2024年5月25日に〈ゲンロン 大森望 SF創作講座〉第7期の最終講評会が行われました。
「第7回ゲンロンSF新人賞」の選考会には29篇の提出があり、主任講師の大森望氏によって6篇の最終候補が選出されました。その中から、ゲスト講師10名(新井素子、円城塔、柴田勝家、斜線堂有紀、法月綸太郎、藤井太洋、井手聡司、井上彼方、小浜徹也、溝口力丸各氏)による投票と、菅浩江、伊藤靖、東浩紀、大森望各氏の審査により新人賞を下記のように決定しました。
作品を提出いただいた受講生のみなさま、選考にご協力いただいた講師のみなさまに、あらためて御礼申しあげます。
最終講評会の模様
大庭繭
あらすじ
ホステスとして働く「わたし」は、透明ではち切れそうな、水風船のような「姉さん」と暮らしている。仕事を終えて家に帰ると、ベッドの上の姉さんの、柔らかさと冷たさに身を委ねる。そんな日々を送るわたしのまえに、ある日、幽霊のように透けた「女」が現れる。彼女はわたしを「ママ」と呼び、嘘のような話を始める——自分は他人の脳にアクセスする技術で、ママに会いにきた。この世界は未来のママの、記憶にすぎないのだ、と。
選評
何かが起きていることがしっかり伝わってくる導入と、娘の登場まで息をつかせない展開が素晴らしい。[……]既存の「SF」を読む喜びはそれほど大きくないけれど、有り余る体験でした。——藤井太洋
抒情的な文章や雰囲気が素晴らしかった。[……]この作品の魅力は何より文章。この作者の方は文章に宿る身体感覚が唯一無二だと思う。——斜線堂有紀
受賞のことば
最初は全然書けなくて、泣きながら〆切に間に合せ、講座の打ち上げのあと始発電車の中でまた泣きながら帰るという日々でした。そんな私が最後まで書き続けられたのは、どんな作品も受け止めてくださった大森先生や講師の皆様、励まし合えた同期の皆様、見守ってくださった先輩方のおかげです。本当にありがとうございました!!
これからもっと、よいSFを、誰かの「ない記憶」になれるような物語を書いていけるように頑張ります!
中野伶理
あらすじ
美大で能面の修復を手掛ける飛鳥のもとに、ある日、父の死の知らせが届く。彼女は遺品を整理するなかで、父が能面制作をしていたこと、そして十年以上前に死別した母の面影のある、未完成の「霊女」の面を遺していたことを知る。面の依頼者である能楽師・時雨と、人間の情動を読み取るAIデバイス「ペルソナ」の力を借りて、その面を完成させようとする飛鳥。だがその探究の先にあったのは、彼女が予想だにしない真実だった——。
選評
本作はまさしく能の「序破急」の呼吸で作品を作れていると思いました。地の文が確りとした土台として機能し、さらに行動が続くことで読む側も飽きることなく物語を楽しめました。——柴田勝家
SFアイデアをガジェットとして使いこなしつつ人間ドラマと絡め、SF的思考を通じて芸事の奥義の深淵へとにじり寄ろうとする、大変に志が高くまたそれを達成している高レベルの作品だと思いました。——井手聡司(早川書房)
受賞のことば
第7回ゲンロンSF新人賞をいただきまして、誠にありがとうございます。
私は第4期から第7期まで、計4回受講いたしました。その中で(あまり実感はないのですが)一定の成果を出すことができたのだとすれば、ひとえに「素晴らしい講師の方々と仲間に巡り合えた」ことのおかげだと思っております。
今後も頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。
藤琉
受賞のことば
僕は多分、青ざめています。もしかしたら蒼ざめているかもしれません。できれば、発破されたばかりの岩肌の、ラピスラズリのような碧でありたいと思っていますが。作品を作ることは自由そのもので、自由は僕を脅迫します。
「青ざめよ、蒼ざめよ、碧ざめよ」
そのグラデーションに振り回されながら、ほんのり笑っていること。それが僕の可能性の全てです。この度は栄誉ある賞をいただき、ありがとうございます。
池田隆
受賞のことば
このたびは第7回ゲンロンSF新人賞大森望賞をいただき、ありがとうございました。
講座の申込時は、受講後の自分がどのようになっているかなど想像もできず、とにかく勢いで申し込みを行いましたが、この様な賞をいただく形で結果を出せたことを本当に光栄に思います。これもひとえに、講師の方々、そして同期の受講生のおかげです。
この経験を無駄にしないよう、これからも小説を書き続けていきたいと思います。
選考委員
菅浩江
伊藤靖
(河出書房新社)
東浩紀
大森望
ゲンロンSF文庫は、SF創作講座から生まれた傑作を集めた電子書籍レーベルです。
誕生は2020年6月。琴柱遥『枝角の冠』(第3回ゲンロンSF新人賞受賞作)と、進藤尚典『推しの三原則』(第3回ゲンロンSF新人賞・大森望賞受賞作)に、先にリリースしていた高木ケイ『ガルシア・デ・マローネスによって救済された大地』、アマサワトキオ『ラゴス生体都市』、麦原遼『逆数宇宙』のリニューアル版を加えた合計5作品で創刊しました。
『逆数宇宙』が『SFが読みたい!2020年版』で国内篇20位に選ばれるなど、あらたな才能の発信地として注目を集めています。すべての書籍に書評家、評論家の大森望による解説がついています。