第8回ゲンロンSF新人賞

第8回ゲンロンSF新人賞」には20篇の提出があり、大森望講師選出による6篇の最終候補から、ゲスト講師11名(新井素子、円城塔、柴田勝家、新川帆立、法月綸太郎、藤井太洋、井手聡司、井上彼方、小浜徹也、田中玲遠、溝口力丸)による投票と、菅浩江、斜線堂有紀、伊藤靖、東浩紀、大森望の審査により、下記のように決定いたしました。

作品を提出いただいた受講生のみなさま、選考に協力いただいた講師のみなさまに、あらためて御礼申しあげます。選考会の模様は配信アーカイブを公開しています。

選考会の配信

受賞作一覧

ゲンロンSF新人賞 グランプリ

あらすじ

「アレ?! 私は、さっき、死んだんじゃ……」。闘病の末、恋人を想いながら死んだユイカは、気づくと大学受験当日の小田急線にいた。目の前に立った親友リツコは、彼女に衝撃の事実を告げる――ヨシミツくんと付き合った女性はみな、彼の死を引き金にするタイムループに巻き込まれる。世界はすでに4718週目、ループ参加者は6000人以上。世界の秩序を維持する「交際運用特務機関エデン」と、ループの「カンスト」を信じヨシミツくんの命を狙う過激派の戦いのなか、ユイカは彼の尊厳を守るべく行動を起こす──。

選評

非常によくできた作品。[……]まず設定は魅力的で、ループによって増える記憶保持者たちがシステムを作っているという世界観が良い。ループを繰り返すことで行政機構が土地ではなく時間軸上で発生し、しかもリセットのたびに強固なものになっていく。

[……]いわゆるセカイ系に近く「自分、恋人、世界」の三者によって物語が構成されるが、そこからの脱却こそが本作のカタルシスになっている。──柴田勝家

受賞のことば

栄誉ある賞を賜り、心より御礼申し上げます。当初はご評価をいただきつつも梗概選出に届かず、突破口を暗中模索していました。

ですが、講座を通じ、講師の皆さま、同期や先輩諸氏との交流とご助言に支えられ、最後まで書き続けることができました。

最終実作で初めて選出いただいた時は小躍りし、受賞に際しては喜びと緊張で指先が震えました。講座での学びを糧に、これからも研鑽を重ね、反復と更新のタイムループをいとわず創作に取り組む所存です。

ゲンロンSF新人賞 優秀賞

DIVA

形霧燈

あらすじ

「美声の歌姫」と謳われた歌奈は、メタバース上での全世界ライブの直後、人気絶頂のなかで公の場から姿を消した。数年後、生成AIによる商業コンテンツの読み取りを管理する「学習士」の渡井沙月は、AIに歌奈の声を学習させるべく、本人と許諾契約を結ぶよう上司に命じられる。告げられたその居場所は、入院病棟だった。歌奈の大ファンであった彼女は、癌に侵された歌姫を前に、ファンとしての自分と学習士としての自分のあいだで揺れる──。

受賞のことば

選考委員の皆様をはじめ、スタッフの皆様、講師の皆様、講座をご一緒した皆様、お話しさせていただいたOBOGの皆様、ありがとうございました。

参加を通じて多くの実践的な学びを得られたこと、また小説の執筆を習慣にできたことは大きな財産だと感じています。

これからも書き続けることで賞に報いることができればと思います。

 

ゲンロンSF新人賞 優秀賞

天齢樹の物語

道端拓也

あらすじ

はるか遠未来、かつての軌道エレベータ「天齢樹」には機械生命体が棲み、「主」と呼ばれる存在の指揮の下、天齢樹の保守を行っていた。球体ドローンの一個体「涅」は、保守作業の最中、見たことのない正八面体の結晶を発見する。その結晶は涅に通信しこう語る――自分はかつての多様な生命を再生するための、情報と素材を圧縮した存在である。「果房」と名乗るその結晶体とともに、有機生命の生存可能な環境を探すべく、涅は天齢樹を下る旅に出る。

受賞のことば

この度は優秀賞をいただき、大変光栄に存じます。ご指導いただいた講師の方々、受講生の皆さまに改めて感謝します。誠に有難うございました。

SF作家が学生時代からの夢の一つでした。その出発点に立たせていただいた喜びと共に、早く一歩目を……と逸る気持ちでいっぱいです。未熟な私は、学ぶことも山積みで、苦労しそうです。書くことが好きな自分だけは忘れず、楽しみたいと思います。

では、皆様も良い旅を。

 

大賞作は批評誌『ゲンロン19』に掲載予定です。また優秀賞を含めた3作は、電子書籍レーベル「ゲンロンSF文庫」より刊行されます。

選考委員

菅浩江

菅浩江

斜線堂有紀

斜線堂有紀

伊藤靖(河出書房新社)

伊藤靖(河出書房新社)

東浩紀

東浩紀

大森望

大森望

ゲスト講師によるメール選評

選評をいただいたゲスト講師

新井素子/円城塔/柴田勝家/新川帆立/法月綸太郎/藤井太洋
井手聡司/井上彼方/小浜徹也/田中玲遠/溝口力丸 各氏

ゲンロンSF文庫

ゲンロンSF文庫は、SF創作講座から生まれた傑作を集めた電子書籍レーベルです。

誕生は2020年6月。琴柱遥『枝角の冠』(第3回ゲンロンSF新人賞受賞作)と、進藤尚典『推しの三原則』(第3回ゲンロンSF新人賞・大森望賞受賞作)に、先にリリースしていた高木ケイ『ガルシア・デ・マローネスによって救済された大地』、アマサワトキオ『ラゴス生体都市』、麦原遼『逆数宇宙』のリニューアル版を加えた合計5作品で創刊しました。

『逆数宇宙』が『SFが読みたい!2020年版』で国内篇20位に選ばれるなど、あらたな才能の発信地として注目を集めています。すべての書籍に書評家、評論家の大森望による解説がついています。

大庭繭『うたたねのように光って思い出は指先だけが覚えてる熱』

大庭繭
『うたたねのように光って思い出は指先だけが覚えてる熱』
¥440(税込)

中野伶理『那由多の面』

中野伶理
『那由多の面』
¥440(税込)

藤琉『聖武天皇素数秘史』

藤琉
『聖武天皇素数秘史』
¥440(税込)

猿場つかさ『海にたゆたう一文字に』

猿場つかさ
『海にたゆたう一文字に』
¥385(税込)

河野咲子『水溶性のダンス』

河野咲子
『水溶性のダンス』
¥385(税込)

田場狩『秘伝隠岐七番歌合』

田場狩
『秘伝隠岐七番歌合』
¥385(税込)

榛見あきる『虹霓のかたがわ』

榛見あきる
『虹霓のかたがわ』
¥440(税込)

進藤尚典『推しの三原則』

進藤尚典
『推しの三原則』
¥385(税込)

琴柱遥『枝角の冠』

琴柱遥
『枝角の冠』
¥385(税込)

麦原遼『逆数宇宙』

麦原遼
『逆数宇宙』
¥385(税込)

アマサワトキオ『ラゴス生体都市』

アマサワトキオ
『ラゴス生体都市』
¥385(税込)

高木ケイ『ガルシア・デ・マローネスによって救済された大地』

高木ケイ
『ガルシア・デ・マローネスによって救済された大地』
¥385(税込)