吸を置きましょう。
問題は「きちんと話すとき」の「相手とキャッチボールで話す」モードで、これがいちばん難しい。ここには確かにコツが必要になります。それもまた簡単に表現するのは難しいのですが、それでもあえてひとことでいえば、「自分の話をするだけでなく、ゲームをしているように会話全体を組み立てる」というのがぼくがそういうときに意識していることです。つまり、相手の話を聴きながら、それを理解しようとするだけではなく、つぎに自分が話すことやそれへの相手の応答もイメージして、さらに頭の中に第三者をおき、この会話全体が盛り上がっているように見えるためにはどうすればいいだろう、と考えながら話している。いいかえればぼくは、たとえ密室で2人きりで会話しているときにも、「きちんと話す」モードのときには、必ず頭のなかに観客を設定して、トークショーを組み立てるように話しているのですね(繰り返しますが、雑談のときはそんなことはしてませんよ!)。これは常識的にはすごくヘンに聞こえると思いますが、そのほうが、なんといえばいいのかな、結果的に話が「客観的」になって、説得力も増すのです。ぼくはむかしからそういう習慣があって、だからゲンロンカフェの登壇とかもストレスにならないのだと思います。要は、むかしから脳内トークショーばかりやっていたひとなのです。
ところで質問者の方は「今思い浮かんだことを忘れたくないという気持ち」があって、その焦りもまた会話を阻害するのだと述べられています。気持ちはよくわかります。ゲンロンカフェでは長く話すひとが多いので、ぼくもしばしば、今いいこと思いついた、早く応答したい! という気持ちになることがあります。でも相手が偉いひとの場合は口を挟めない。そういうときどうするかというと、ぼくはじつは指を折り曲げています。こんど放送をよーく見てみてください。ぼくはときおり、左手の指を机のしたで折り曲げていることがあります。そういうときは、あ、ここ対話もりあげるポイントだなと思って、答えを返す時のキーワードを忘れないように指でメモっているのです。そういうコツを自分なりに開発すると、「今思い浮かんだこと」も忘れなくなりますよ!(東浩紀)
で、ぼくが話すときに気をつけていることなのですが、まずふだん日常生活で雑談をしているときは、あたりまえですがなにも気をつけていません。すなおに頭に思い浮かんだことを頭に浮かんだ順番で声に出しています。なぜこんな基礎から始めたかというと、とりあえず第一に「ふだん話すとき」と「きちんと話すとき」でしっかり頭を切り替えてほしいからです。この2つはまったく別物で、この切り替えがうまくいかないと話はうまくなりません。
第二に、その切り替えが済んだうえでつぎに区別してほしいのは、「ひとりで一方向的に話すか」か「相手とキャッチボールで話すか」です。これもまたまったく別物で、こちらも切り替えないと話がうまくなりません。ぼくの経験では、自分は話がうまくないと思っているひとは、たいていこの切り替えがうまくいっていない。「相手とキャッチボールで話している」ときに突然一方向モードで話し出してしまい、相手が戸惑っているのをみて、あちゃー失敗したーとなるわけです。
それで、「きちんと話すとき」でも「ひとりで一方向的に話す」場合は、ちゃんと話を組み立ててから落ち着いて話せばいいので、それほど難しくありません。頭のなかで話がまとまらない場合は、話がうまくないというよりも、きちんと内容について考えられていないと判断するべきで、そういうときは話し出すまえに一呼吸を置きましょう。
問題は「きちんと話すとき」の「相手とキャッチボールで話す」モードで、これがいちばん難しい。ここには確かにコツが必要になります。それもまた簡単に表現するのは難しいのですが、それでもあえてひとことでいえば、「自分の話をするだけでなく、ゲームをしているように会話全体を組み立てる」というのがぼくがそういうときに意識していることです。つまり、相手の話を聴きながら、それを理解しようとするだけではなく、つぎに自分が話すことやそれへの相手の応答もイメージして、さらに頭の中に第三者をおき、この会話全体が盛り上がっているように見えるためにはどうすればいいだろう、と考えながら話している。いいかえればぼくは、たとえ密室で2人きりで会話しているときにも、「きちんと話す」モードのときには、必ず頭のなかに観客を設定して、トークショーを組み立てるように話しているのですね(繰り返しますが、雑談のときはそんなことはしてませんよ!)。これは常識的にはすごくヘンに聞こえると思いますが、そのほうが、なんといえばいいのかな、結果的に話が「客観的」になって、説得力も増すのです。ぼくはむかしからそういう習慣があって、だからゲンロンカフェの登壇とかもストレスにならないのだと思います。要は、むかしから脳内トークショーばかりやっていたひとなのです。
ところで質問者の方は「今思い浮かんだことを忘れたくないという気持ち」があって、その焦りもまた会話を阻害するのだと述べられています。気持ちはよくわかります。ゲンロンカフェでは長く話すひとが多いので、ぼくもしばしば、今いいこと思いついた、早く応答したい! という気持ちになることがあります。でも相手が偉いひとの場合は口を挟めない。そういうときどうするかというと、ぼくはじつは指を折り曲げています。こんど放送をよーく見てみてください。ぼくはときおり、左手の指を机のしたで折り曲げていることがあります。そういうときは、あ、ここ対話もりあげるポイントだなと思って、答えを返す時のキーワードを忘れないように指でメモっているのです。そういうコツを自分なりに開発すると、「今思い浮かんだこと」も忘れなくなりますよ!(東浩紀)
東浩紀
1971年東京生まれ。批評家・作家。東京大学大学院博士課程修了。博士(学術)。株式会社ゲンロン創業者。著書に『存在論的、郵便的』(第21回サントリー学芸賞)、『動物化するポストモダン』、『クォンタム・ファミリーズ』(第23回三島由紀夫賞)、『一般意志2.0』、『弱いつながり』(紀伊國屋じんぶん大賞2015)、『観光客の哲学』(第71回毎日出版文化賞)、『ゲンロン戦記』、『訂正可能性の哲学』、『訂正する力』など。
ゲンロンに寄せられた質問に東浩紀とスタッフがお答えしています。
ご質問は専用フォームよりお寄せください。お待ちしております!