ゲンロンサマリーズ(6)『中国化する日本』要約&レビュー|徳久倫康

初出:2012年9月21日刊行『ゲンロンサマリーズ #34』
2023年2月22日、ゲンロンカフェにて経済学者の梶谷懐さん、評論家の與那覇潤さん、近現代史研究者の辻田真佐憲さんをお迎えする鼎談イベント「日本と世界は「中国化」したのか──制度、資本、権威主義【『ゲンロン13』刊行記念】」が開催されます。その開催を記念し、與那覇さんの著書『中国化する日本』の要約&レビューを無料公開いたします。イベントの補助線に、どうぞご覧ください。
梶谷懐×與那覇潤×辻田真佐憲「日本と世界は「中国化」したのか──制度、資本、権威主義【『ゲンロン13』刊行記念】」
梶谷懐×與那覇潤×辻田真佐憲「日本と世界は「中国化」したのか──制度、資本、権威主義【『ゲンロン13』刊行記念】」

輿那覇潤『中国化する日本──日中「文明の衝突」一千年史』、文藝春秋、2011年11月22日

要約
レビュー
本書は、若手の日本史家である與那覇潤の3冊目の著作で、「紀伊國屋じんぶん大賞2011」では第4位に選ばれるなど、刊行後半年以上を経たいまも話題のベストセラーである。本書を読んでまず初めに注意を惹かれるのは、前2作とは大幅に異なるその語り口だろう。もともと大学での講義を下敷きにしていることもあり、「○○は最新の歴史学における常識」「△△が□□であることは学会の共通見解」といったふうに力強く、かつ皮肉の効いた断定調で、論旨が展開されていく。
だが誤解してはならないのは、本書のなかでも明言されているとおり、中国化は世界標準であり必然だと記す一方で、著者はそれを決して肯定的に評価してはいない点だ。『atプラス12』(太田出版)の東島誠氏[★1]との対談では、刊行以来中国化肯定論者であるという誤解が広がっていることを嘆きながら、あらためて価値判断については留保していることを述べている。この誤解の主たる原因はその語り口にありそうだが、本書を丁寧に読めば、むしろ著者は中国化に対して、決して好意的ではないことがわかるはずだ。第10章で述べられる日本の未来予想図では、小泉人気や橋下人気を中国化がもたらす必然的な現象と位置づけつつ、明らかにそれを揶揄してもいる。また、ツイートを参照する限り、筆者は橋下市長に対し、明確に否定的な立場を取っている。
中国化を避けがたい現実としながらも、そのうえでいかなる戦略を採るか。本書の挑発的な文体は、中国化の否応無さを私たちにつきつけ、それを前提に議論を先に進めるためにこそ、あえて選び取られている。
『ゲンロンサマリーズ』は2012年5月から2013年6月にかけて配信された、新刊人文書の要約&レビューマガジンです。ゲンロンショップにて、いくつかの号をまとめて収録したePub版も販売していますので、どうぞお買い求めください。
・『ゲンロンサマリーズ』ePub版2012年9月号
・『ゲンロンサマリーズ』Vol.1-Vol.108全号セット
・『ゲンロンサマリーズ』ePub版2012年9月号
・『ゲンロンサマリーズ』Vol.1-Vol.108全号セット


徳久倫康
1988年生まれ。早稲田大学文化構想学部卒。2021年度まで株式会社ゲンロンに在籍。『日本2.0 思想地図βvol.3』で、戦後日本の歴史をクイズ文化の変化から考察する論考「国民クイズ2.0」を発表し、反響を呼んだ。2018年、第3回『KnockOut ~競技クイズ日本一決定戦~』で優勝。