関西からアートで革命起こすしかないんちゃう?──笹岡由梨子×上田洋子「関西アート、関西弁、そして関西とロシアの近さについて」イベントレポート

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ゲンロンα 2020年10月14日配信

 10月9日、関西について関西弁で語りつくす待望の関西弁ナイトが実現したねん。せっかくやからイベントレポートも関西弁で書かせてもらうで。 
 ゲストは関西を拠点に活動してる現代美術家の笹岡由梨子。めっちゃパンチの効いた作品つくりまくってて、今年に入って「咲くやこの花賞」と「京都府文化賞奨励賞」をダブル受賞したっていうから、それだけでもなんとなくすごさわかるんちゃう? 実際にどんなおもろい作品つくってはるかは下で紹介するから要チェックや。 
 笹岡さんを呼んだんはゲンロン代表の上田洋子。上田さんがロシアのこと研究してるんはみんな知ってると思うけど、じつは大阪府豊中市出身の関西人でもあるんやで。2年くらい前に大阪で笹岡さんの作品見て、なんかピンと来るもんがあったらしいわ。 
 イベントの途中からは笹岡さんとタッグ組んでいろいろ展示の企画やってるポーランド人キュレーターのパヴェウ・パフチャレクも登壇したし、最終的には東浩紀も登壇していろんな話で盛り上がった。よかったらレポート読んでったって~。(ゲンロン編集部)

 

生と死をテーマにした「キモかわいい」インスタレーション


 まずは笹岡さんがどんな作品つくってるんかいう話やな。笹岡さん自身のプレゼンをもとに紹介してくで。 

 笹岡さんがおもにつくってるんは、映像を使ったインスタレーション作品。どんな映像流してるんかっていうたら、たとえばこんな感じや。 

 
 

 これは2019年の「太陽」って作品の一部からとってきた画像やけど、上田さんも言ってたとおり、作品に「キモかわいい」的なインパクトがめっちゃあって、1回見たら頭からこびりついて離れへん感じやねん。本人に言わせたらたんに「かわいい」もんらしいんやけど。 

 この作品つくるきっかけになったんは、笹岡さんのお父さんががんになってもたこと。お父さんの死を近いところに感じたことが創作の原動力になったんやな。上の画像はお父さんのがんを摘出する手術とそれにまつわる家族の奮闘を描いた動画のキャプチャで、「太陽」ではそれ以外にも「ロシアにとってのお父さん」の墓であるレーニン廟を笹岡さん風に再現したインスタレーションとかが一緒になって展示された(笹岡さんとロシアや東欧のつながりについてはもうちょい後ろで説明するで)。 

 笹岡さんはほかにも「生と死」みたいなことをテーマにした作品つくってて、たとえば2017年の「Hello! Holly」なんかもそうや。愛犬の死を機に、それまではなんでも他人にきつく当たってまうとこがあった笹岡さんは慈しみとか優しい気持ちを手に入れたらしくて、その感じを忘れたくなくてつくったんがこの作品なんやって。 

 そういうテーマを、異物感のあるCG映像(言うてもたらバレバレの合成映像ってことやな)を使って表現するっていうんがこれまでの笹岡さんの作品では多かった。けど、笹岡さんはずっとおんなじことやるひとってわけやない。いまは、コロナ禍を機に「信じられるんは己の体と食いもんだけや」って気持ちになったのを作品化するパフォーマンス・アートっぽいやつを構想したりもしてるらしい。 

 このへんは、笹岡さんが母校の京都市立芸術大学で学んだことのひとつとして挙げてた「おんなじ展開でクオリティだけ上がってもしゃあないで。冒険せぇ!」っていう精神を体現しとる感じや。わかりやすい枠にはまって売れそうなもんを目指すんやなくて、笹岡さんがつこてた表現で言うたらその時々の自分自身の「煮こごり」みたいなもんをばーんとぶつけてわかるひとにわかってもろたらええわっていう関西アートスピリッツみたいなもんがあるんやな。 

 笹岡さんの作品の雰囲気とかパワーはイベント動画のなかのプレゼン見るだけでもバンバン伝わってくるから、ぜひ見てみてほしいわ。 

 
 

 

関西と東欧の親和性について


 笹岡さんは東欧を中心に海外でも作品の展示をしてるんやけど、なんで東欧なんかって話もしてくれたで。 

 最初のきっかけは、もともと虚弱体質やった笹岡さんが気合入れるためにソビエト軍歌を聞き始めたこと。大学の4回生のころの話らしいんやけど、笹岡さんが言うにはそれでほんまに体も強くなったっていうから驚きや。 

 笹岡さんはそれからも、チェコで盛んな操り人形劇を作品に取り入れたり、2017年に北マケドニア共和国でのアーティスト・イン・レジデンスに参加したりして東欧への興味を深めていったらしいんやけど、本格的に東欧での活動が始動したんは2019年の「セレブレーション-日本ポーランド現代美術展-」(セレブレーション展)や。 

 セレブレーション展は、ポーランドの作家と関西を中心とする日本の作家が集まった国際交流展や。展示は京都とポーランドの2都市の計3都市で行われたんやけど、この展示つくるときに大活躍したのが笹岡さんなんやって。日本やったらインストーラーさんが展示のセッティングのこといろいろやってくれるわけやけど、海外ではそういうわけにはいかんって笹岡さんは気づいたんやな。そこで「自分らの作品は自分で守るんや」って奮起して、めっちゃ頑張って働いて展示を成功させた。途中から登壇したパフチャレクさんはセレブレーション展のキュレーターやってたひとなんやけど、曰く「由梨子はこの展示のヒーローや」ってことにまでなってたらしいわ。すごい話やな。 

 で、笹岡さんはこれからパフチャレクさんとタッグ組んで、ポーランド、京都、ロシアと展覧会やっていくんやって。ほかにも「関西×東欧」ででかい国際展をやるのも企画してるとこらしい。 

 笹岡さんが言うには、関西と東欧諸国には親和性がある。簡単に言うと、東京と関西の関係が、アメリカ・西欧とロシア・東欧の関係に似とるってことや。いまの世のなかの中心になって経済とか回しとるんは東京とかアメリカ・西欧かもしれんけど、それとは一味ちがう濃いぃもんぶつけておもろいことやったるで!って感じやな。笹岡さんは「革命」って言葉もよう使ってて、それも印象的やった。関西に根づいたアヴァンギャルドの精神を引き継いで、それを爆発させてるんやわ。 

 
 

 

関西弁論、そして新たな関西論へ


 イベントの後半では関西弁の話やらもっとディープな関西の話にもなった。 

 まず関西弁のことやけど、上田さんがいろいろ本読んで調べてきてて、そこで言われてること教えてくれたわ。 

 たとえば、「関西人は声が大きい」ってのはよう言われることやと思うんやけど、山下好孝の『関西弁講義』いう本によると、あれは要は声が高いってことらしいねん。関西弁はアクセント(強弱)だけやなくてトーン(高低)でも音をコントロールするってとこに特徴があって、それで高い音も多くなりがちなんやそうやわ。 

 これにはパフチャレクさんも同意してた。パフチャレクさん曰く、関西弁のメロディアスな感じはなんとなくロシア語っぽくて、それに対して標準語はポーランド語っぽいらしい。上田さんも、ロシア語はアクセントがあると母音が長くなる言語やから、その辺が関西弁に似てるかもなって言うてたわ。要は「~しときぃや」とか「気ぃ悪いわ」みたいな感じやな。関西弁が子音より母音を大事にする言葉やってのは、前田勇の『大阪弁入門』でも言われてることなんやって。 

 
 

 終わりのほうでは、今回のイベントに興味津々やった東さんも登壇したで。東さんいうたらやっぱ「東京のひと」ってイメージ強いし、なんで関西の話おもろそうって思ったんかっていうのは気になるとこやんな。 

 ちょうどそこんとこを笹岡さんがきいてくれて、東さんもそういう話をしてくれた。東さんが言うには、大阪出身で大阪万博にも深く関わった小松左京の存在があったり、これまた関西出身の柄谷行人や浅田彰の存在もあったりで、ある種の日本の文化の中心は関西にあるんちゃうかっていうのはずっと思ってたことらしいわ。 

 話はこれだけやなくて、1995年の阪神淡路大震災とオウム真理教事件に対する知識人の反応の分かれ方とか、アメリカ、韓国、中国といった諸外国への意識の向き方の東西差みたいなえらい深い話にもつながっていったから、それもぜひ動画で見てな。 

 そんなわけで話は尽きんかったんやけど、とにかくここからどんどん新しい関西論が展開していくんちゃうかっていう気にさせてくれるおもろいイベントやったわ。ゲンロンカフェでもちょくちょく関西イベントやってくことになるんちゃう? 知らんけど。(住本賢一) 

 
 

 こちらの番組はVimeoにて公開中。レンタル(7日間)600円、購入(無期限)1200円でご視聴いただけます。 
 URL=https://vimeo.com/ondemand/genron20201009 

 


笹岡由梨子×上田洋子「原始、すべては関西であった──関西アート、関西弁、そして関西とロシアの近さについて」 
(番組URL=https://genron-cafe.jp/event/20201009/
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